Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

日本における内戦

2010-02-19 09:47:40 | その他
日本の自殺者が年3万人を超えているというのは有名な話だ。藤岡弘は「内戦状態だ」というが、
あながち誇張でもない気がする。

その原因についてだが、よくありがちな「日本が厳しい競争社会だから」というのはナンセンスだろう。
年功序列のおかげで、大手のサラリーマンは外資に比べれば競争なんてないようなもんだし、
規制のおかげで正社員と非正規雇用労働者は競争しなくてよい。
そもそも、郵貯を実質再国営化して官僚OBをトップに送りこむような国だ。ほとんど計画経済である。
むしろ競争が無いことこそ、内戦の原因だろう。

新卒至上主義や転職市場における年齢上限からも明らかなように、
日本社会というのは「失敗を前提としたシステム」ではなく、
「失敗してはいけないシステム」をベースにしている。

こういう社会では落ちた人へのサポートはとても弱い。落伍者を支えるシステムなんて作ってしまったら、
失敗の存在を公式に認めることになるからだ。

バカの一つ覚えみたいに「とにかく正社員こそが正しいんです!」と言っている人たちは、
彼ら自身が議論を迷走させ、格差を固定しているという現実に気づいていない。
「非正規雇用自体の規制」をマニフェストに掲げる社民党なんて、「失業を禁じる」という法律を
作ろうとしているようなものだ。
ノンリコースローンが普及していないのも、根っこにあるのは同じ思想な気がする。
(直接金融が発達していないというのが直接的な理由だろうが)

たとえて言うなら、広々とした道路なんだけど「みんなまっすぐ前見て歩く」という前提で作られて
いるために、手すりも何にもない橋みたいなもんである。
一見すると日本社会というのは人に優しく見えるかもしれないが、実はめちゃくちゃ自己責任な社会でもある。

ついでにいうと、こういう社会ではいろいろなものが弱くなる。
橋の上で出来ることといえば、失敗を恐れてしがみつくことだけ。運悪くギャーっと落ちていった人を
横目に、せいぜい「どうか自分は落ちませんように」と祈る以外にない。

一方、幅は狭くても、すぐ下に網が張ってあるような社会なら、そんな心配せずにどんどん前へ進めばいい。
知人に、地方の中小企業から東京の超大手企業に転職した叩き上げがいるのだけど、入社半年後に感想を
聞いてみたら「とろい奴ばっかりでびっくりした」そうだ。
そりゃそうだろう。彼は細くて手すりも網もない世界からするするとやってきたわけだから。

もちろん、世の中には手すりどころか、足場すらなくても空中浮揚してしまうホリエモンみたいな怪物も
いるのだけど、やっぱり「失敗の存在」を認めないと、社会全体の活力は萎縮してしまうと思う。
藤岡弘が言うように、日本が戦争やっているというのは事実だろう。
でもその相手は、外国でも富裕層でもなくて、我々の社会そのものだ。それに気づかない限り、戦争は終わらない。

最新の画像もっと見る

79 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
公務員と大企業 ()
2010-02-19 12:08:49
戦後の食料難の時代は自殺者はほとんどいなかったそうです。
満たされた時代だからこそ逆に自殺者が増えるのかもしれません。
三部作を読みました。
城さんは、これからは就職するにあたり大手企業に就職するのと公務員どちら良いと考えてらっしゃいますか?
ぜひ、尊敬する城さんのご意見を伺いたいです。
よろしくお願い致します。
返信する
感服しました (名無しさん)
2010-02-19 12:24:29
城さんの思想や考えが出ている文章で読んでいて納得しました。ただ、この国は部分的に、激しい競争があります。例えば、正社員同士の出世競争に伴う足の引っ張りあい。また、外食産業などの正社員の長時間労働などです。労働者全体で競争はしていませんが、部分的には激しい戦いがあります
返信する
Unknown (台湾逃亡中)
2010-02-19 12:50:58
失敗しない、と言う前提と言うより、失敗出来ない、と言う状態かな。
失敗しないと、成功もしないんだけどね、普通の人は。その、当たり前の事が出来ないのが、問題でもあって。

失敗の存在を認めないから、日本の工業製品の競争力が落ちているし、技術力だって、低下の一方なんだな、と。当たり前と言っちゃぁ当たり前なんですけどね。

取り敢えず、わざと橋から落ちて、流される先に他の橋があって、それによじ登れたりとか、隣の橋に飛び移ったりした方が、いい場合があるから、優秀な人や、ある程度お金に問題の無い人は、海外に出ちゃうんだろうね。
返信する
全体主義への道は (元派遣)
2010-02-19 13:22:43
そうですねー。
正社員になったらなったで
下を見ながらしがみついて
もっと下を見ながら
「自分はマシだ」と思うしかないんですよね。
「7割は課長~」を読みましたが
組織に何十年も飼い殺しにされる描写が
いちばんリアリティがあって怖かったです。

で、こんな状況のなかで全体主義への道は
若い世代からはじまっているのかもしれませんね。

国母バッシング若者ほど強烈
http://www.j-cast.com/2010/02/18060464.html?p=2
返信する
もう公的自殺幇助機関を創るべき (Unknown)
2010-02-19 14:37:58
根本原因にメスを入れる気がないならせめて創るべき。それが日本人の大好きな武士の情けってもんだと思う。藤岡弘もきっと賛成してくれるだろう。
そこにハロワも生活保護も精神科も置いとけば良い。もちろん臓器はリサイクル。エコです。
失敗したことさえ認められない存在が、世に充満していくという事態は、とても危険であると思う。
返信する
Unknown (戦前と戦後の自殺)
2010-02-19 15:32:52
>戦後の食料難の時代は自殺者はほとんどいなかったそうです

グラフを探してみたのですが、1943年ごろ(戦争末期)に最も自殺率が低くなっていますが、
1945年(終戦)から着実に、結構な勢いで増えています。
ttp://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2774.html

激動の時代ですし、単に食料がないだけでなく、
価値観がそれこそ根底からひっくり返り、将来にも希望が全く見えない中で、自殺者がほとんどいないというのはなかったのではないでしょうか?
(戦後は失明や中毒死の恐れのある違法アルコールが出回ったそうです。
たとえ目が見えなくなったり死ぬ可能性があっても、酔って現実を忘れる方を優先したようです。これも遠まわしの自殺かと)
返信する
歪~イビツ~ (7)
2010-02-19 17:26:44
>日本社会というのは「失敗を前提としたシステム」ではなく、
「失敗してはいけないシステム」をベースにしている。

私には少し違う気がしています。正確には現代の社会は「失敗を考慮していないシステム」ではないかと思います。
日本に欧米の考え方が入ってきたときに、欧米がその考え方に至った道筋を理解していた人はいたのでしょうか?欧米の考え方もいきなり出てきたものではないはずです。失敗を重ねてたどり着いた欧米の考え方の途中から同じようにまねてやったとしても、今までは良かったでしょう。でもいざ根本の考え方が必要となったときにはその考え方がないのでどうしたらいいのかわからない。
ある事柄を知識として知っていても、その成り立ちを知らなければ応用が解けないのと同じです。

>手すりも何にもない橋みたいなもん
現代はさらに橋の上で陣取り合戦をしているようなものです。自分に足る以上のものを欲している人が少なからずいます。もしかしたら自分が安心できるように危険を他者に押し付けているだけかもしれませんが。

>日本が戦争やっているというのは事実だろう
戦争っていうよりは紛争ですがね。泥沼化して誰にも利益がないものですが。

パラダイムを変えなければいけないが変える点がわからない、自分だけは安全圏に居たい、あっちがやり返したからこっちもやり返す。こんなギスギスした世の中じゃ誰も「他者のために」なんて考えないでしょうね。


返信する
すこし異論あり (alpha)
2010-02-19 17:31:26
現在労働基準法をブッとばす位長時間労働を強いてる職場は、
雇用が流動的になると問題がかなり改善されます。そんな所で誰も働かないからです。
次がないからしがみつかざるを得ない状況の方こそ、改善されるべきでしょう。

城氏の言う「厳しい競争なんてウソ ぬるい」というのは違う一面もあり、
会社の内部で行われている本流ポスト争いの苛烈さは米国以上です。
ただそれは良いサービスを提供して他社を追い抜くという社会的に望ましい企業間の競争ではなく、
内輪のボス猿争いに過ぎません。(しかも、利害を調整するだけの無能な「いいひと」が出世したりする)

日本の企業の大きな問題は正しい競争のベクトルに乗ろうとしないことです。
返信する
学歴社会が続いていますよね? (上端秀夫)
2010-02-19 17:37:51
一度失敗すると敗者復活しにくい仕組みですよね?
返信する
Unknown (nnnhhhkkk)
2010-02-19 17:49:07
自殺の理由の半分近くは健康問題です。
そして宗教も絡んでいると思います。
日本人は多くが無宗教なので自殺に対する抵抗感はないのだと考えられないでしょうか?
それにバブルの頃でさえ2万人自殺していました。
高齢化が進んでいけば、当然健康問題を抱える人が増えるわけで、自殺者数は増えていくと思います。
あとはメンタル面の問題ではないかと考えています。
鬱病になる人を救済するシステムを作れば、
経済的な理由や職場の人間関係などで自殺する人は減るのではないでしょうか?
でも高齢化が進む現在では自殺者を減らすのは困難だと思います。
自殺したら地獄に落ちるという宗教観を植えつけない限りは増え続けるでしょう。
返信する