デパートのシール売り場に行く。
たくさんのシールが並んでいる。
僕は大学で哲学を専攻し、
教員免許を取得し、
学校で働き、この国の教育のために
自分を高め、働いていこうと思っていた。
それが、どういうわけで
シール売り場に来ることになったのか、
人生というのは、ほんとうに不思議だ。
「わー、これ、かわいいー!」
高校生くらいの女性の声がする。
僕も同じく、『わー、これかわいいー』と声を上げる。
もはや、完全に“変なおじさん”だ。
僕はもともと、「かわいいグッズ好き」なので、
三十路男性の平均値から比べれば、
「かわいいー」の概念への理解があるのでは、と自負している。
しかし、それではだけでは到底足りない。
小学生くらいの女の子が走ってくる。
「マカロン無いかなー」
ま、マカロン?
僕はてっきり、“マカロンちゃん”という
キャラクターがあるものと思い、
小学生の視線を必死に追った。
子どもの目線は低い。
商品もそれに合わせて陳列されているはずだ。
やがて、マカロン、は、キャラクターの名称ではなく、
全般的に、お菓子を扱ったシールが多いことに気づく。
売り場にしゃがみ込み、
女の子たちの動向、および「かわいいー」の
基準を探りながら、そしてかなり楽しみながら、
シールを選ぶ。
僕が何枚もシールを買おうとしているので、
ちゃこさん(妻)は、あっけに取られていた。
とりあえず、手にとって見る、くらいに思っていたようだ。
「はい、jiveくん、選んだシールはここに入れてね」と
カゴを持ってきてくれた。
なるほど、ここに入れて買うのか。
おこづかいをもらって、
わくわくしながらシールを選ぶ気持ちになる。
どれが、かわいいかな、
どこに貼ろうかな、友だちへの手紙に
貼るとかわいいよね、あ、お気に入りの手帳とかにも
貼っちゃおうかな。
とにかく楽しい気持ちになる。
1枚50円から、150円程度、
イラストのテーマや、シールの質感などごとに、
バリエーションを持たせ、シールを選ぶ。
家に帰り、さっそく袋を開ける。
なんだか、うきうきする。
と同時に、シールをスキャナーにかけ、
ナンバリングをし、一覧を印刷する。
シールの台紙の面積と、シールの数の比率、
価格との兼ね合いなどを分析する。
一見、バラバラに見えるけれど、
数値化していくと、共通点が見えてくる。
商品として販売しているのだから、
必ず、「基本」となるパターンがあるはずだ。
コンピュータに向かって、数字を打ちこんでいたら、
ちゃこさんが、
「それ、あとで、どこかに貼ってみたら、楽しいよ」と言った。
その通りだ、と思った。
やっぱり、楽しいところから始めなくちゃ、と思う。
シールを貼るって、楽しいことなんだ。
でも、その前に、まずは、分析、だ。
それが役に立つかどうかは別として、
何に対してでも楽しく夢中になれるのは、
得な性格だよなぁ、と思った。