横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

位置情報、地理情報に関するサービス、その他日常生活から思ったことを気ままに記す不定期のんびり日記

TeleAtlas買収に思う

2007年07月27日 00時57分29秒 | 地理情報関連
 TomTomによるTeleAtlas買収は、ついにここまできたか、と思わせてくれた。何がここまでなのか、というと、市場の主導権はコンテンツプロバイダやソフトウェアツールベンダにあるのではなく、サービスプロバイダに完全に移行したのだ、ということである。
 
 最近では少なくなったが、位置情報関連のサービスを手がけたいと思ったら、まず地図会社に相談する、ということが、特に日本国内では頻繁にあった。でもこれはちょっと考えれば不思議な話である。地図会社は地図という素材を作っているが、だからといって、コンシューマや法人向けの位置情報関連のサービスに明るいとは、必ずしもいえない。鉄鋼メーカーが鉄を使って作られている自動車の利用者について詳しく知らないのと似ている。

 どの産業でもそうだが、最初は素材や基幹サービスを提供する企業が大きな役割を演じる。インターネットの勃興期にはIIJなどのISPがそれを演じたが、次第にポータルサイトに役割が移って、今やSNSやCGM系、つまりユーザー側が大きな役割を演じている。

 地図に当てはめれば、最初は地図会社、次にソフトウェアツールベンダ、そしてサービスプロバイダに主導権が移っていくことになる。今はその段階に入っている。理屈の上ではその次はユーザーが主導権を握ることになる。

 TeleAtlasはフランスで設立され、欧州で成長した。欧州は小さな国が陸続きで連なっているため、物流が国境をまたいで行われるのが日常である。その場合、国ごとにばらばらの仕様で作成された地図データでは不便この上ない。TeleAtlasは統一した仕様で複数の国をカバーすることで、一気に欧州最大の地図会社になった。その後、TeleAtlasは北米攻略を試みる。当初はe-TAK(一時期ソニーが所有していた)というカリフォルニア州の地図会社を買収したが、この会社の地図の品質はそれほどよくなかったこともあり、北米市場では常にNAVTEQの後塵を拝した。このため、ニューハンプシャーに本社があり、北米と南米の高品質な地図データを有するGDTを買収した。このことにより、TeleAtlasは欧州、北米、南米を広範囲にカバーする地図会社になった。が、しかし、GDTのデータは地図としては高い品質を持っていたが、カーナビゲーション向けのデータとしての作りこみがNAVTEQには及ばず、北米市場での巻き返しは実現していない。

 ちなみに、TeleAtlasやNAVTEQのようなワールドワイド展開をしている地図会社のもっとも有望な得意先はGISではなくて、カーナビである。TeleAtlasを例にとれば、ダイムラーと包括的な地図提供契約を締結しており、世界各地の地図提供に関して、最優先の提供権を獲得している。一方、ダイムラーの世界展開にあわせてTeleAtlasは地図データを提供し続けなければならない。それができなければ、ライバル会社のNAVTEQにダイムラーをとられてしまう。今、東南アジア、東アジアで両社がしのぎを削っている。特に中国市場ではNAVTEQの方が優勢のようだ。
 
 さて、両社の日本での展開はどうだろうか。TeleAtlasはインクリメントPと、NAVTEQはゼンリンとの提携関係を結んでいるものの、そこには資本的な結びつきもなく、効果的に日本市場に食い込めていない。しばらく前に、NAVTEQが日本の地図会社を買いたくて探しているという話を聞いていたが、その後具体的な動きになったとは聞いていない。日本の常識は世界の非常識というのが、ここでもありそうだ。

 ともあれ、世界的にはこの2強が戦っており、それ以外の地図会社は、この両社に地図を提供する「ローカルデータプロバイダ」である。いくら日本でゼンリンが大きいからといっても、「ローカルデータプロバイダ」に過ぎない。TeleAtlasを買ったのは、TomTomという「カーナビ機器メーカー(正確には機器企画販売会社)」である。TomTomは、TeleAtlasの地図データをライバルメーカーに売らなくてもよいし、売ればそのライセンス収入が入ってくるという”支配者”のうまみがある。ただ、長年TeleAtlasの収益性は低く(特に北米事業は赤字続き)、果たして狙った通りにことが進むかは不透明である。その行く末に興味があるし、それに加え、残ったもう1つ、NAVTEQがいずれは”どこに買収されるか”はさらに興味がある。

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