横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

位置情報、地理情報に関するサービス、その他日常生活から思ったことを気ままに記す不定期のんびり日記

集約される地図会社

2008年03月07日 00時20分57秒 | 地理情報関連

 私がこの業界に入った頃、そもそも地図は「紙」で、東京に本社があるいくつかの有力地図出版社が出版市場でしのぎを削っていた。東京の各社の中で商品力は「ミリオン」で知られる東京地図出版が一歩リードしていたものの、その差はそれほど大きく無く、営業力で数歩リードする昭文社が成長していった。

 あ、またノスタルジックな話題になりそうだが、今日のテーマは昔話ではなかった...(またいずれ)
 ここ2年弱でいわゆる地図会社がどんどん集約されてきているということが話題。

 紙地図からデジタルの時代に移り変わったのが90年代後半。最初の波で、昔話の東京の地図出版社は軒並みその流れに取り残され、住宅地図の盟主でカーナビに進出した北九州のゼンリン、 カーナビの先駆者であるパイオニアの子会社のインクリメントP、同じくカーナビに進出した住友電工システムズ、そして電子地図ソフトで台頭した名古屋のアルプスの4社がプレーヤーとなった。この時既に、昭文社はこの流れに乗り遅れてしまった。

 次の波はインターネットである。2000年を過ぎた頃から、CDやDVDという「商品」から、Webという新しい「サービス」にビジネスモデルを合わせた企業が台頭した。ゼンリン、インクリメントPはカーナビの驚異的な成長もあり、その収益をインターネットの無償閲覧地図サービスに惜しみなく投入し、ブロードバンドの浸透の追い風も受けて新たな収益分野を獲得した。一方、「電子地図ソフト」にこだわったアルプスは市場の急速な変化に対応できずに影響力を失った。この流れの中で、地図コンテンツ自体の地位が相対的に低下し、サービスプロバイダに主導権が移った。

 3番目の波はGoogleMapsである。「無償の地図は機能が少なく、有償版で高機能に」という暗黙の了解が残っていた日本の地図サービス業界に、”地理空間情報サービスはインターネットの検索サービスのほんの一部ですよ”と、これでもかと知らしめてくれた。こうなってくると、それまでの地図関連業界内部での競争から、Webのメインストリームプレーヤ達の競争に次元が替わり、地図会社は単なるコンテンツ提供者のポジションになった。これが現在である。

 地図コンテンツ提供会社、という視点で見ると、日本に2~3あれば十分である。1社だけでは品質競争が無くなり、ユーザー側のメリットが薄れるが、サービスプロバイダが基本ベクトルデータを購入して、それぞれのサービスに合わせた独自の最適化を実施していけば良いので、地図コンテンツ会社の果たす役割は自ずから限定される。

 世界を見ても、今はTeleAtlasとNAVTEQの2社に集約されている。それらは、昨年後半にそれぞれTomTomとNokiaに買収されたが、基本は地図コンテンツの提供という役割のみを忠実に演じている。GoogleMapsを見ていればおわかりのように、地図の提供元はその2社であることが大半だ(日本は例外的にゼンリンだけど)。

 もともと、地図会社はその地域や国に基盤を置いており、電子地図データの登場以前は多国展開の意味はそれほど無かった。しかし電子地図データはシステムで利用されるため、陸続きで異なる国が存在する欧米では「ローミング」の必要が生じた。そのため、必然的にその方向に突っ走った。ベルギーが本社のTeleAtlasがいち早く西欧の地図でそれに成功し、さらにUS進出を目指して当初カリフォルニアのETAKをソニーから買収し(たが余りうまく行かず)、その後ニューハンプシャーのGDTを買収した。NAVTEQはアジア地域での展開に力を注いでおり、韓国の地図会社の買収など、地場の地図会社の買収や中国でのNAV2の設立のような合弁企業方式で活動領域を広げている。あと1~2年で、世界のほとんどの地域の地図もTeleAtlasかNAVTEQから購入できるようになるだろう。

 日本は島国なので、こうしたドラスティックな動きを知らずにいられる。しかし世界の大きな流れを無視はできないので、TeleAtlas系が1社、NAVTEQ系が1社の合計2社に集約されるのは時間の問題だろう。

 その流れと、もう一つは携帯キャリアのグループ化という流れが日本の場合絡んでいる。ドコモがゼンリンデータコムに出資したのは皆ご存じだと思うが、それはナビタイムがKDDIと共同歩調をとったことで両者共に成功したことへの対抗策であるのもよく知られている。そうすると第3のキャリアであるソフトバンク/Yahooはどうするのか、その中で地図会社はどう関わるのか、その辺がたぶん今年にははっきりと見えるようになるだろう。

 個人的には、日本の携帯キャリアが地図会社を囲い込むのは、地図会社から見ると浮沈がかかってくるが、逆からは戦略的な意味はそんなにないと思う。NokiaがNAVTEQを買収するのとは発想も規模も違いすぎるし、日本の携帯キャリアが得られるメリットが今ひとつわからない。

 ま、地図好きにとっては、味わいのある良質な編集地図を提供する企業が消滅していくことには変わらないので、ここ最近の流れはあんまり嬉しくないのだが....


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6 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
既に (名無し)
2008-03-07 17:35:50
>第3のキャリアであるソフトバンク/Yahooはどうするのか

Yahooはアルプス社を傘下に収めています。
(蛇足ですがナビタイムは地図提供会社ではありません。)
もう既に日本の地図会社も優劣やグループ化の動きがはっきりしているのでは、と思います。
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まだ色々あると思います (moritoru)
2008-03-07 18:56:22
Y!は地図コンテンツ提供会社であったアルプス社を、その役割を大きく減らし、地図サービス部門として再構築しようとしているように見えます。結局、地図は大いなる部品で、お金で買えますが、本当に大事なのは地理情報分野の収益サービスの構築です。その点で、私はまだ「業界」の再編成や再々編成が行われると思っています(既に、地図コンテンツ提供会社は2社に絞り込まれつつあるので、そのラウンドは終了しつつありますが)。
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next one (メルクリンファン)
2008-03-08 18:26:45
Google ですか、地理空間情報はセカンドライフや Facebook でも重要になるような。
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森さんに (ごんべ)
2008-03-10 10:42:00
森さんに
> Yahooはアルプス社を傘下に収めています。
とか書く名無しさんもすごいなぁ。

森さんもコメントされているように、Y! は ア社が持っている、「部品としての地図以外の資産」の扱いについてまだ決めかねているように見えるのだ。

もうちょっと言うと、地図提供会社と地理情報提供会社を分けて考えるのはもう古いのですよ > 名無しさん
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googleの地図画像api (curonikeru)
2008-03-11 01:33:53
これは、かなりの衝撃ですね。
Google マップ APIが携帯電話からの閲覧に対応
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/10/18741.html
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ありがとうございます (moritoru)
2008-03-12 11:03:04
GoogleMapsの静的画像のAPIは確かにデバイスを限定しないので使い道が広そうですね。これで携帯でもゲーム系のデバイスでも使えることになり、さらにデファクトの存在になっていくでしょうね。
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