少し古くなりますが、2月9日に投票のあった東京都知事選に
ついて書いておきたいことがあります。
テレビが「当選確実」を打つ、その早さです。
当選確実は、年々早くなり、今年の都知事選では、いくらなん
でもということがありました。
都知事選の投票が締め切られたのが午後8時、NHKの開票
速報が始まったのがやはり午後8時、そして、画面が開票速報
に切り替わるやいやな、つまり、午後8時に、アナウンサーが
「舛添要一氏、当選確実です」とやったのです。
これには、驚きました。
8時というと、都知事選の有権者が、最後の最後、投票箱に自
分の票を入れたところです。投票箱には、開いてもいない票がそ
のまま入っていますし、投票所では、投票を終えたばかりの有権
者が投票所で帰り支度をしているところでしょう。
そんなときに、「舛添要一氏 当選確実」です。
本当に驚きました。
どうして、こういうことができるのか。
それは、「出口調査」をするからです。
国政選挙や知事選挙クラスの選挙で、投票に行ったとき、投票
所の出口で、
「どの候補者に投票されましたか?」
と質問されたことがあるという方もいらっしゃると思います。
これは、テレビ局や新聞社が、調査員を雇い、だれに投票した
かを調べているのです。
これを、「出口調査」といいます。
主要な投票所で、2000人、3000人と調査すれば、投票
の傾向は、だいたい、分かります。
ある候補の出身地の投票所では、その候補への投票が当然多く
なるでしょう。出口調査ではそれも想定の範囲内で、対立候補の
出身地の投票所でも、調査をするのです。
そうやって、投票所を広い範囲から何か所、あるいは、数十か
所から選んで調査すると、かなりの精度で、投票の結果が分かっ
てきます。
今回の都知事選の当確が8時に出たのは、そうした出口調査の
結果です。
東京都知事選挙の場合、完全に都市型選挙ですし、どちらかと
いえば、国政選挙にも似た選挙です。
候補者の出身地域が投票結果に影響するということもないでし
ょうから、投票所によって投票傾向に偏りがあるということも、
そんなにないでしょう。
ですから、出口調査も、精度が高くなると思います。
私も、地方で衆院選や参院選の開票作業を取材したことがあり
ます。その経験を踏まえていえば、開票作業で、候補者がどの地
域から出ているかは、開票の途中経過にかなり大きな影響を与え
ます。
同じ選挙区にA候補とB候補が立っているとします。A候補は、
その選挙区のA市が地盤です。一方のB候補はB市が地盤です。
投票を締め切り、開票作業が始まります。
その際、A市の開票作業のほうが先に進んだら、開票の途中経
過の発表は、当然、A候補のほうが有利に出るに決まっています。
テレビの開票速報で、途中の得票数が多いA候補より、得票数
の少ないB候補のほうに、当確が出るのも、そういう事情です。
A市より、B市のほうが有権者が多い場合は、当たり前ですが、
B候補のほうが有利です。開票速報の当確は、そのへんを、あら
かじめ、調べておくのです。
それだけではありません。選挙の開票には、作業の公正を期す
ため、立会人がつきます。
開封された投票用紙は、名前ごとに束ねていき、その束を、投
票計測器にかけます。これは、銀行で使う紙幣計算機のようなも
のです。
束ねた票を計測器にかけるには、立会人の承認が必要です。投
票用紙に書かれた字がきたなくて、読みにくいときは、立会人に
確認してもらったりします。立会人が慎重だと、開票作業が遅れ
ます。このとき、A市の開票所にいる立会人が慎重だと、開票作
業が遅れます。
かつては、立会人がどちらかの候補に肩入れして、対立候補の
票に慎重な態度を取って、対立候補の開票作業を遅らせるという
こともあったようです。そんなことをしても、最後にはすべての
票が開くのですから、意味はないのですが、まあ、当選の時刻を
遅らせようという嫌がらせみたいなものですね。
しかしながら、出口調査を克明に実施すれば、候補者の地元の
様子や、地域差も、全部、分かってしまいます。立会人の思惑
や立会人の有無も、まったく関係ありません。
テレビ局や新聞社の調査員が、
「どの候補に投票されましたか」
と質問し、
「え? 私はB候補です」
と答える。
それを調査員がまとめ、テレビ局や新聞社に報告する。
そうすると、投票結果が、ダイレクトに分かってしまうのです。
ですから、克明にやれば、午後8時どころではない。
午後6時とか、7時に、実際には、出口調査で、結果が分かっ
てしまうということも、十分、あるわけです。
今回の都知事選では、舛添氏が、細川氏や、宇都宮氏、田母上
氏らに、大差をつけて当選しました。
これが、僅差の当選、ぎりぎりの競り合いであれば、出口調査
では、当確を打て切れないでしょう。接戦であれば、当確を打つ
のは、もっと遅い時刻になったと思います。
ところが、大差の当選だったため、たぶん、もう、午後6時と
か、そのぐらいの段階で、出口調査によって舛添氏の当選が、ほ
ぼ分かっていたのではないでしょうか。
しかし、それにしても、と思います。
午後8時に投票が終わり、午後8時にテレビで開票速報が始ま
った瞬間に、アナウンサーが
「舛添さんに当確です」
とやるのは、シュールというか、なんというか、驚きます。
もちろん、これを法的に規制するのは、報道に対する規制にな
ります。報道の自由に反します。
ただ、今回の都知事選のようなことがあれば、有権者は、なに
か、釈然としないのも事実でしょう。
出口調査は、始まってまだ20年ぐらいの新しい手法です。
これをどうするか。政府・行政機関が規制を考え始める前に、
報道機関でしっかり議論する必要があると思います。