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「死刑裁判の現場」と「峠の落し文」

2010年06月09日 | くまちん
 録画していたETV特集「死刑裁判の現場」を一週間遅れで見た。このたびギャラクシー賞のテレビ部門大賞を受賞した「死刑囚永山則夫」と同じ堀川惠子ディレクターによる力作である。高検検事として実際の死刑執行に立ち会われた土本武司氏による死刑執行現場の再現は,裁判員裁判時代の死刑に関する情報開示として,改めて感慨深いものがあり,また長谷川死刑囚の手紙の文面には深い感銘を受けた。
 私がこの番組で衝撃を受けたのは,一審の東京地裁八王子支部であっさり死刑判決を言い渡した酷薄な裁判長であるかのように描かれているのが,樋口和博判事(故人)であったことだ。「死人に口なし」のままなのは酷なように思われるので,樋口和博裁判官の訴訟指揮や判断に疑念を持たれた方は,彼の「峠の落し文」という本を是非読んで欲しい。現在入手困難であるが,その一部を当ネットワークのホームページで読むことができる。決して番組から安直に想像されるような方ではないことはご理解いただきたい。
 http://www.j-j-n.com/coffee/s_touge/
 この中に「言葉の重さ」
(http://www.j-j-n.com/coffee/s_touge/touge05_041201.html)
という一文があるのだが,ひょっとすると番組で取り上げた事件は,この文章の末尾で触れられている事件かもしれない。一審判決は11月で,死刑囚の下の名前はT,控訴を担当したのは小林(K)弁護士だから。小林弁護士は,番組中の随筆の画面を静止画にして読まれると分かるが,東京高裁を最後に退官された元裁判官なので,樋口氏に「最後の葉書」を見せる程度の接触があってもおかしくはない。この文章をお読みいただくだけでも,番組を受け止める側として,より深みのある感慨が沸いてくると思われる。
 左陪席(通常は主任)裁判官だった泉山さんも,インタビューでは他人事のように冷たい印象を与えたかもしれないが,裁判官退官後,東北地方の弁護士過疎解消のために設立された「やまびこ法律事務所」の所長をかって出られ,志ある若手弁護士の指導に情熱を注いでおられる方である。 http://www.yamabiko-law.jp/lawyers.php
 弁護人として印象深いのは,国選弁護人であった小林弁護士が,長谷川被告人の母親が持ってきた「文明堂の1000円のカステラ」を突き返すシーンである。もちろん弁護士倫理上は間違いのない態度なのだが,番組で紹介された随筆で小林弁護士が述懐しているように,弁護人としては常に対処に困る悩ましい場面である。それこそ「言葉の重さ」を考え,相手の「心」を傷つけない,「物」は返しても相手の「心」を受け止める,誠意ある態度を心がけたいと戒めている。
(くまちん)

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