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コーチング その10

2017年05月28日 | ブログ
ビリギャル

 「ビリギャル」は2015年に公開された映画のタイトルである。主演のギャルを演じた有村架純さんは、今、最も活躍している若手女優の一人である。

 実は映画「ビリギャル」の原作本は、「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」という少々長い題のノンフィクション。この本は2013年暮れに出され、ベストセラーとなり、2015年には文庫にもなっている。

 著者である坪田信貴氏は、個人指導の進学塾で講師をやっており、その時の体験に基づく全くの実話である。モデルとなった女性も「すべて本当のことです」と証言しているそうだ。

 そもそも慶應大学がどれほどのものか、大学に行っていない私にはよくは分からないが、卒業生は上から目線の人物が多く、全体としてあまりいい印象は持っていない。

 しかし、この話は、見事にコーチングが嵌った事例として称賛できるものだ。著者である坪田氏は、作中で『心理学を学んで生徒の指導に活かしてきた僕は、いつも初対面の時のしぐさや反応で、生徒の性格を見極め、指導方法を切り替えていきます』と述べている。金髪ギャルの主人公が入塾面談に来た時に、その風体とは裏腹に、しっかりと挨拶を返した彼女に、初対面で「行ける」と踏んだという。そこで、「志望校どうする?」「よくわかんない」「じゃあ、東大にする」「東大は・・・ダサいからいやだ」「じゃあ、慶應にする?・・・君みたいな子が慶應とか行ったら、チョーおもしろくない?」「おお、確かに!・・・超ウケる!」

 そして、彼女と共に、現状把握(学力テスト)が始まる。みごとに学年ビリの学力。高校2年生にして、小学4年生の学力。それからのやり取りは、引き続きそのまま漫才のネタになりそうな内容である。『しかし、僕が好感を抱いたのは、彼女がいずれの質問に対しても屈託のない笑顔でうれしそうに答えていたことでした』。

 聖徳太子を「せいとく たこ」と読み、きっと超デブの女の子でかわいそうだという。歴史上の知識を問えば、「イイクニ作ろう ヘイアンキョウ」追い打ちをかけるように「・・・ヘイアンキョウさんって何した人?」。『でも、僕はポジティブに考えることにしました。歴史関連のことを2“も”知っているじゃないか!と』。さらに坪田先生は、名前(聖徳太子)から人物像を描こうとしていた彼女の姿勢にも可能性を感じたという。『僕は、初対面の時に、この生徒の良いところはなんだろう、と必ず5つは探すことを習慣づけています。そして中でも一番良いところを、「こういうところが、いいよね!」と言葉に出してほめていきます』。

 こうして、信頼関係を構築してゆくわけだが、彼女の抱える問題は家庭にもあった。母親の子供時代にも遡り、問題点が浮き彫りになる。しかし、そのことが、彼女の母親が彼女に向けて絶対的な愛情を持つようになっていたこと。それが彼女を支え、彼女が持っていた莫大な資源となるのである。

 徹夜で勉強する娘が、せめて高校の授業中に眠れるようにと、教師と徹底的に交渉する。また、塾に通うには当然お金が必要である。母親は、子供のために積み立ててあった定期預金、自分で積み立ててあった生命保険も解約し、アクセラリー類はすべて売り、へそくりをかき集めてお金を工面する。そして娘が慶應に受からなくても、何も惜しくないと思っていた。娘が、この塾で勉強することにワクワクしている。だったら思い切りやらせたい。それだけだったという。娘が慶應をあきらめかけた時には、坪田先生の示唆にも応えて、娘と雨の中、車で名古屋から東京の慶応大学を見に行ったという。

 この本には、目標・計画の立て方・モチベーションの上げ方など、心理学テクニックや教育メソッドも述べられているが、この母娘の愛情物語こそが合格の、そして、この本の成功要因に私には思えたものだ。




本稿は、坪田信貴著「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」平成27年、株式会社KADOKAWA文庫特別版によります。


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