中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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農商工連携その10

2009年07月28日 | Weblog
連携事業のポイント

農商工連携をひと口に言えば、農林漁業者と商工業者の強みを活かして新事業に挑戦ということになるが、この連携事業を成功に導くために2つの大きなポイントがある。

 ひとつは、最近よく聞かれるようになったダイバーシティーマネージメントの必要性である。連携とか協働は、その多様性(ダイバーシティー)のシナジー(相乗効果)によってイノベーションを生む可能性を秘めているけれど、一方異なる意識の衝突から分裂の懸念もないわけではない。多様性シナジーの創出のためには、明確なビジョンを掲げ、異質を尊重し合い価値観を共有し、変革の管理を行うことが必要になるわけである。

会議などの本来の目的がそうであるけれど、集まって議論する前には参加者誰もが考えていなかったような発想が、議論を交える過程で創出されること。会議の参加者が異質なメンバーであればあるほど、議論は紛糾しまとまりのつかないものになる懸念もあるけれど、それをうまくマネージできれば、それこそイノベーションにつながってゆく可能性がある。

もうひとつのポイントは、これは基本的な話になるけれど、やはり連携事業としてしっかりとしたビジネスモデルを描き、ビジネスプランへと具体化する必要があるということである。ビジネスモデルとは、ビジネスの仕組みでことであり、利益を実現する仕組みである。

どのような業種・業態で事業を行うのか。製品は何か。その製品またはサービスの市場での特異性や優位性は何か。顧客は誰か。どの程度の価格で、どのような経路で販売するのか。その広告・宣伝はどのようにするか。中でも重要なのが、顧客への視点である。その製品またはサービスは「顧客にどのようなベネフィット(利益)をもたらすのか」。売れればいくら儲かるかの皮算用は差し置いて、まず顧客ありきの観点こそ事業の要諦といわれている。

農商工連携事業は産業界にとっても社会的視点からも、非常に意義深い取り組みである。そして、まだまだ顕在化していない多くの可能性を持っている。しかし、闇雲に行って結局負債を抱えて頓挫することのないように、2つのポイントを軸に、厳しいビジネスの視点から慎重な取り組みも必要であることはいうまでもない。

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農商工連携その9

2009年07月25日 | Weblog
農商工連携計画認定事例

 昨年度開始された国の農商工連携支援施策による計画認定事例は、平成20年度1年間で185件ある。地区別にみると、関東が43件、中部・北陸29件、近畿24件と続き、人口との相関性を伺わせるけれど、沖縄県は1県(人口138万人)で10件認定されており、関心の高さと意欲が感じられる。ここ千葉県は人口617万人を擁し、東京湾岸に京葉工業地帯、太平洋側の漁業、南部に広がる豊かな里山と農耕地。一大工業県であり、わが国第2位(2007年)の農業産出県でありながら3件にすぎない。

 そんなこともあってか、7月23日の日本経済新聞によれば、千葉県と中小企業基盤機構が組んで、9月にも農商工連携を支援する基金を設けるとのことが報じられていた。これは静岡県に続くものとのことで、経費の2/3上限500万円までを助成するとある。地方自治体においても農商工連携に対する期待が大きいことを示すものだ。

 185件の計画認定事業を農林漁業別にみると、82%に当たる151件は農業との連携で、漁業が22件、林業は12件とある。農業は穀物から野菜、果物、畜産までバラエティーに富むわけだし、就業人口も農業の約280万人に対して漁業者は21万人強程度(平成18年)、林業就業者は5万人程度(平成17年)だから、当然の結果であろう。

また、連携の態様では農業と工業が連携するケースが100件と全体の54%を占め、次に農業と商業の連携の31件となっている。農業、商業と工業の連携が17件、漁業と工業の連携が14件と続く。レアケースではあるが、農業、漁業と工業の3者連携や漁業、農業、工業と商業という4者の連携もある。

連携体の構成者数は2社が136件で73%を占めるが、3社が38件、4社以上の連携も11件ある。また86%は同一都道府県内の連携であるが、複数の都道府県に跨った連携も26件(14%)ある。

連携事業活動を商品別に、食品と非食品で分けると、76%までは食品である。中でも農産加工食品が全体の約30%(61件)を占め、次に酒類・飲料が続く。非食品は全体で48件。観光・サービス関連が10件、化粧品、建築物及び建築資材、飼肥料や機械装置(システム)などが各4~5件となっている。

過日、東京北青山にある、国の販路開拓支援施策の一環であるテストマーケティング・ショップ「Rin」を訪れた。広くはないけれどきれいなお店で、若くて美しい店員さんが熱心に商品説明をしてくれた。地域資源や連携事業による商品が展示販売されているのだけれど、商品のデザインなど工夫され高級感があるものが多かった。2階の喫茶店で地域資源活用と思われるアイスクリームを食べたけれど、これも上品な味でおいしかった。


 本稿の連携事業関連データは、中小企業基盤整備機構が発行する「農商工等連携事業計画認定事例集(第1期~第3期)に拠ります。また漁業、林業の就業者数は農林水産統計および総務省国勢調査に拠ります。
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農商工連携その8

2009年07月22日 | Weblog
農商工連携への取り組み

 農商工連携事業に取り組むには、まずは連携体の構築ということで、協働できるパートナーを見つける必要があるけれど、その前に連携事業として、何をやるのか、やりたいのかのある程度の目論見は必要であろう。

 昨年11月のテレビ東京「ガイアの夜明け」で紹介されていた話は、減圧乾燥の技術を用いて、野菜や果物の栄養価を損ねることなく、安価に加工して販売するというものだった。この技術を用いることで、従来産業廃棄物扱いで有料廃棄されていた里芋の元株(親芋)さえ、食用やサプリメント原料に出来るという。里芋の元株は硬くて食用に適さないための廃棄処分であったが、実は栄養価は高いそうで、減圧乾燥によって粉末化することで有効活用できるのだ。これは里芋農家には廃棄費用が収益に変わることであり、加工業者にとっては安価な原料調達となり、まさにWin-Winの関係*5)となる。

 やはりテレビで偶然に見たのだけれど、山口県の瀬戸内海で、5年前くらいからナルトビエイが網にかかるようになり、年々その数が増えてきた。ナルトビエイは、水揚げしてしばらくするとアンモニア臭がするため、売り物にならない。漁の邪魔になるだけであった。しかしその魚肉は耐酸化能が高く、健康食品としての価値は高い。アンモニア臭は、水揚げ後速やかに冷凍することで防げることが分かった。さらに漁協の主婦たちが立ち上がって、調理法などを工夫し、地区で販売会を催すなど邪魔者を商品に変える取り組みをしているというのである。

 ナルトビエイのことをネットで検索して見ると、有明海での同様の取り組みが紹介されていた。元々南方の海を棲息領域とするナルトビエイが、このところの温暖化で、有明海へそして瀬戸内へと徐々に北上して来たことが分かる。「ピンチはチャンスと同じ顔をしている」と言われるけれど、有明海や瀬戸内海漁業者の取り組みはまさにピンチをチャンスに変えるものだ。そこに冷凍技術や有効成分を検出する分析技術など工業技術も生きる。

 2008年4月4日、農商工連携施策の開始にあたり、農林水産省と経済産業省は、全国の農商工連携のモデルケースとして88事例を選定、公表した。その中のひとつに「ITを活用した酪農用自動給餌システムの開発」がある。札幌市の北原電牧株式会社が中心となった連携事業だ。

 酪農用機械製造会社である北原電牧株式会社が、酪農家、IT企業と連携して、個々の牛の乳量等に応じて給餌量が自動的に決定される酪農用自動給餌システムを開発したもの。酪農家での実証試験で、給餌時間が従来の1/20と大幅な短縮を達成して、システムの有効性を確認した。これによって、酪農家は飼育頭数を40%増加させ、1頭当たりの乳量も7%増加したとある。何より24時間365日、家畜の世話に追われる酪農家にとって、ひと時の休息が得られる可能性もあることが大きいような気がする。

 農業の機械化はかなり浸透している。これからの時代は農林漁業者にとってもITの推進が課題となることを印象づける素晴らしい取り組みだと思う。


*5)註! Win-Winの関係は、国の農商工連携事業認定の必要条件ですが、十分条件ではありません。
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農商工連携その7

2009年07月19日 | Weblog
半農半Xという生き方

 『「半農半X」とは、持続可能な農ある小さな暮らしをしつつ、天の才(個性や能力、特技など)を社会のために生かし、天職(X)を行う生き方、暮らし方をいう。農業の傍ら好きなことをやって暮らす“田舎暮らし”と似ているけれど違う。「半農半X」は都会でもできる。「小さな農」を暮らしに取り入れつつ、自分の大好きなことをテーマにして食べていくこと。マンションのベランダのプランターで野菜を育てながらルポライターをやっているのも「半農半X」。

 暮らしの中に農の視点を持つことで、「いつかは終わる生命体である自分」を意識することになり、それが、時間に対する考え方を変え、自然や他の生命や後世に思いをいたすことを可能にする。ひいては、食料問題や環境問題の解決につながる、という考え方なのです』。

この言葉の主は、京都府綾部市でNPO法人「里山ねっと・あやべ」のスタッフとして郷里のまちづくりに尽力する傍ら、「半農半X」を全国規模で提唱されている塩見直紀さん(1965年生)。

 塩見さんの「半農半Xという生き方-実践編」(株)ソニー・マガジンズ2006年刊に出会ったのは、私が、地元の商工会議所で「農商工連携セミナー」をやらせていただくことになり、市立図書館で農業関係の本を漁っていた時。

その本の中に『「ないものねだり」の20世紀は終わり、地域にすでに存在、または潜在する「宝」=「地域の資源、遺産、経験、記憶など」に光をあて、「あるもの探し」によって地域を見つめ直す時代』という言葉を見つけ、「農商工連携」の一つの切り口を見つけた思いがして、セミナー資料に加えさせていただいたものだ。

 この本には、千葉県鴨川市の「鴨川自然王国」で農的な暮らしをしながら、音楽活動を行っているyaeさんのことも紹介されていた。「鴨川自然王国」は彼女の父親である故・藤本敏夫氏が建国されたものである。母親は「百万本のバラ」等のヒットで有名な歌手の加藤登紀子氏。建国当時小学生だったyaeさんは、そこで、トンボやカエルと戯れながら大自然の中で豊かな時を過ごす。その原体験が歌手となった自分の歌になって出てきたという。父親が亡くなって3年後の2005年から本格的に自然王国暮らしに入る。

 「人間らしい生き方の答えは土の上にある」。yaeさんは音楽活動を続けながら、鴨川自然王国ではジャーナリストの高野孟氏を塾長に「里山帰農塾」を開くなど、父親の遺志を継承する。団塊世代をターゲットにした帰農塾は思惑が外れて、若い子の参加が多く却って賑わっているとか。

「半農半X」と聞けば急には馴染み薄い世界に思えるかもしれないけれど、スローフード*3)やスローライフ*4)と読み替えて想いを馳せれば、私たちの日常生活に新たな趣を加えることに繋がるのではないだろうか。


 本稿は、本文に掲げる著作の他、[シンプルライフ]All Aboutホームページ2009.2.28を参考にし、また引用させていただきました。
 *3)規格・標準化された生産ではなく、その土地土地の風土にあった伝統食文化・農業を大切にするための運動。ファストフードやインスタント食品ではない、手間ひまかけた料理などを指す。
 *4) 生活様式に関する思想の一つで、地産地消や歩行型社会を目指す生活様式を指す。byウィキペディア(Wikipedia)
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農商工連携その6

2009年07月16日 | Weblog
今、日本の農が熱い(正)

 最近は農業の話題がテレビ等マスコミでよく取り上げられるようになった。その中でも出色なのが、株式会社みやじ豚(神奈川県)代表取締役宮治勇輔さんの「農家のこせがれネットワーク」と渋谷のギャル社長こと藤田志穂さんの「渋谷米」ではないだろうか。

 宮治さんの「農家のこせがれネットワーク」の設立発起人の賛同者呼びかけには、2009年3月末の締め切りまでの4ヶ月足らずで1290名が集まったとある。

潜在的な就農希望者を育成し、農業へ戻すこと=REturn FARM。耕作放棄地をよみがえらせること=REuse FARM。そして、一次産業を「かっこよくて」、「感動があって」、「稼げる」明るい3Kにしたい。などがそのポリシーであるらしい。

その呼びかけ趣旨書には『規模と規格に左右され、いいものを生産している農家ほど馬鹿をみる仕組み、そして大手流通に買い叩かれ、農業収入では暮らしていくことが困難な状況に追い込まれた農家を多数抱えている日本の農業改革は待ったなしです。このままでは早晩日本の農業は、担い手不足、耕作放棄地の拡大で立ち行かなくなります。このような現状の中、日本の農業を最速最短で改革するためには何が必要か、そればかりを考え続け、私たちは遂に答えを見つけました。それは、農家のこせがれが実家に戻って農業を継ぐことです。・・・』

宮治さん自身、大学を卒業後大手企業に就職していたが、30歳くらいで退社、父親が営む養豚業を継いだそうだ。ネットワーク設立目的のひとつに、「10年後に小学生の希望職種ランキング1位」ともある。

「渋谷米」の藤田さんは十代で若者向けマーケティング会社を興し、4年間継続して黒字。億単位の収益を得ていたらしい。秋田のおじいちゃんが残した休耕田を耕してお米を作り、「渋谷米」ブランドで販売するとのこと。そのネーミングの素晴らしさは流石である。

彼女のブログ「ギャル革命」よれば、自身は、2008年12月24日付けでシホ有限会社G-Revoの代表取締役を辞任。『健康で好きなファッションや生活ができるのは、安全でおいしい食べ物を作ってくれる方がいるから。これからもっと勉強して私なりに農業の良さを伝えていければと感じている。若者がもっと農業に興味を持つような活動をしていければと考えている』と述べている。

5月の連休に代々木公園で行われたイベント「渋谷田んぼまつり」には、田んぼガールズの美女軍団に、映画のロケで新潟の農家の方々と交流があり、農業問題に関心を深めたという、俳優の武田鉄矢さんも加わって盛り上がったようだ。

農家のこせがれネットワークにしても、渋谷米の場合も国や公共の団体に頼ることなく、日本農業の再生を願い、自ら企画し活動を起こして盛り上げる。その志の高さと行動力と手腕には敬服する。


本稿は、インターネットブログ、特定非営利活動法人農家のこせがれネットワークおよびギャル社長藤田志穂の人気ブログギャル革命を参考にし、またそこから一部を引用させていただきました。
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農商工連携その5

2009年07月13日 | Weblog
今、日本の農が熱い(序)

 現在日本の農業就業者は280万人ほどといわれているけれど、その6割は65歳以上の高齢者である。10年前は55歳以上が6割だったそうで、そのまま年齢を重ねたことになる。担い手不足は今も最大の悩みなのである。また、今年2009年5月4日号の日経ビジネスによれば、パナソニックが従業員約31万人で、売上高が9兆689億円(2008年3月期)あるのに対して、農業生産高は8兆1927億円(2007年)に過ぎない。すなわち日本農業の生産効率はパナソニックの1/10である。そして、日本の農家の収入の45%は国からの補助金なのだそうな。

 そんな中、若い世代の新規就農者は年々増加している。ある本からの少し旧いデータとなるが、昭和60年新規学卒の就農者は9万4千人。これがバブル期の平成2年1万5千人に激減していたものが、平成15年で8万人規模に回復している。最近はさらに不景気の影響による就職難もあって、増加傾向は間違いないようだ。加えて農業インターンシップなどの施策や地球環境、食の問題等を受けて若者の価値観に変化が起こっていることも確かなようだ。

 千葉県松戸市の野菜工場は先に紹介したが*1)、今年4月3日の日本経済新聞には「野菜工場参入広がる」という大見出しが踊っていた。公共事業削減により、余剰人員と遊休工場を抱えたある建設会社の取り組みが紹介されていた。企業の農業進出は数年前のユニクロが記憶に新しいところだが、2年を経ずに撤退したように、実は簡単なものでないようで、一般にはあまり知られていないけれど、結構苦戦の話は多いのだ。しかし、最近はLED照明の実用化や太陽光発電、バイオ、水処理技術の進歩とも相俟って、採算性に見通しを得て本格的な大企業進出が報じられている。

 例えば同じ誌面に化学関係最大手の三菱化学が中東地域で野菜工場の事業化に乗り出したとある。中東といえば砂漠であり、通常の畑作には不向きと思うけれど、水耕栽培の野菜工場では、水はリサイクル可能で大量に要らない。乾燥地域では病害虫が少ないため却って野菜の栽培に適しているとのことだ。中東から石油ではなく、日本企業産の新鮮野菜がCAS冷凍*2)で日本に送られる日も遠くないかもしれない。

 
 *1)、*2)本HPエッセー「農商工連携その3」参照ください。
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農商工連携その4

2009年07月10日 | Weblog
イノベーションが未来を拓く

イノベーション、それは創造的なアイディアを実行に移すことで産業に新たな活力と利益を与えるすべての改革をいう。

産業界でイノベーションの重要性が一段と叫ばれるようになった。急速なグローバル化の進展で競争が激化し、開発されヒットした新商品の売れ筋としての寿命が短期化している。例えば1970年代には、ヒット商品の60%は5年を超えて売れ筋を維持しており、1年未満または2年のうちに売れ筋でなくなるものは10%に満たなかった。ところが2000年代ではこれが逆転した。5年を超えるものは10%に満たず、1年未満または2年のうちに売れ筋から外れるものが50%を超えたというのである。

この原因の多くは、よく言われる顧客嗜好の多様化なのではなく、同種・低価格品があまりに早く出現するからである。先頭を走るヒットメーカーは兎に角走り続けなくてはならない。IT分野などで象徴的であるが、いかにデファクトスタンダード(業界標準)を自分たちの手に入れるかと必死の競争が繰り広げているわけだ。

 しかし、「イノベーションが未来を拓く」と言えば、その語感から企業間競争のイメージは湧かない。人類が物質的な豊かさや生活の利便さを求めて、または国家間の軍事的優位を確保するために、必死に工業化を推し進めた果てに、地球環境の著しい劣化が顕在化した。世界人口が爆発的に増加する中、大気は汚れ、大地の砂漠化は進み、水資源や化石資源は枯渇化に向かい、食糧危機が叫ばれている。このような閉塞感の漂う現代社会に明るい未来をもたらすもの。そこには、これまでの技術革新の延長上にはない、まさにイノベーションだという希望が込められている。

 そしてイノベーションは、「ダイバーシティー(多様性) のシナジー(相乗効果)から生まれる」といわれる。その多様性のシナジーのひとつの希望が「農商工連携」ではないだろうか。明るい未来を拓くためには、人類がこれまでの価値観を変容させてゆかねばならない。広い意味で捉える「農商工連携」にはその先陣を担う期待も込められているような気がする。


 本稿は、2009年4月19日行われました、日経BP社創立40周年記念シンポジウム「日本を救うイノベーションの力」からその一部を参考にさせていただきました。
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農商工連携その3

2009年07月07日 | Weblog
地元企業の技術力

 2009年5月14日の麻生内閣メールマガジン第30号の麻生太郎の「強く明るく」には[農林水産業は成長産業]と題して、新しい冷凍技術がまず紹介されている。麻生首相がその前の週5月9日に、現地の中小企業を訪問されたレポートである。場所は千葉県柏市の「東京大学柏ベンチャープラザ」内のある中小企業の研究所。

 実はこの話は、6月8日に東葛テクノプラザ(柏市)で開催された「農商工応援キャラバンin柏」にパネルディスカッションのパネリストとして登壇された、株式会社アビーの代表取締役社長大和田哲男(のりお)氏の資料でも紹介されているのだけれど、「CAS(Cells Alive System)冷凍」と言って、細胞を壊さず冷凍・解凍をすることができる従来の冷凍技術とはまったく異なった画期的な冷凍技術のことだ。その冷凍技術によって冷凍された新鮮食品を味わったご自身の感動を、麻生首相が紹介されていたのだ。

 この日のメールマガジンには、千葉県松戸市にある「植物工場」を訪問された話も紹介されている。『商店街の空きスペースの一室で、光と栄養水だけを使って、野菜を栽培しています。収穫は、1年に20回。いわば20毛作。何よりも、無農薬で安全・安心。さらに天候などの影響を受けずに生産できるので、一年中安心して収入が得られます。今後の農業の、一つの発展の方向性かもしれません』。に続けて、『日本がこれまでつちかってきた、世界に冠たる「ものづくり」の技術と結びつくことで、農林水産業が、「成長産業」へと発展する大きな可能性があります』。と農商工連携に寄せる期待を述べられている。

「農商工応援キャラバンin柏」パネルディスカッションのパネリストには、NHK「プロフェッショナル」にも登場された、新しい農業に取り組む和郷園の木内博一氏もいたのだけれど、和郷園は千葉県香取市。CASの株式会社アビーの本社は千葉県安孫子市だ。

私が26年前に転勤で千葉県に住まうようになった頃、当時は選挙でも「茨千葉(いばちば)選挙」などと揶揄されて、票を現金で買う代名詞のような汚職県とされていた。そんな千葉市の街頭で、選挙演説だったのかどうかは定かに記憶していないのだけれど、「千葉県は東京の奥座敷と言われ、日本の盲腸と呼ばれ」と猛っていた弁士の言葉を今も思い出す。しかし、ここ20数年、ディズニーランドやアクアラインの千葉県は変わった。農商工の分野でも、明らかに新しい風を全国に発信できる県になった。

地元企業の技術力は千葉県に限らない。それぞれの地域の人々がその郷土を誇りに思い、国民が日本を祖国として愛し続けることのできる国づくりのためにも、「農商工連携」は素晴らしい取り組みだと思う。
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農商工連携その2

2009年07月04日 | Weblog
農業は国の宝

 日本が元気であった頃、1980年代には海外からの農作物の自由化要請が強くなっていたこともあって、国内有識者の中にも国内農業の保護より、海外の安い農作物を自由に購入することを主張する向きもあったように記憶する。そんな意見を完膚なきまでに封印させる事件が起こった。

2008年1月末のこと、中国産冷凍餃子を食べた千葉県と兵庫県の3家族計10人が中毒症状を訴えて、内9人が入院したのだ。原因はメタミドホスという燐系農薬が餃子に混入していたことによる。当時米国でもチャイナフリーが叫ばれていたが、この事件への中国当局の想定内ではあれその対応の悪さもあって、薄々感じていた国民の不安を一挙に現実のものとした。

 地産地消は大分前から言われていたことだし、食の安全はいつの時代にも唱えられていたことであるけれど、気が付いてみれば日本の食糧自給率は39%とか40%とかいわれる。地球規模の異常気象や病害虫の流行があって、食料輸出国に輸出にまわせる食料がなくなり、日本人に餓死者が出る恐怖を感じた時、生命産業といわれる農業や漁業に対する国民の視線は、以前とは異なったものになっていた。

 2008年6月23日号の日経ビジネスの巻末に、伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏の「農業は国の宝」と題するコラムが掲載されていた。丹羽氏は1996年伊藤忠商事の専務時代には食糧部門長を兼務されたご経歴もあって、食糧事情に詳しく洞察が深い。『・・・日本の農地は過去40年間で22%も減った。作付延べ面積では実に41%の減少である。就労人口は71%減り、農家も半分になった。農業の衰退は、どの数字を見ても明らかである。

日本人は飽食の時代に大量の食料を輸入し、国内の農業に無関心になってしまった。今、そのツケが回ってきている。食料争奪戦の時代に、食料輸入のパイプはいつ細っても不思議ではない。日本の食が、海外からの細いパイプで支えられていることを想像すると、戦慄さえ覚える。・・・』
 
 豊潤な森が多くの生命を育み、流れ出た水が川となって大地を潤し、海に注いで豊かな漁場を作る。農林漁業は太古の時代から繋がっている。この生命を育む産業に、地元の商業や工業が加わって知恵を出し合うことで、地域発の新たな国の発展が期待される。農商工連携は国の宝を磨く取り組みなのである。
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農商工連携その1

2009年07月01日 | Weblog
農商工連携とは

 農商工連携とは通常、国の中小企業施策であり、地域活性化施策でもある「農商工連携」をいう。この場合、「狭義には」という注釈を付けねばならない。農商工連携は、別に国の施策として行わなくとも、中小企業者でなくても、それを実施することで実効を上げれば、それは立派に農商工連携であり、広い意味の農商工連携と言えるのではないか。

しかし、国の中小企業施策としてこれを行うことは意義が深い。補助金等各種の国の支援が受けられるし、その活動成果は一挙に全国に広報されるからである。またこの農には林業、漁業が含まれる。通常中小企業施策は経済産業省のお家芸であるが、農林水産省も参画したところにこの施策の意義がある。中小企業庁は平成20年度中小企業政策重点項目の第1番目にこの「農商工連携」を掲げている。これにかける国家予算は両省で計約200億円。2年目の平成21年度では約300億円に増額されている。

 平成20年7月21日に施行された「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」(農商工連携促進法)がこの施策の基となる。農林漁業者が中小企業者(工業、商業)と「有機的連携」して、お互いの経営資源を有効に活用し、新商品の開発、生産若しくは需要の開拓または新役務(サービス)の開発、提供若しくは需要の開拓を行い、農林漁業者と中小企業者の「経営の改善」が実現することを、国が支援する施策である。

 ここで「有機的連携」という言葉を理解しておく必要がある。この連携はお金を出し合うことや単なる取引関係を意味しない。連携事業に対して知恵、ノウハウ、設備、技術、販路などお互いの「経営資源」を出し合うこと。リスクを共有すること。この場合の「経営資源」にお金は含まれない。すなわち単なる投資的な事業関与や商取引では「有機的連携」とは呼ばないのである。

 国は新たな中小企業施策として2005年度から「新連携対策支援」を開始していたが、これに2007年度からの「中小企業地域資源活用プログラム」を加え、ホップ、ステップとし、ジャンプがこの「農商工連携」となった。

 しばらく、農商工連携活動支援を通じて見聞した話を綴ってみたい。
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