中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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事業継続計画(BCP)を考える第10回

2012年09月28日 | Weblog
国家とBCP

 太平洋戦争によって壊滅的な打撃を受けたこの国が、戦後の驚異的な復興を遂げたことに万一に備えた事前のプログラムがあったわけでもなかろう。経済復興のきっかけに朝鮮戦争特需があり、人口の増加と技術の進歩による新たな製品開発も進み、世界的な需要の増大という時代の潮流もあった。米国の思惑によるわが国の軍事大国化に歯止めを掛けた方針を利用して、米国の核の傘の下、国家予算を経済面に集中投下できたことも大きかった。ただ、その付けが周辺無法者国家の台頭で領土・領海を脅かされることにつながってもいる。

 戦前のわが国にBCP的な具体的な国家継続計画はなかったとは思うけれど、国家存続のための人材育成への注力がその役割を担った。戦前の教育制度において育った有為の人材が、国難にあってこの国を支え成長させた。人を育てておれば、具体的な計画はなくとも、試行錯誤の中でも進路を間違うことなく復興を遂げることが出来る。先人の知恵が優れた教育制度を生み育てていたものと考える。

 引き比べて戦後67年、この間の戦後教育は骨太の人材を育て得ていたであろうか。一見賢そうに見える元官僚という現政権の政治家などその典型で、言葉を弄するだけで、国家の危機にうろたえるしかない。文藝春秋9月号の「2012年上半期“お騒がせ事件”座談会」の中で、コラムニストで作家の亀和田氏が政治家の顔が悪くなったという話を受けて、『それと40代あたりの中堅がみんなペラくて怪しい顔をしているのも気になる。』と述べ、現職大臣2名を名指ししていたけれど、言い得て妙だとすごく共感した。根幹に国家観のない教育を長く続けては、真の意味の人材は育ちにくい。口先だけのペラくて怪しい顔をした人物が国家の指導層でのさばるようでは国は滅ぶ。

 この3年間、わが国はあらゆる面で停滞した。というより大いに地盤沈下した。高度経済成長期のシステムが時代に適応しなくなって久しく、どの党が政権を担っても難しかったとは思うけれど、急降下させた責任は現政権政党にあり、それを選んだ国民にある。2009年の衆院選の前から、私のような一介のノンキャリが、民主党などが政権を取ったら絶対ダメだと本稿でも随分述べたけれど、政治評論家や政治学者のような面々の多くが挙って民主党に期待した。そして後から裏切られたと嘆く。嘆いている人はまだ救われるけれど、ここに至ってもなお親派がいることは、この国の知識層の衰退を象徴していることで、それこそ戦後教育の罪の深さである。要は知識はあっても物事の本質を見る力が育っていないのだ。単なる「考え方の違い」などではない。

 このたびの自民党総裁選挙で返り咲いた安倍新総裁は従来から日教組を批判し、教育制度改革を訴えている。日本維新の会を立ち上げた橋下大阪市長も安倍氏に近い考えのようだ。遅ればせながらわが国も真っ当な方向に進みつつあるのだろうか。

 国家のBCPというよりリスク管理として、大きな自然災害に備える仕組みやハード面の充実、テロや領土・領海への侵略に備える防衛力の整備などは今後早急に充実してゆかねばならないし、そのための資金を得るために経済力の復活も重要である。しかし、国家も企業も人材育成こそ何物にも優れる「継続計画」の基盤であることを忘れてはならない。





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事業継続計画(BCP)を考える第9回

2012年09月25日 | Weblog
財務対策

 いかなる事故・災害に見舞われたとしても、その復旧にはお金が掛ることは仕方がなく、BCP策定時点で、被害想定に基づいて復旧費用の見積もりをしておくことは必須項目である。これには施設、設備、情報システム、在庫の製品や原材料などの直接的な被害額と、事業が中断されることによる機会損失もある。このため、緊急時に使えるお金も確認しておく必要がある。預貯金、各種損害保険、売掛金の回収、売却可能な資産(有価証券や土地)に加え流用可能な経営者の個人資産などであるが、復興にあたっては行政機関からの災害復興補助金や低利融資などの活用もある。

 日頃からキャッシュフローの潤沢な企業は少ないと思われるから、各種損害保険の加入状況を再確認して、最低限の保険加入は必要経費と考えるしかない。復興のためにお金は必要である。運転資金としては一カ月程度の準備が謳われているが、従業員の給料や仕入れ債務である購入原材料費などの支払い期日の履行など、最低限の現金を確保する必要がある。

 そう考えていくと、BCPのためにも日頃から黒字経営を目指し、効率的な経営が求められることが分かる。すなわち基本に忠実な経営である。既存製品の品質管理やサービスの向上、製品(商品)開発、マーケティングなど攻めの経営と無駄の撲滅によるコストダウンの徹底がある。

 コストダウンと聞くと何かケチケチ作戦のように感じられるし、行きすぎたリストラなどの反動が従業員に及ぶことがしばしば問題になったりする。正しいコストダウンは無駄の削減なのだ。必要な経費を惜しむことではない。贅肉は落とすが筋肉は維持する。人体で言えばダイエットのための食事量やその内容の改善だけでなく、日々のトレーニングも必要なように、要は全社を挙げての汗を掻く必要である。分かっていても「人手がない」、「時間がない」で先送りされている改善点は多くの企業に一杯あるように思う。

 コストダウンの効用の話で、枕詞のように語られるのが、『企業はコストを2割下げれば、利益額は2.8倍になるが、コストダウンをせずに利益を2.8倍にするためには、売上を2.8倍にしなければならない』。というのがある。1億円売上げて1000万円の利益を上げている(利益率10%)企業が、そのコスト9000万円を7200万円に出来れば、2800万円の利益を上げることが出来る。しかし、売上増しでこの利益を出すには、売上を2.8億円にしなければならないというものである。売上が上がれば製品単価の固定費分の負荷が下がり利益率も上がる筈で、拡販費との兼ね合いもあるが、そこまでの売上増は必要ないとも思うが、利益額の向上にコストダウンの効果が遥かに大きいことは間違いない。

 財務面のからBCPを考える時、日常の経営の効率化と拡販努力によって財務構造を健全化し、避けられない事故・災害に備える蓄えを持つことの重要性に気付くであろう。企業向けに国の個人に関わるような生活保護制度は無い。



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事業継続計画(BCP)を考える第8回

2012年09月22日 | Weblog
BCPの運用

 万一に備えるBCPを万一の事態に正しく対処出来る体制を常に確保しておくために、災害時にその対応の総指揮を取る対策本部長とは別に、BCPマネージャーの選任がある。これは、BCPの策定や維持管理の責任者という位置づけで、災害時の指揮者ではない。業務上のライン管理者ではない。BCPが策定された後は、これを維持するために、従業員の教育・訓練の計画と実施、BCP関連資料の保管・管理、BCPの見直しとその最新版管理など、ISO9000にいうシステム管理、文書管理の責任者である品質管理責任者のような位置づけであろう。

 ISO9000の場合と少し異なるのは、BCPマネージャーにはその関連予算管理や災害発生時の対応について地域の他企業や公的機関との交流もその任に含まれることであろう。そのため、事ある時の対策本部長は当然企業のトップがあたるが、経営者がさらにBCPマネージャーも兼任ということも小さな会社では仕方がない。

 BCPを発動する事態は、大地震の発生など自動的に事態が周知される場合もあれば、サイバーテロなどでは発見が遅れる場合もありうる。火災発生や集中豪雨などによる冠水被害などもそれが夜間に起これば事態の掌握が遅れることがある。事態を察知した従業員が夜間・休日にあっても連絡網によって次の行動に移れる体制を築いておく必要がある。

 流通業店舗では昼間は不特定多数の来客があり、災害発生時は混乱が予想されるし、旅館・ホテル業では夜間にも宿泊客がいる。一般の企業の事務所や工場にも来客者がいる場合は多い。従業員の安全は大切であるが、初動対応として来客の避難誘導は優先させねばならない。

 避難の必要な災害には津波、洪水、土石流、火災、有毒ガスの漏洩などがある。東日本大震災の際の津波では生死を分けた多くの事例が語られる。ある信用金庫だったか、支店長は部下を自社のあるビルの屋上に退避させたが、津波の高さが勝り、本人を含めほとんどの社員が命を落とした。このケースでは、現在遺族からの訴訟が持ち上がっている。避難先として近くの高台かビルの屋上ということで、支店長の指示は範囲内ではあったが、高台まで逃げておれば助かったというものであるらしい。想定を超える規模の災害では指定の避難先では十分でない場合もある。一人一人の判断、運用の適切さが生死を分ける。

 初動として自己防衛や火災の場合は初期消火と重要書類などの持ち出しなどもあるが、二次災害防止処置、負傷者の救出や応急手当などが終了すれば、一旦従業員は所定の場所に参集して安否確認や被害状況の把握が必要である。被害が軽微な場合でも、関係行政機関に報告が義務付けられている場合もある。そして復興計画が動き出すことになる。まず取引先など関係企業への連絡を行い、中核事業継続のためのプログラムを遂行する。並行して被災住民の救護など地域への貢献活動も望まれる。

 このたびの中国における反日デモからの暴徒による乱暴狼藉で、日本の自動車販売店、大手スーパーなど大変な被害に遭い、保険の対象額は数十億円から百億円にも上るそうだけれど、元々言われていたチャイナリスクにも負けず当地に進出していた勇敢な企業にとっては想定の範囲であったのかどうか。今後の復旧に一種のテロに対応したBCPの成果が問われる。



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事業継続計画(BCP)を考える第7回

2012年09月19日 | Weblog
BCPの定着

 立派な要領書や計画書を作っても、それが活用され役立たなければ意味のないことは誰でも分かる。よく手段と目的の取り違いが言われるが、意外とこれを平気でやって気付かないことも多いように見る。BCPを策定するというか文書として作成することは、被災からの復興に必要であり、有効であるから推奨されている。しかし、策定段階から従業員に周知し、策定後は実際の運用訓練を行って企業文化の中に取り込んでゆかなければ、定着しないし、何年に一度あるかないかの大災害に備えることは出来ないだろう。

 BCPの策定は小さな会社であれば、そのガイドラインと書式に沿えば経営者一人でも作ることは出来るだろうけれど、一旦事故・災害あるときは、地域社会を含め従業員全員に関わる問題である。策定段階から従業員全員から意見を聴くなど、全社員への取り込みが必要である。
   
 中小企業BCP策定運用指針(中小企業庁)にBCPの策定・運用サイクルとして、①事業を理解する。⇒②BCPの準備、事前対策を検討する。⇒③BCPを策定する。⇒④BCP文化を定着させる。⇒⑤BCPのテスト、維持・更新を行う。とあるが、計画段階でしっかりとした自社の事業把握を行うこと。そして策定した計画書を企業の内部に文化として取り込むこと。テストという試験的運用、すなわち訓練を行うことで、適宜確認・見直しを行う大切さが示されている。PDCAとは良く聞く言葉だけれど、ここでも計画、実行、検証、見直しのサイクルが必要であると言っているのである。

 通常の計画であれば、例えば経営計画は黙っていても進捗し、計画に意味があったかどうかは兎も角、実行されることになる。しかし、BCPは日常業務の中で実施されるものではない。だから常に意識して確認しておかなければ、忘れ去られる懸念さえある。

 BCP文化を企業の中に定着させるための方策として、中小企業BCP策定運用指針(中小企業庁)は、①従業員への教育、②BCP訓練、③BCP文化醸成の3点を挙げている。教育には救急法や関連知識セミナーの開催など片方向のものと、防災に関する議論の場や勉強会の開催など、双方向のものがある。また訓練にも緊急事態発生を想定した避難と二次災害防止のための初動操作、点検による被災状況確認から復旧に向けた行動、地域社会との連携までを含んだ実地訓練と机上訓練がある。机上訓練では机上シュミュレーション、連絡網による緊急連絡訓練や公的機関への被災状況報告訓練、パソコンバックアップデータの確認などが考えられる。どちらも並行して行うことが必要である。

 難しいのは3番目の文化の醸成であろう。これは経営者の平時からの従業員とのBCPに関してもコミュニケーションを持っていること。万一の場合にも従業員の生命を第一に考えた安全対策の実践や取引先、協力会社や地域を大切にした企業経営の実践など、従業員に日頃から業務に対する使命感を鼓舞する経営者の行動が望まれる。

 このように見て行くと、BCPが単なる万一の事故・災害に備えたマニュアルに留まらず、ある意味企業理念の具現化であることがわかる。というより、企業におけるあらゆる活動は企業理念に向かうものでなければならない。ISO9000や14000(またはエコアクション21)を取得するにしても、OHSAS18000やTQM活動に取り組むにしても、自社の企業文化、企業理念の中に取り込む形で行わねばならないものであろう。
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事業継続計画(BCP)を考える第6回

2012年09月16日 | Weblog
BCPの作成

 事業継続計画は要領書でなく計画書となっている。これは「万が一事業が中断してしまった時には、何を、いつまでに、どのような方法で復旧すればいいのか」という被災後の対応に時系列が入っているからだと思う。水道、ガス、電気、通信の復旧にどのくらいの期間、施設や機器の修復に何ケ月という前提における目標計画となるが、大切なことは前提の精度ではなく、インフラの復旧によって対応のステージが変化し、その変化に合わせた計画になって居ればいいのではないか。施設の代替を他の拠点に求められるか、他社に依存するのかなども被災地の復旧度合いによって変わってくるものだ。

 その構成として、BCPではまず「あなたの会社の基本方針を立案して下さい」*7)。とあるが、これはBCPの策定や運用の目的である。「BCPを策定し運用する目的は、緊急時においても事業を継続できるように準備しておくことで、顧客からの信用、従業員の雇用、地域経済の活力の3つを守ろうとするものである」*7)。次に「適用範囲」だが、地震や風水害などの自然災害、感染症、火災・爆発などの被災が対象となる。また被災後優先的に復旧が必要な中核事業を確認しておく必要がある。

 次に、被災時にBCPを運用するための企業内の体制を決めておくことも重要である。経営者をトップとして、災害対策本部の下に大きく分けて施設・機器などのハード面の復旧に当たる班と、事業継続のために取引先との折衝や復興資金の調達などに当たる班の設置が考えられる。勿論これは必要に応じてさらに細かい分担・分掌が行われる。大災害の場合、連絡の取れない従業員も出るかもしれないが、事前に役割を与えられておれば、従業員それぞれに対応の拠り所となる。

 本論は、想定される事故・災害それぞれについて、中核事業の想定被害、復旧目標などを計画するが、対応策には、被害が「ヒト」(経営者、従業員)、「モノ」(施設・機器、原材料、情報など)、「カネ」(復旧費用)、「インフラ」、「取引先」別に計画を行う。当然教育・訓練の方法や実施計画は盛り込む必要があるし、復旧過程で想定と異なる状況が現れることは当然で、状況に応じた計画の見直しを行うことも必要になってくる。

 BCPでは、それぞれのステージで決めておかねばならない「必須」の事項と決めておいた方がいいとする「推奨」項目や「関連」項目がある。ISO9000シリーズでは、要求事項としてのISO9001と全ての顧客のニーズや期待に対応し、要求事項を補完して組織のパフォーマンスを向上させるための手引であるISO9004があるが、その関係に似ている。特に小さな企業においては初めからいろんなことを盛り込んだ計画書を作るよりは、必須項目だけを選んで、本質を外さないしっかりとした骨格作りを行うべきと思う。

 その要点・骨格を整理すれば、①どのようなリスクを想定するか。②そのリスクへの対策。③復興のための組織、役割分担。④守るべき事業、業務、経営資源は何か。⑤どの業務を優先的に復興させる必要があるか。⑥中核事業の停止はいつまで許されるか。⑦中核事業をどのような方法で回復させるのか。⑧従業員はその時、どのように行動すればいいのか(教育・訓練)。 となろう。



*7)中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」から
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事業継続計画(BCP)を考える第5回

2012年09月13日 | Weblog
原発事故とBCP

 BCPは事故や自然災害、感染症の広がりなどからのダメージに対して企業がどのように立ち向かって復興を進めていくかのプログラムである。このことが注目されているのは、勿論阪神淡路大震災(1995年)や新潟中越地震(2004年)またタイ国での大洪水(2011年)、東日本大震災における地震と津波の被害に加え、原子力発電所の事故が重なったまさに複合災害による未曾有の国難の教訓を、企業活動にも活かすためのものでもあろう。

 福島原子力発電所の事故は、世界でも1986年4月に当時のソビエト連邦で起こったチェリノブイル原発事故に次ぐものとなった。いかに想定を超える津波に襲われたとはいえ、その想定も事故対応のための備えもいかにも不十分で、それも事故が起こって分かることでは手遅れである。しかしその教訓を他の原発に活かせば、今後原発の安全レベルは格段に向上し、原発に依存しないエネルギー政策を論じる必要性は薄くなると思う。

 しかし、原子力は未だ人類の管理不能の領域であり、原子力発電はすべて止めるべきと言う意見が勢いを増している。福島より揺れが大きく同様の津波も押し寄せた、東北電力女川原発はほとんど損傷を受けなかった*5)ことはあまり語られない。人気の落ちた政党やそこに所属する国会議員が、今後の選挙で生き延びるための新しい大衆迎合策として脱原発は利用されるに至り、現政権の稚拙な再稼働への手続きと重なって、わが国で原子力発電は偏に悪役となってしまった。ドイツやイタリアでも原発廃止の方向だ。

 確かに、原子力発電設備の安全対策や、万一の場合の住民避難準備に無尽蔵にお金を使うなら、結局経済性の問題から原子力発電を進めることはできない。しかも、元々放射性廃棄物処理に確かな見通しのないまま突き進んだ。トイレの無いマンションとまで揶揄された。その陰には使用済み核燃料が高速増殖炉を経て核兵器に変わるという軍事的意味を持ってもいるという説もある。核兵器をいつでも作る能力を保持しておくことは国家の安全保障上必要という判断がある。

 何を行うにもリスクはつきまとう、米国のスペースシャトルだって1986年のチャレンジャー号が打ち上げ直後に、そして2003年コロンビア号が地球に帰還する直前に事故を起こし乗組員宇宙飛行士全員を亡くしている。スペースシャトルは135回の打ち上げがあったというからその事故率や1.5%という高率である。

 世界の富を求めてポルトガル、スペイン、イギリス、オランダなどの帆船が世界の大海を渡った15世紀から17世紀の大航海時代。コロンブスのアメリカ大陸発見やその艦隊が初めて世界一周の快挙を成したマゼランなど名を成した冒険家の陰で、どれほどが海の彼方から帰らぬ人となったか。マゼランだって途中の島で現地の酋長に殺されたという。

 「虎穴に入らずんば虎児を得ず」かどうかは知らないが、前向きなリスクに挑戦する気概を失った民族や国家は衰退するしかない。企業だって同じだ。現在の日本では「衰退してもいい安全を取る」という人が多いのだろうけれど、安全策が必ずしも先の安全までを保証するものではない。現代の世界も、周辺国家の指導者の発言を聞いていると、帝国主義時代の世界と大きく変わっているとは思えない。衰退した国家は無法者国家に制圧される。

 それなら原子力発電所のBCPはどうあるべきか。まず可能な限りの防災対策が必要であることは間違いない。万一の場合に備えて近くの民家は立ち退いて貰った方がいい。ダムを建設する場合だって集落の人々に転居して貰っている。出来ないことではない。さらに転居した境界近くの住民には、避難誘導マニュアルに沿って適宜避難訓練も必要であろう。

 さらに炉心溶融(メルトダウン)の恐れのある事故の場合は、所長の判断で廃炉を前提に停止する。地下のピットに原子炉を落とし込むくらいの処置が必要である。BCPとは言ったが当該原発は復興も継続もない。それで投資が回収できるか。事故率*6)は真の6σ(事故率10億分の2)と置けば、事故は日数ベースで137万年稼働する間に1日しか起こらない。時間ベースでも6万年に1時間しか起こらない。従業員の教育・訓練のさらなる充実でこの確率は維持できる。




*5)日本経済新聞9月9日朝刊「耐えた女川原発 教訓は」外国人専門家が見たもの
*6)科学的根拠はない。
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事業継続計画(BCP)を考える第4回

2012年09月10日 | Weblog
BCPの目的

 スポーツなどでは攻守に優れる選手は尊ばれる。分かり易いのは野球で、ピッチャーは兎も角、打力に優れることがまず求められるけれど、守備も人並み以上でなければ、チームのレギュラーを確保することはできない。野球は多くのスポーツの中でも特に選手の攻守別の評価が明確になる競技である。サッカーなどではゴールキーパーが敵陣へゴールを決めることはまず無いように、ポジションによって選手の攻守分担がされているようだけれど、それでもミッドフィールダーのように攻守共に求められるポジションもある。囲碁や将棋では、その1手が攻めにも守りにも効率よく効いておれば好手となる。

 企業にも攻めと守りのポジション(部門)がある。安全とか防災といえば守りの性格があり、マーケティングや研究開発などは攻めの部門といえる。企業は攻め時と思えば、研究開発部門や販売部門への投資を拡大して売上向上を図る。一方安全や防災への投資では直接的に売上を増やすことは出来ない。いかに失点を少なくするかの活動であり、すなわち守りの部門である。企業内でどちらの部門が重要かと言う問題ではない。いくら売上が立っても事故やトラブルが多ければ当然生産に支障を来し、供給数量を維持できないし、いかなる部門にあっても底が抜けるように出費が増えたのでは企業は持たない。

 製造現場や品質管理部門はサッカーでいうミッドフィールダーのようなポジションだ。顧客に適応する高品質な製品を効率的に生産して市場に提供できれば、売上の増大に繋がり、利益率も向上する。攻めるための必須の足がかりである。

 それならBCPはどうか。安全・防災の延長線上にあるから守りの類かと言えばそうであろう。しかし、今やBCPを確立しておくことは、取引先からの信用が高まり長期的な業績向上につながる可能性があるし、BCP策定の過程で在庫管理や顧客管理の実態が把握できることで、全般的な経営管理の向上が期待できる。また、地域の同業に比べいち早く復旧することで、シェアーの拡大につながる可能性もある。単なる守りだけでなく攻めにもなっているわけだ。BCPは囲碁や将棋で言う、攻めにも守りにも効いた好手なのである。

 さらに、緊急時では従業員は、上司や経営者の指示が期待できない場合が多いため、日頃から自分が何を成さねばならないかという判断が出来るようになっておく必要がある。それは常に自分の頭で考える癖を持つということである。その習慣は日常の仕事の中でも活きることだ。BCPはそこに指針を与える。

 「釜石の奇跡」*4)では、釜石小学校生徒の各自の判断が、津波から全員の命を守ったことを知った。それは日頃からの教育・訓練の成果であり、先生や両親からの指示なくても子供たちが正しい緊急行動がとれるようになっていたことを示す。

 すなわち、生死を賭けた究極の判断を、事前に想定された災害に合わせて反芻することは、企業の日常業務の中でも暗黙の判断の拠り所のようなものが掴めるようになり、従業員一人一人が確実に成長できる。BCPの目的は、事故・災害からの被害を可能な限り軽減すると共に、基幹事業をいち早く復旧するためのもので、従業員の生命を守ると共に事業を継続することで顧客を繋ぎ止め、雇用を守ることであるけれど、同時に人材育成のための方策にも成り得るのである。


 

*4)本稿第2回「生死を分ける」参照
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事業継続計画(BCP)を考える第3回

2012年09月07日 | Weblog
BCPの求めるもの

 BCP(business continuity plan)が対象とするリスクは主に自然災害、爆発・火災及びインフルエンザや新型感染症の大流行などで、資金繰りは二次的な要素とし、後継者選びなど所謂事業承継に関することは課題としていない。そのため、従来からある安全第一の思想や防災対策とどこが違うのという疑問も湧く。防災は「命と資産を守り」、BCPはこれに加えて「顧客からの信用と従業員の雇用を守るために事業を継続する」という解説もあるが、時系列で捉えて、防災は災害や事故が起こる前に行う対策、それらに対処する行動基準であり、「BCPは災害や事故の発生後の復旧までを視野に入れた行動基準を定めるもの」と捉えると分かり易いように思う。

 大抵の企業には作業の安全対策や、通常の地震対策、火災報知機の設置など最低限の事故・防災対策は行っている。ただ、このたびの東日本大震災の大津波の被害のように、企業や工場を根こそぎ壊滅させるような災害を想定して、その後の復旧の対策を考えていた企業は少なかったのではないか。実は阪神淡路大震災などを受けてBCPの考え方に沿って対策していた企業もあり、従業員への教育・訓練なども行っていた企業では、被害を抑え復旧も早かったという。

 さらにBCPは、自社は災害に遭っていないが、有力な部品メーカーが被災して部品供給が止まり、製品が作れないような事態への対処も範疇である。従来から日本のどこかで大きな地震被害があるたびに、トヨタ自動車に代表されるようなJIT*2)を徹底している企業では、部品供給企業の被災によって、生産ラインが直ちに停止する事態が発生したことを聞く。JITをやっている企業でなくとも、長期に部品供給が停止すれば困ることに違いは無い。

 また、大きな地震や津波ではその被害が広範囲に及び、その地方のインフラを大きく損傷させることから、事後の対応が、通常の事故対応のようにはゆかないことも捉えておく必要がある。従業員が怪我をしても救急車はこない。火災が発生しても消防車は来ない。電気、水道、ガスすべてが停止する。通信機能さえ怪しい。そのような事態を想定して被災後の対策、復旧をプログラムする必要がある。

 東京電力福島第1原子力発電所でさえ、『事故時の本社などからの支援計画は、通信インフラも交通インフラも、うまく流れる平常時の状態を前提にして立てられていたし、地震・津波災害と原発事故が同時に起こる複合災害を全く考慮していない、あまりに楽観的な発想によるものだった』*3)という。

 南海トラフ(四国の南の海底にある水深4,000m級の深い溝(トラフ))由来の大地震と大津波、首都直下型地震、富士山の噴火などが現実味を帯びて予測される中、自然に打ち勝つことは出来なくても、せめて心構えだけでも文書化し、企業内に周知すること、それがBCPの第一歩である。




*2)JIT(ジャスト・イン・タイム): 製造業における部材調達・製品生産に関する思想で、「必要なものを、必要なときに、必要な数量だけ」調達・生産するという考え方。
*3)文藝春秋2012年9月号、「原発事故私の最終報告書」柳田邦男(ノンフクション作家)
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事業継続計画(BCP)を考える第2回

2012年09月04日 | Weblog
生死を分ける

 9月1日に、NHKテレビで防災の日スペシャル番組として、「釜石の奇跡」という番組をやっていた。断片的には聞いていた話だったけれど、ドキュメンタリーのドラマ仕立てで全体像が浮き彫りにされ、非常に示唆に富んだ話となっている。この話は教育界に留まらず、経済界にもリスク管理の手本として、いろんな所で取り上げられてもいるらしい。

 釜石市は人口4万人ほどの街だけれど、昨年の震災で1,000人を超える死者を出した。しかし、小中学生の犠牲者は5名。2,921人が津波から逃れたという。生存率99.8%。今回NHKがアニメと実写のドキュメンタリードラマの対象としたのが、市街地の釜石小学校の生徒184名。当日は午前中の授業だけで、地震のあった時刻には子供たちはそれぞれの私的な日常を過ごしていた。学校でのまとまった団体行動が取れる状態ではなかった。しかし、子供たちは大きな津波が来ることを予感し、訝しがる祖父母や両親さえ説得して共に高台に逃げた。

 大人たちは、これまで命に関わるほどの津波を体験しておらず、自身の経験と思い込みに縛られる見本のような行動を見せた。一方子供たちは学校で定期的に避難訓練を受けており、2004年のインド洋津波の映像も見せられていた。子供は生命維持の本能が大人より遥かに強いこともあろうが、地震当日の行動はやはり教育・訓練が大きくものをいった。その陰に一人の大学教授*1)の活動があったそうだ。

 高い見識と行動力を持った大人もまだこの国に残ってはいる。しかし、大抵の現代の日本の大人は、戦後70年近くを平和に過ごし、想定されないような恐ろしいことは起こらないと思っていた。大震災を経た今も、脈々としてこの国のふやけた体質は残っているように見える。

 企業が長く継続するためには、内部統制の仕組みを持つこと、時代の変遷に合わせて経営革新を行うこと、そして事業承継をうまく行うこと。さらに大災害にも耐えうる備えがなければならない。

 『東日本大震災において、中小企業の多くが、貴重な人材を失ったり、設備を失ったことで、廃業に追い込まれました。』とは、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」の冒頭にある。一方で従業員の機敏な対応で、被害を最小限に食い止め、1週間余りで基幹事業を復旧させた企業もセミナーなどでは紹介されている。企業の生死を分けるのも、日頃の備えと全社を挙げた教育・訓練が大きい。



*1)群馬大学片田敏孝教授。釜石市教育委員会は2004年から教授の指導を受け、教師や児童の意識改革に努めていたそうだ。教授の教えの基本は「想定に縛られず、自分の命は自分で守れ」
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事業継続計画(BCP)を考える第1回

2012年09月01日 | Weblog
自然災害の国

 四季に恵まれ、風光明美な自然環境に加え、温厚で感性に優れた国民性が織りなす伝統ある高い文化と高度な文明。国内に宗教や人種による対立はなく、犯罪なども少ない非常に恵まれた国家であるけれど、風光明美な自然環境に付随して自然災害の多彩さと被害の甚大さは、昨年の東日本大震災や先の阪神淡路大震災や数々の風水害から明らかな通りである。

 防災の日に先立つ8月30日、新聞は南海トラフ地震による政府の被害想定を一面に載せた。今回は「想定外」の言い訳のハードルを高くする為か、これまでになく国民に対して危機感を募らせるものである。津波の高さなどは、高知県、静岡県、東京都島しょ部で30mを超えるとしている。各地で、「ここは海抜何mです」表示が行われているようだけれど、従来の避難場所をさらに高地に変更せねばならない所も出ているようだ。

 企業活動においては、我々の時代にも地震対策は大きな課題であり、事務所のキャビネットなど固定金具で床や壁に固定したし、想定訓練なども定期的に実施していた。工場の宿直室には緊急時の処置マニュアルがあり、夜間発災時にも指揮命令系統が途切れぬように備えていた。従業員一人一人にも、災害発生時の行動指針と覚悟があったと思われる。

 一般に事業継続に対するリスクは、自然災害だけでなくかなり広範囲に及ぶ。企業活動において資金繰りは前提であり、お金が回らなくなれば倒産となるが、ここでは災害や事故を対象とし、お金の問題は復旧等に必要な資金と言う意味で二次的な対象となる。また、例えば休暇を利用して全員で親睦旅行に出かける場合など、どうしても旅客機を利用するなら2班に分かれて別便を利用するなどの配慮も必要である。工場設備や機械類、パソコンサーバーのデータ類などに限らず、人的被害も事業継続には大きなリスクであり対象となる。その意味で新型インフルエンザの流行などに備えることも必要であり、津波や火災・爆発からまず従業員を守ることがリスク管理として優先されるべきものである。

 日本列島(地球)全体として、自然災害の脅威に晒されていることは間違いないけれど、場所によってそのリスクは大きく異なる。国土のハザードマップなども作られているようで、企業は工場立地条件の一つに災害確率の低さも考慮する必要がある。その上で、いざという場合に被害を最小限にして、復興までの時間を最短にする取り組みが必要なのである。

 そこで、最近はいろんなところでBCP(事業継続計画)についてのセミナーなどが盛んである。中小企業庁は「中小企業BCP策定運用指針」をネット上に公表している。数10年数100年に一度にどう備えるか。投資が必要な場合には経営判断も必要になろうけれど、災害に対応する従業員の意識を向上させる取り組みだけでも、万一への対処は違ってくる筈で、指針に従って体系的に文書にまとめて周知しておくことは必要なことと思う。

 美しい地球は反面、まだ生きて活動している惑星であり、常に自然災害を引き起こす惑星であること、それに備えが必要であることを忘れてはならない。



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