さいえんす徒然草

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メンデルが発見した遺伝子の単離に成功

2007-01-10 23:33:03 | 分子生物学・生理学
 約一世紀半ほど前、オーストリアの司祭であったグレゴー・ヨハン・メンデルはエンドウマメの研究から、遺伝に関する重大な法則の発見(優劣・分離・独立)をしました。残念なことに当時それは理解を得られずに、彼の死後別の研究者によって再発見された後、やっとその功績が認められたのでした。生物の教科書には必ずと言っていいほど彼の肖像画と皺くちゃとツルツルの豆の絵が載っているはずです。

  1866年に発表されたメンデルの論文には例の“種子の形状”に関する形質の他に全部の7つの彼の遺伝の法則にのっとった形質(他に“種子の色”“鞘の形状”“鞘の色”“茎の長さ”“花の色”“花の位置”)が記載されています。彼の発見したこれらの形質を支配する遺伝子のうちDNAの塩基配列が明らかになっているのは現在までたった二つだけだったようですが(どれとどれかは知りません)、今回英国の研究者らによって3つ目として“種子の色”の表現形に関わる遺伝子が新たに単離されました。

  メンデルの発見した遺伝子座はエンドウの種子の色が黄色か緑になるというものです。彼らは最初、牧草種である Festuca pratensis というイネ科植物の緑色色素が分解されないsgr (stay green)という表現形に着目し、染色体上にマップしました。その後 F. pratensis の近縁種で、全ゲノムの解読が既に完了している稲 Oriza sativa で染色体上の同じ領域を探索し候補遺伝子を絞り、シロイヌナズナ Arabidopsis thaliana でRNA干渉法による機能解析を行って特定しています。実験をエンドウマメ Pisum sativum に戻し、メンデルの発見した表現形とこの遺伝子は分離せずに一致すると最終的に確かめられたそうです(種子が緑になるものはsgr遺伝子の発現が少なくなるようですが、その原因が何によるものかは原著論文を読んでも良く分かりませんでした…)。

  彼の論文から141年経ち、遺伝子の実体に関する知識やそれを扱う技術は劇的に進歩しましたが、未だに彼の発見した形質のうち半分以上がまだ遺伝子として単離されていないというのが何かロマンのようなものを感じます。今回の研究の著者らは、残りの4つについてもあと数年以内に明らかになるだろうと期待しているようです。

 <参考>
 Gene Behind Mendel's Green Pea Seeds Finally Identified(Scientific American)
 Cross-Species Identification of Mendel's I Locus, Ian Armstead et al., Science 5 January 2007:Vol. 315. no. 5808, p. 73 DOI: 10.1126/science.1132912