isorokuのこころの旅路

遊行期に生きる者のこころの旅路の記録です

国家ビジョン・戦略を考える視点

2009-12-30 11:19:27 | Weblog
民主党政権には国家ビジョン、国家戦略がないという声はあちらこちらから聞こえてきますが、今のところ、なるほどと感銘できる説得力のある国家ビジョン・国家戦略の提言がどこからも出てきてないように思われます。
こういう状況のときは、まず考える視点を確立することが大切と思っていましたところ、12月24日の毎日新聞文化欄「論壇を読む」の記事が目に留まりました。
「論壇においても大局的な議論が少ないという傾向がある中で、宮本太郎著「生活保障」(岩波新書09年11月刊)は、日本が取り組むべき課題を理論的に整理して、政策提言へとつなげており、このような骨太の基盤で政策論争がおこなわれることが、政権の方向性に全体性が備わるために不可欠である。後に続く議論を期待したい」という飯尾潤氏の解説記事に共感しました。
早速宮本太郎著「生活保障」を購入し読んでみましたが、内容についての検討は後ほど別建てで行うとして、まずそこに示されている「考える視点」に感銘したので、列挙してみます。
●これからの政府は、官僚主導の守旧型でも新自由主義でもない新たなビジョンをもって現実と向かい合わなければならない。
●欧米では旧来型の福祉国家が行き詰まり、新自由主義も挫折したときに、第三の道が唱えられた。第三の道とは、福祉国家を市場原理の要素を加味しながらバージョンアップしうるという考え方である。
●日本の旧来型制度は社会保障よりも長期的雇用関係や公共事業で広く雇用を提供し、生活を支えるというものであった。そもそも出発点が異なることに加えて「第三の道」という戦略事態が、グローバル化の新しい状況とズレはじめている。
日本の現実により適合的な、別個のビジョンが必要となりそうである。
●大事なことはこれまでの日本型生活保障の特質をあらためて考え、また欧米の経験にも学びながら、生活保障の新しいデザインを考えていくことである。
●本書は第一に大多数の人が就労できあるいは参加できる「排除しない社会」へのビジョンを考える。
第二に単に所得保障がおこなわれるだけでなく、生きる場が確保される生活保障のあり方を考えていく。
第三に実現可能なビジョンを考える為に必要な、生活保障をめぐる合意可能性の追求、ルールの明確化を考える。
●日本では人々は「大きな政府」なり「福祉を重視した社会」を支持する傾向にある。しかしいざそのために負担を求められても、政府が税金を約束された目的のためにだけ使うとは信じられない。
●着実な改革とは、私たちが生きる社会の歴史と現状から出発するもであり、漸進的なものである。戦後の日本社会が何から何までダメな社会であったというのは間違いである。この国でこれまで人々の生活を支えてきた仕組みを発見し、問題点を是正しながら発展させていくという発想が必要である。
●本書は、雇用を軸とした生活保障を、より多くの人を包摂するものとして再構築し、併せて囲い込み構造を解消して人々のライフチャンスをひろげていく道筋を考えた。

<所感>
・「世界のどこを探しても日本が直面する事態にそのまま使えるモデルは存在しない」「この国でこれまで人々の生活を支えてきた仕組みを発見し、問題点を是正しながら発展させていくという発想が必要である」という叙述から見られるような宮本氏の視点に感銘しました。
・日本の歴史的現実に立脚した上で、北欧福祉国家の先進的経験を批判的に参考にしながら、21世紀日本に適合する国家ビジョン、国家戦略を独自に創造的に考えるという視点にあらためて共鳴しました。

















国家ビジョン・戦略をめぐる疑問

2009-12-18 21:30:02 | Weblog
散歩途中の本屋で偶然目が止まり、内田樹著「日本辺境論」を購入・通読したところ、日ごろの疑問に一筋のヒントをいただき、たいへん有益でした。
日ごろの疑問とは、「日本では、昭和の陸海軍指導者、バブル崩壊後の自公政権、政権交代後の民主党政権で顕著に出現しているような現象、即ち国家ビジョン・国家戦略の欠如を土台とした近視眼的状況対応主義を是正できないのはなぜなのか?」という疑問です。
内田樹著「日本辺境論」でヒントになった叙述は次のとおりです。
・他国との比較を通じてしか自国のめざす国家像を描けない。国家戦略を語れない。そのような種類の主題について考えようとすると自動的に思考停止に陥ってしまう。これが日本人の際立った国民性格です。
・外部のどこかに、世界の中心たる絶対的価値体がある。それにどうすれば近づけるか、どうすれば遠のくのか、専らその距離の意識に基づいて思考と行動が決定されている。そのような人間のことを、本書では「辺境人」と呼びます。
・辺境は中華の対概念です。世界の中心に「中華皇帝」が存在する。そこから王化の光があまねく四方に広がる。近いところは「王土」と呼ばれ、辺境には中華皇帝に朝貢する「蛮国」があり、さらに外には「化外」と呼ばれる暗闇がある。
・世界の中心の辺境として自らを位置づけることによって、コスモジカルな心理的安定をまずは確保し、その一方で、その劣位を逆手にとって、自己都合で好き勝手なことをやる。この面従腹背に辺境民のメンタリティの特徴があるのではないか。
・日本人は後発者の立場から効率よく先行の成功例を模倣するときには卓越した能力を発揮するけれども、先行者の立場から他国を領導することが問題になると、ほとんど脊髄反射的に思考が停止する。
・「世界標準に準拠してふるまうことはできるが、世界標準を新たに設定することはできない」それが辺境の限界です。

<所感>
・日本の指導者たちが、国家ビジョン・国家戦略を打ち立てて、変動する環境への短期的対応も行いながら、長期的な視点でビジョンを実現するためのシナリオを描き、そのシナリオを具体化していく姿勢をとることができない背景に、日本の長い歴史的風土が生んだ、辺境人的風土が存在しているようです。
・おまけにソ連圏の崩壊で世界標準として権威を高めてきたアメリカのパワー衰弱・世界の多極化で、頼るべき世界標準が消えているので、日本の指導者たちが国家ビジョン・戦略を打ち立てることができないのもうなずける次第です。
・もし日本人が辺境人的姿勢から脱却できないとしたら、多極的な世界のなかで標準として考えられる国づくりをしている国、人間の顔をした資本主義(ヨーロッパ資本主義特に北欧資本主義)をモデルに、国家ビジョン、国家戦略を考えたらよいのではないかと思います。(共産中国は将来経済的軍事的力は大きくなるでしょうが、最近の動向を見る限り倫理的・文化的に世界標準にはなりえないと思われます)。









NHKスペシャル海軍はなぜ誤ったのかを見て考える

2009-12-09 10:10:23 | Weblog
昨日は開戦記念日でした。前日の夜放映されたNHKスペシャルで、海軍は何故誤ったかを録画しておき、じっくりと観ました。
海軍反省会のカセットの記録で明らかになった、日本海軍の組織的特徴=海軍あって国家なしの統合的思考欠如、軍令部第一委員会メンバー俊秀たちの蛸つぼ的思想が、無謀な開戦とその後の敗戦につながったことを浮き彫りにしていました。
アメリカ側には、日本に先に打たせる謀略があったとされる側面が存在したかもしれませんが、日本側の今から見れば無謀な開戦への動きは、国家リーダーに統合的思考が欠如した場合の恐ろしさを物語っています。
日本海軍の組織的特徴は、今日の企業でも似たような現象がありますし、また霞が関官僚機構でも根強く残っているように見受けられます。そして政治の世界も同じように思われます。
統合的思考の欠如、蛸つぼ的思想は、国家ビジョンと長期的国家戦略の欠如を背景にした状況対応的思考、対症療法的思考から発生すると考えられます。
いくら俊秀と呼ばれるリーダーでも、国家ビジョンに基づく長期的国家戦略がなければ、海軍あって国家なしの対症療法的発想でしかものごとを考えられないわけでしょう。
日本の政治の世界を見ると、自公政権はグローバルな市場経済の荒波に対し対症療法的発想で対応を続けた結果、国民の信頼を失いましたが、次の民主党政権でも国家ビジョン、長期的国家戦略があいまい(コンクリートから人へ、東アジア共同体、CО225%削減などはスローガンであってビジョン・戦略ではない)なために、対症療法的対応が続いているようです。(仕分け作業による科学技術予算の取り扱いなどはその典型か)。
民主党政権がこのまま国家ビジョン、国家戦略があいまいなまま政策展開や政局展開をすすめるようなら、日本海軍の誤りを再び繰り返すような気がしてなりません。