トランプ大統領選出の背景を知るためには、現地に派遣された新聞記者の目によるレポートは情報として確認しておく必要があると思います。印象に残った毎日新聞「記者の目」記事のポイントを引用しておきます。
◆11月16日北米総局西田進一郎
・米国には、▽増加する移民や非白人に対する白人の焦り▽経済のグローバル化の波にのまれた労働者の不満▽与野党対立で動かない政治へのいら立ち▽人種や宗教などで差別を助長しない表現「ポリティカルコレクトネス」を重視する反発__が漂う。
・トランプ氏がツイッターで火を付けると、支持者らの差別的感情むき出しの投稿がツイッターにあふれた。象徴的だったのは、昨年12月のトランプ氏による「イスラム教徒の入国禁止」発言だ。信教の自由にかかわるだけに国内外から非難が殺到した。しかし、直後のネバダ州で開かれた集会で、支持者はことごとく「トランプ氏は正直だ」「我々の思っていることを言ってくれる」とまくしたてた。
◆11月17日ニューヨーク支局国枝すみれ
・選挙戦中、中西部のオハイオ州や南部のケンタッキー州の小さな町を取材して驚いた。職がなくなり、過疎化し、貧困と麻薬中毒が拡大していた。白人中間層の生活は事実上崩壊していた。
・炭鉱閉山が続くケンタッキー州東部マーティン郡は崩れかけた空き家が目立つ。・・・マーティン郡は企業を呼び込もうと飛行場近くに「産業パーク」を用意したが半分も埋まらない。誘致できたのは連邦刑務所くらいだ。同郡では、有権者の80%がトランプ氏に投票した。
・オハイオ州の田舎町アシュランドで、弁護士のロバート・デサントさんが言った「誰もが起業家や金融界で働けたりするわけじゃない。まじめに一生懸命働けば家を買って子どもを大学にやれる、少なくともそういうことができる職が必要なんだ」
・かって高卒で就職できた炭鉱や製鉄工場など、時給30ドル(約3200円)の職は消滅しつつある。残った仕事はコンビニや飲食店などに限られる。時給は10ドル程度だ。
・私は全米50州の大半を訪れたことがあるが、中西部や南部の田舎ほど心温まる場所はない。貧しいのに、ニューヨークのようにホームレスをみたことがない。
・格差拡大を放置し、彼らを「トランプ氏」という選択肢に追い込んだ二大政党の無策に怒りを感じる。
<所感>
・私も何回かアメリカ各地を訪問しましたが、オハイオ州のコロンバスでの人情の温かさに感激した経験があります。あのオハイオ州がこうした荒野になりつつあるのかと悲しくなりました。
・格差拡大を放置し、産業構造の変化で没落するたくさんの中間層(以前の輝けるアメリカを支えていた層)に対するアメリカ指導層の無策が、トランプ大統領を生んだ背景なんだと思います。
・自由の国アメリカで、ワイマール共和国のドイツからヒトラードイツが発生したような歴史が再現するとは夢にも思いたくありませんが、楽観してはいけませんね。
・格差拡大を放置し、没落する中間層に対する二大政党の無策の背景を究明する必要があります。
・しかし、そもそも格差拡大の原因を考えると、経済的要因としてのグローバリゼーションと経済思想的要因としての新自由主義思想の影響が大きいと思います。
・さらに、アイゼンハワー元大統領が退任時に警告した軍産複合体や、ウオール街の金融システム(一部で強欲資本主義と言われる性質)の存在があります。
・こうした岩盤のような政治・経済・経済思想構造を考えると、二大政党の無策の背景がなんとなく感じられます。
・トランプ政権がこうした背景に対してどのように対処していくのか、予断を許さず観察していきたいと思います。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます