isorokuのこころの旅路

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尖閣衝突ビデオ流出をめぐる新聞社説・関連記事を読んで

2010-11-07 14:29:18 | Weblog
尖閣衝突ビデオ流出という衝撃的事件が起きました。今後の日本社会に及ぼす影響は想像以上に大きいのではないかと直感します。そこで流出直後の11月6日の新聞各社の社説と、11月6日と8日の関連記事で小生が共感した記事のポイントを記録しておきます。

●日本経済新聞 迫られるビデオの全面公開
・政府には、漁船衝突ビデオについて、重要な善後策がある。映像の全面公開である。政府は刑事訴訟法の規定を盾に公務執行妨害事件の証拠である公開できないとしてきた。しかし同規定の趣旨は、最高裁判例によれば(1)裁判に不当な影響を与えない(2)事件関係者の名誉を傷つけない-の2点にある。中国人船長が既に帰国した現在、証拠ビデオを公開しても同規定の趣旨には反しない。
・中国人船長の帰国後、政府がビデオを公開しようと思えば法律的には必ずしも不可能ではなかった。それでも一貫して公開に後ろ向きだったのは、日中関係への配慮という政治的判断が働いたからだろう。結果論からすれば、そうした対応は誤っていた。政府がビデオ対応を許していたことで、それをきちんと公表するよりもさらに悪い影響を日中関係に及ぼす可能性が出ている。
・日本国内では「なぜ中国漁船の乱暴な行為を裏づける映像を管政権が伏せたのか」という反発が広がり、中国では「日本側がわざとビデオを流出させたのではないか」と言う疑念が生まれかねない。流出したビデオをめぐり、ネット上では「政府によるねつ造ではないか」「いや本物だ」という書き込みが多数見られる。いまの状態を放置すれば、憶測がさらに広まり、修復に向かいつつある日中関係の足も引っ張る恐れもある。管政権は混乱を避けるために、この際、ビデオの公表に踏み切るべきだろう。

●読売新聞 尖閣ビデオ流出 一般公開避けた政府の責任だ
・政府内部から持ちだされた疑いが濃厚で、極めて遺憾な事態である。だが、それ以上に残念なのは、こんな不正常な形で一般の目にさらされたことだ。政府または国会の判断で、もっと早く一般公開すべきだった。
・流出経路について、政府が徹底的に調査をするなは当然である。再発防止に向け、重要情報の管理を厳格にしなければならない。
・流出した映像を見れば、中国漁船が巡視船に故意に船体をぶつけたのは一目瞭然である。もしこれが事件直後に一般公開されていれば、中国メディアが海保の巡視船が漁船に追突した」などと事実を曲げて報道することもできなかったのではないか。これほど「反日」世世論が高まることもなかったろう。
・中国人船長の逮捕以降、刑事事件の捜査資料として公開が難しくなった事情は理解できる。だが、船長の釈放で捜査が事実上終結した今となっては公開を控える理由にはならない。中国を刺激したくないという無用な配慮から、一般への公開に後ろ向きだった政府・民主党は、今回の事態を招いた責任を重く受け止めるべきだ。
・中国外務省は、国会での限定公開の直後に「ビデオでは日本側の違法性を覆い隠せない」との談話を発表した。世界中に映像が流れた今。こんな強弁を続けていれば、国際的にも批判を浴びよう。 中国は速やかに国内よ対日強硬論を抑え、日中関係の修復に努めてもらいたい。来週の胡錦濤国家主席の来日に合わせ、日中首脳会談を実現させるべきだ。

●東京新聞 政府対応が招いた流出
・政府のちぐはぐな対応で、事件直後なら日本の主張を裏付けた映像が、日中関係修復を急ぐ政府を困惑させている。
・「ぶつけてくるぞー!」の叫び、中国語による停船命令などの音声も収録され、現場の緊張した雰囲気が伝わってくる。漁船は恐れる様子もない。前原外相は「海保が撮ったものだと思う」と述べて、投稿映像が本物と言う見方を示した。
・事件直後、中国は巡視船が漁船に衝突してきたと主張していた。・・・ところが政府は公開をためらい逮捕した船長の身柄を送検した。映像は那覇地検が証拠として管理し公開のタイミングを逃した。9月下旬、地検が「日中関係への配慮」を理由に処分保留のまま帰国させ、公判の可能性が無くなっても映像は証拠の扱いを受け公開は出来なかった。
・この間に政府は管首相と温首相の廊下階段を実現させ、関係緩和に動いた。政府はビデオ映像公開を遠慮するようになった。10月末にハノイで予定されていた首脳の公式会談は、中国国内の反発を恐れた温首相が土壇場でキャンセルした。今月13日からのAPECで胡錦濤国家主席との首脳会談を目指す政府はますます映像の扱いに慎重になった。
・映像流出は深層にふたをした事件の幕引きに反発する政府関係者がかかわっている可能性が高い。捜査資料の流出は遺憾だがそれを招いたのは政府の混乱した事件への対応ではないのか。
・中国は憂慮の表明をしているが自らの主張を覆す映像をめぐり、ことを荒立てるとは思えない。流通映像で明らかになった日本の立場の正当性も背景に、政府は主張すべきを主張し、首脳会談実現を中国に迫る外交力を発揮すべきだ。

●毎日新聞 統治能力の欠如を憂う
・捜査資料として保管していた証拠の一部の漏洩を許したことは政府の危機管理のずさんさと情報管理能力の欠如を露呈するものである。
・政府が先日国家に提出したビデオは約7分間に編集されたもので、視聴は予算委理事らに限定された。限定公開に対しては、全面公開を主張する自民党などから「国民に事実を知ってもらうことが大切だ」などの反対論が出た。しかし、政府は国際情勢への配慮などを理由に慎重な扱いを求め国会が要請を受け入れた経緯がある。
・それが、政府と国会の意図に反する形で一般公開と同じ結果になってしまったことに大きな不安を感じる。この政権の危機管理はどうなっているのか。
・もし内部の職員が政権にダメージを与える目的で意図的に流出させたのだとしたら事態は深刻である。中国人船長を処分保留で釈放した事件処理と国会でのビデオ限定公開に対する不満を背景にした行為であるなら、それは国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた「倒閣運動」でもある。由々しき事態である。厳正な調査が必要だ。
・中国側はビデオ流出について「日本側の行為の違法性を覆いかくすことはできない」との外務省報道官談話を発表した。ビデオ映像は中国の動画投稿サイトにも転載され「中国の領海を日本が侵犯した」などの反論が出ているという。このビデオ流出問題に
どう対応するか。管政権は新たな危機管理も問われている。

●朝日新聞 冷徹、慎重に対処せよ
・流出したビデオを単なる捜査資料と考えるのは誤りだ。その取り扱いは、日中外交や内政の行方を左右しかねない高度に政治的案件である。それが政府の意に反し、誰でも容易に視聴できる形でネットに流れたことは、驚くほかない。
・流出により、もはやビデオを非公開にしておく意味はないとして、全面公開を求める声が強まる気配もある。しかい政府の意思としてビデオを公開することは、意に反する流出とはまったく異なる意味合いを帯びる。短絡的判断は慎まなければならない。
中国で「巡視船が漁船の針路を妨害した」と報じられていることが中国国民の反感を助長している面はあろう。とはいえ中国政府はそもそも領有権を主張する尖閣周辺で日本政府が警察権を行使すること自体を認めていない。映像を公開し、漁船が故意にぶつけた証拠をつきつけたとしても、中国政府が態度を変えることはあるまい。
・日中関係は、管首相と温首相のハノイでの正式な首脳会談が中国側から直前にキャンセルされるなど、緊張をはらむ展開が続く。来週は横浜でAPECの首脳会議が予定され、胡錦濤国家主席の来日が予定されている。日中両政府とも、国内の世論をにらみながら、両国関係をどう管理していくかが問われている。
・ビデオの扱いは、外交上の得失を冷静に吟味し、慎重に判断すべきだ。


●毎日新聞11月8日朝刊 風知草 ビデオ騒ぎの教訓 山田孝男
・日本のビデオ(再生・録画装置)普及率は、89年に一般家庭の6割を超えた。この現実から、尖閣ビデオの公開制限を批判した佐籐卓也京都大准教授(メディア論)の文章(読売新聞5日朝刊)を面白く読んだ。80年代、テレビのやらせが社会問題化した。日本人はそのころから映像記録に対する加工、編集に敏感だった。「こうした高い映像リテラシー(読み解く力)をもった社会において、安全保障に関わる重大映像を編集局版で限定的に公開下だけで済むと政府は本当に思っているのだろうか・・・」
・「事態が発生してしまった以上は、積極的に情報公開し、徹底的に検証し、内外の理解を得ていくという態度が大事なのではないでしょうか」ビデオネット流出までを見届けた佐籐の感想だ。
・政府はなぜ公開制限に固執したか。ことを荒立てぬという暗黙の了解が、中国指導部との間にあったからに違いない。胡錦濤国家主席も参加するAPEC、首脳会議の円満開催を優先した。
・APECの主題は貿易・投資の自由化である。通商拡大による共存共栄の経済発展を目的としている。それはいいが、一本調子で大丈夫か。
・経済・軍事大国として台頭する中国は、暴走する資本主義とネット世論の手綱を共産党独裁政権が握る、矛盾の大国である。繁栄の陰で、開放経済と権力統制のきしみが火を噴き、黒煙を上げている。中国、ロシアという二つの重武装国家に接し、日本は心細い。頼みの米国も経済危機で余裕を失っている。日本をどう守るか。答えが必要だ。
・管政権は刑事訴訟法を盾に中国漁船衝突事件を制御し、ビデオ公開を制限した。それはあくまで方便だったと多くの人が察しているが、どうか。歴史的課題に挑まず、安保も刑訴法でしのげると本気で信じているのなら、即刻退陣してもらわなければならない。

●産経新聞11月6日の記事 「尖閣ビデオ流出 識者が徹底分析 元内閣安全保障室長 佐々淳行氏」
・「今回の映像は初動段階で公開すべきもので、国家機密でも何でもない。それを管内閣が勝手に機密化した。警視庁の公安情報漏れも、捜査協力者や他国の諜報機関との信頼関係を根底から崩す非常事態。担当大臣や外務大臣が各国に事情説明とお詫びをした上で、徹底究明すべき由々しき問題にもかかわらず、内閣周辺からはそういった危機感がまるで感じられない。
・佐々氏は尖閣ビデオの衝撃的内容以外に、次のような意図も読み取る。「中国の不法行為を証明する場面は、酔っぱらって抵抗したとされる船長の逮捕シーンだが、流出した43分間の映像には一度も映り込んでいない。これは明らかに政治的意図で、これ以上管政権が国家国益をおとしめるような対中外交を進めるなら、第2第3の公開もあり得るぞという強い意思がうかがえる」。


<所感>
・既にビデオが流出してしまった以上、その責任論や再発防止策も大切ではありますが、政府が今後取るべき重要な善後策はどうあるべきか、そしてその後の中期的な方針をどうすべきかという課題のほうが重要だと思います。
なぜならば、尖閣衝突事件は日本の領土であり、また日本政府が実質施政権を保有している尖閣諸島に対して、中国政府が衝突事件を契機として従来にない強硬な態度で領有権の主張を行っているという新しい歴史的事実があります。
漁船の船長が故意に衝突させた事実と共に、それを契機とした中国政府の姿勢変化にどう対応すべきかという課題のほうが最重要な課題だと思います。

・その意味では、まず善後策としてビデオの公開の是非が問われますが、日経・読売・東京・毎日の4紙は立場や多少異なりますが全面公開を主張しています。唯一朝日が政府による公開に慎重論を唱えています。
・朝日の慎重論は管政権の姿勢と同じであり、その理由を見ると「映像を公開し、漁船が故意にぶつけた証拠をつきつけたとしても、中国政府が態度を変えることはあるまい。来週は横浜でAPECの首脳会議が予定され胡錦濤国家主席の来日が予定されている。ビデオの扱いは、外交上の得失を冷静に吟味し、慎重に判断すべきだ」とあって、強硬な態度で領有権を主張する中国を刺激しないことを前提とした上で対処しようとしています。

・管政権や朝日社説の姿勢は、中国を刺激しないという前提で対処しようという発想のようです。中国の変化を見据えれば、摩擦を恐れる限りは日本の立場は中国の意思によって決まってしまいます。道理が日本側にある以上、毅然として主張すべきだと思います。武力で侵攻してくる情勢でない限りは、摩擦覚悟でビデオは公開すべきだと思います。

・善後処置として大切な二番目に大切なことは、処分保留のまま放置できないので、起訴か不起訴かを確定することです。この善後策と、中国政府の最近の姿勢変化にどう対応すべきかという課題については、どの社説も触れていませんが、識者の見解を連続特集記事で掲載し、それを踏まえた社説を展開してほしいです。日本のジャーナリズムの良心と奮起を期待したいです。


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