業務日誌

許せないヤツがいる 許せないことがある
だから倒れても倒れても立ち上がる立ち上がる
あいつの名はケアマネージャー

愛と死の食卓

2006年11月23日 | 業務日誌
10月の2部作
それは愛なの?と私に(つづく)
(つづき)訊ねるのはやめてくれ
の続々編でございます。

お食事。
それはほとんどの高齢者にとって最大の関心事です。
まして糖尿病の方、腎不全で透析を受けている方といった、食事に制限のある方たちなら尚更です。
私もヘルパー時代はこのような方たちの調理にはとても悩まされました。
なぜならば、このような方たちの大半は、食事制限を駐車違反程度にしか思っておられないからです。

私の担当する利用者 田中トシオさん(仮名)要介護3 72歳/男性、独居。
糖尿性網膜症で両眼の視力はほとんどなく視覚障害者として認定されてます。
1日2回のインスリン自己注射、当然食事には制限があります。
「わしゃ糖尿病だから、糖分に気をつけているんじゃい!」
とおっしゃるとおり、食事に砂糖を一切使われません。
ヘルパーが煮物や煮魚にちょびっとでも砂糖を入れようものなら
「あのヘルパーはわしを殺そうとしたんじゃい!」
と妄想に直結。
…おかげでいくつ事業所(ヘルステ)を変更してきたことか(泣)。
なのにトシオさん、塩分や油分や水分は摂る摂る。
いくらヘルパーが気を遣っても無駄だよ、自分で買って食べるんだもん。

そのトシオさん、現在、今年4回目の入院中。
ここ1,2ヶ月で両足(下腿)が象足レベルにまで腫れまくってしまったのです。
「とうとうトシオさんも透析かも」
とは前任の担当ケアマネ・ナース河合の言葉。
うーん、そうかも。
今回の入院で透析の必要アリとなれば、たぶんそのままシャント作ってから退院ということになるだろうなあ。

.........................だが、そんなことを黙って承知するようなトシオさんではなかったわ。

そう、過去ログに書いたように、トシオさんは結婚をひかえた身。来年1月に入籍、という具体的な話になっています(いつの間にか)。
お相手は10歳以上年下のオーバーステイ、お名前はリリーさん(仮名)韓流。
もしも透析が開始されれば、トシオさんの描くバラ色の新婚生活はどうなるキヒヒ。
で、トシオさんは現在、主治医と激しい攻防戦をくりひろげています。
「わしゃ絶対に透析なんてせんのじゃい!あんなものするぐらいなら死ぬわい!」
…このまま透析受けなければ近々その願いは叶うでしょう、と言いたいけれど…言えやしない、言えやしないよトシオさん。


そこで問題になってくるのが、そうです、食事療法です。
透析を受けなくてはならない状態の人が透析を拒否した場合、可能な限り腎機能を薬で補い、かつ厳しい食事制限を守らなくてはなりません。
そこでトシオさんかかりつけの東部大病院が、ひがしヘルステのヘルパーさんたちに「トシオさんの食事を調理しているヘルパーさんに、今後の注意を指導させてもらいたい」と申し出て下さったのですが、これがまたまたプチなトラブルを招いてしまいました。
ひがしヘルステのたったひとつの美点、それは医療に強いヘルパーさんが多いこと(例外もございますが)。病気の方にとって食事は薬と同じ、という意識が高い。ましてや透析ルームを持つクリニック併設のヘルステ、なぜに今さら他所の病院に減塩や減カリウム食の調理法の指導を受けろなんて言われなきゃなんないのさ、とヘルパーさんおおいに憤慨です。ひがしクリニックの沽券にも関わります(…それでも意欲のあるヘルパーさんなら喜んで指導を受けに行くと思いますけどね…)。
ま、私もこの件に関しては、東部大病院の管理栄養士さんにトシオさん経由で
「トシオさんはもともと、食事のすべてをヘルパーさんの支援に頼っておられる方ではありませんよね、ヘルパーがトシオさんのお宅で調理をしているのは週に1度の昼食1食程度ですからね。あとはお買物だけを依頼されていますが、大抵生活物資で食材はほとんどありませんからね。」
と、今回のトシオさんの入院はひがしヘルステの責任ではないことをさりげなくアピールしました。

ナマホにまつわる諸事情により、リリーさんとの同居を主治医や病院に隠しているトシオさんはどうしても
「なので、食事療法についての指導を受けてもらうとすれば、トシオさんの奥さんのリリーさんが先ですよ」
という私の意見が通じません。
それどころかトシオさん、
リリーさんには自分の病気のことを
ただの胃炎

と説明していたのでした。

ああ…なんてややこしいことを…


も゛う゛い゛や゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!


マジでこの利用者なんとかしてええええええぇぇぇぇぇぇ…


私は、リリーさんのお国の言葉を話せるケアマネさんに頼み込んで、リリーさんへの指導と説明をしてもらうことにしました。
トシオさんの本当の病気を知ったリリーさんは絶句。
そうとは知らずにこれまで、フツーの人同様に酒やコーヒー、果物などをフツーに食べていたのですから…。
いくら知らなかったこととはいえ、自分の愛の手料理が、これからダンナさまになる人を死に追いやるところだったと知り愕然とするリリーさんですが、どうかお願いですからトシオさんを見捨てないで。
トシオさんが退院したらもうヘルパーは中止します。
そしたらあとはリリーさんにおすがりするしかないんですから…