語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】米国から「外交指南」を受けた日本 ~チャック・ヘーゲル~

2014年01月19日 | ●佐藤優
 (1)安倍晋三首相の靖国神社参拝(2013年12月26日)について、米国政府も批判した。
 「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」【同日の駐日米国大使館の声明とサキ国務省報道官のコメント】
 外交の世界で、disapponted(失望した)という言葉が同盟国間で使われることはまずない。
 <同盟国に対して「失望した」と言うことの恐ろしさを知ってほしい。外交の世界で同盟国にこんなにはっきり言うのは異例です>【東郷和彦・元外務省条約局長/元同欧亜局長、12月29日付け朝日新聞】

 (2)問題は、かかる状況に安倍政権が危機感を抱いていないことだ。
 自衛隊出身の佐藤正久・参議院議員が、<disappontedがどれほど強い表現なのか。佐藤にはregretよりは軽い表現にも思えるし、文脈そして日本語感覚的には「失望(望みを失う)」ではなく、大切な同盟国(valud ally)の日本のリーダーが取った行動は「残念」に思う、といった感覚のように思える>【12月29日付けハフィントンポスト】と述べているが、英語力、外交常識の双方に問題があるから、かかるピント外れのコメントになる。
 disappontedとregretとどちらが重いか、という議論には意味がない。
 同盟関係にある国家に対して用いないdisappontedという言葉を米国政府が用い、日本政府に対して強いシグナルを出したことを正確に受け止めることが必要だ。
 日本が国際的に孤立し始めていることを等身大で見れず、希望的観測に縋る政府・与党の心理状態が、日本国家と日本国民にとって大きなリスクになっている。

 (3)米国政府は、日本に対する警告のシグナルを段階的に強めている。
 特に注目されるのが、小野寺五典・防衛相とチャック・ヘーゲル国防長官との電話会議(1月4日)だ。
 <安倍晋三首相の靖国神社参拝が日米外交にも波紋を広げている。小野寺五典防衛相は4日夜、米国のヘーゲル国防長官と電話協議。年末に急きょ中止になっていた協議が年明けに実現したかたちだが、米国防総省はヘーゲル長官が近隣諸国との関係改善を求めたことを明らかにした>【注1】
 <防衛省によると、電話協議で小野寺氏は「今後とも不戦を誓う意味で参拝した」などと首相参拝の「本意」を説明した。一方、米国防総省は「ヘーゲル長官は、日本が近隣国との関係改善のための一歩を踏み出し、地域の平和と安定のため協力を促進する重要性を強調した」と発表した>【注2】
 <電話協議の主な議題は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題だったが、安倍首相の靖国神社参拝によって日米韓の安全保障面での協力が停滞することや、日中の緊張がさらに高まることを懸念する立場から、国防長官としてあえて言及したとみられる>【注3】

 (4)ヘーゲル長官が、日本の東アジア外交について「指南」したこと自体が、「もっと中国と協力しろ」という米国の露骨なシグナルだ。
 通常、この種の話は表に出さないにもかかわらず、米国側が積極的に発表し、国際世論を通じて日本に影響を与えよとしている。客観的に見て、対日包囲網が構築されつつある。 

 【注1】記事「米「近隣国と関係改善を」 日米防衛相電話協議で指摘」(朝日デジタル 2014年1月6日05時00分)
 【注2】前掲記事。
 【注3】前掲記事。

□佐藤優「米国から「外交指南」を受けた日本 ~佐藤優の人間観察 第53回~」(「週刊現代」2014年1月15日・2月1日号)
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 【参考】
【佐藤優】安部首相の靖国参拝問題 ~「知の武装」レベル~
【政治】安倍晋三首相の「躁状態」 ~暴走を許す民意~

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