語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】税務署の所得把握が会社員に厳しくなる ~マイナンバー~

2013年06月01日 | 社会
 (1)住民基本台帳カードと共通番号(個人番号/マイナンバー)との違いは何か。
  (a)住基カード
    ①任意。②11桁の数字で構成。③導入に400億円が投入されたが、カード普及率はわずかに5%。④情報は氏名・住所・性別・生年月日に限定。⑤役所内部における利用が前提で、市民生活に直接関係しない「見えない番号」。

  (b)共通番号
    ①強制。②十数桁数字で構成。③導入に2,700億円(システムの新規開発に350億円、既存のシステム改修などに2,350億円)が投入される(ICカード発行費用は含まれない)。④民間も含めて生活の至るところに登場する「見える番号」。国民一人一人に付与した番号に、役所が持っている税、年金保険、雇用保険、健康保険などの個人情報を結びつけ、一元管理し、利用範囲は2016年の運用開始時点で93の事務に及ぶ。

 (3)政府は、「公平と利便」を掲げて共通番号の必要性をアピールする。しかし、
  (a)公平性は疑わしい。
    ①不正申告、不正受給を完全に無くするのは無理だ。所得を完全に把握するにはあらゆる取引を把握しなければならないのだが、個人商店の日々の買物まで逐一掌握するのは物理的に困難だ。
    ②高所得者に有利だ。利子、株主の配当、株式譲渡益は分離課税のままで、個人の不動産賃貸収入は全部を捕捉できないからだ。
    ③会社員には不利だ。その給与や副業収入は、税務署が把握しやすくなるからだ。税務署をまたぐ所得の合算、同姓同名の照合が容易になるのだ。勤務先などに共通番号を届けなければならず、給与などの支払い情報が番号とともに税務署に連絡される。

  (b)利便性も疑わしい。・・・・確定申告の仕組み自体は、今と変わらない。必要経費、医療費控除など「人間の判断がかかわる部分」には共通番号に機械的処理が及ばないからだ。

  (c)要するに、会社員には今より厳しくなり、他方、分離課税の多い富裕層には痛くない。「公平と利便」は「限定的効果」しか挙げ得ない。税に共通番号を導入するのは、行政事務の効率化のためでしかない。庶民には恩恵がない。

 (4)社会保障分野におけるメリットは無いに等しい。
  (a)今でも同じ自治体の中では、国民健康保険、年金保険、住民税、福祉関係各種手当、介護、保育などは必要に応じて電算システムでリンクされている。
  (b)他の自治体から転入する際の申請、届出に必要な添付書類は減るが、申請や届出のために役所へ足を運ばねばならない点は変わりない。そもそも、一般住民はそれほど頻繁に引っ越ししない。
  (c)政府は、共通番号制導入のメリットとして転入者の介護保険料算定を挙げているが、自治体としては今の方法で差し支えない。住民にはさほど関係のない項目まで、必要性を水増ししている。

 (5)政府は、共通番号制が行政改革を促進する役割を期待している。これは懸念材料だ。
  (a)福祉制度はただでさえ複雑だ。各制度に該当する人に役所から案内するサービスが可能になる、と政府は説明するが、直接口頭で説明しないと理解されない。しかも、共通番号制導入によって窓口の人員が減らされる可能性がある。その結果、住民にとって不便になるだけの事態が予想される。 
  (b)医療分野では、医療情報を対象とした個人情報保護の特別法制定が条件になっている。ところが、事実上、白紙状態なのだ。
    政府は、受診・服薬歴などの医療情報を共通番号によってデータベース化することを検討してきた。転院しても転院先の医療機関で過去の受診・服薬情報を得ることができ、大量の治療情報を分析して地域医療の課題を把握できる、というメリットを挙げてきた。・・・・しかし、日本医師会は強い懸念を示している。現行の法制度では医療の個人情報が守られないからだ。<例>死者の遺伝子情報が漏れた場合、疾患につながる遺伝子を持つ血縁者が分かってしまい、中身によっては結婚・就職の差別につながりかねない。
    政府は、導入後に民間利用も予定している。しかし、利用範囲が広がるほど情報漏洩の危険も増す。第三者機関の「特定個人情報保護委員会」を設置してシステムの完全性確保に必要な措置を各行政機関に求める、としているが、委員会の体制は未確定、どれだけ実効性のある組織となるか不明だ。
    罰則が同種の法令より厳しい、と政府は強調するが、罰則を重くすれば漏洩防止ができる、という発想そのものが間違いだ。セキュリティqお高めても情報はどこかで漏れる「事故前提社会」を考え、被害を最小にくい止めるため分野別の番号にすべきだ。【水永誠二・日本弁護士連合会情報問題対策委員会副委員長】

 (6)政府は、共通番号制は給付付き税額控除など消費増税に伴う低所得者対策に不可欠、という。しかし、給付付き税額控除の概要はまだ決まらない。それどころか、導入されるか否か不透明な状況だ。

 (7)共通番号の枠組みを見直すべきだ。①「社会保障・税番号」、②「国民ID」、③「身元証明」の3つに分け、各制度をきちんと整理すべきだ。①では名寄せのための番号を、②では電子政府にアクセスするためのID認証手段を、③では厳格な身元確認のプロセスを、それぞれ設けるのだ。重要度の高低に拘わらず一つのIDしか使えないなら、すべてのサービスに実印を使うようなものだ。実印、銀行印、認め印のようにIDを使い分けることで、「盗難」に遭ったときのリスクを減少させることができる。一つのIDで複数のサイトのサービスが利用できる「ID連携」の仕組みを取り入れるべきだ。IDの信頼性、本人確認のレベルに応じて利用可能な範囲が決まるシステムを併用すれば、公費の投入を少なくしつつ、安全で使いやすく、国際基準に合ったシステムにできる。今からでも遅くはない。制度をきちんと考え、整理すべきだ。【八木晃二・野村総合研究所DIソリューション事業部長】

□小石勝朗(ライター)「会社員に厳しく「マルサ」の目光る」(「AERA」2013年6月3日号)

 【参考】
【社会】個人番号報道に見るメディアの「国家観」 ~マイナンバー~
【官僚】マイナンバーで焼け太る官僚とITゼネコン
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