語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】西脇順三郎「カプリの牧人」 ~シシリアの伝説~

2016年01月26日 | 詩歌
 春の朝でも
 我がシシリアのパイプは秋の音がする
 幾千年の思いをたどり

 *

【注解】
 牧人の思いになって書いた詩。現実の季節感と古代への思いが混じり合って、不思議な音となる。そんなパイプ、あるいは角笛/葦笛を思い出せばよい。
 カプリ島は、地中海の、南伊のソレント半島の先端にある。冬は温暖、夏は猛暑もなく、ストラボン『世界地誌』によれば、ローマ皇帝の別荘があった。
 シシリヤのパイプ(Sicilian shepherd's pipe)は、パーンの笛シューリンクスのことだ。シューリンクスは、アルカディアのニンフ。パーンに追われて拿捕されかけた時、ラードーン河岸で葦に身を変えた。風にそよぐ葦。そこからパーンはシューリンクス笛を創り出した。
 パーンはこのシューリンクス笛をダプニスに教え、ダプニスはシューリンクス奏者、かつ、牧歌の発明者となった。
 ダプニスは、シシリアの羊飼、ヘルメースとニンフの子(あるいはヘルメースの愛顧をうけた者)。ニンフたち、神々に愛された。ニンフのエケナイス/ノミアー(「牧場の」の意)は彼を愛し、忠実を誓わせたが、シシリア王の娘が彼を酔わせて交わったので、彼を盲目にした(殺したとも伝えられる)。盲しいたダプニスは、自らの悲しみを歌い、岩から身を投げた(岩と化したとも、へルメースによって天上に連れ去られたとも伝えられる)。
 シューリンクス伝説とダプニス伝説に共通しているのは、どちらも愛を拒否したということである。愛を拒否する者は、愛の神アプロディーテーの呪いを受け、悲惨な最期を遂げる(ギリシア神話の基本的モチーフ)。
 こうした幾千年の思いをたどれば、パイプに秋の音がする。

 以上、主として「古代ギリシア案内 [補説]ギリシア詩から西脇順三郎を読む 西脇順三郎の「カプリの牧人」」に拠る。

□西脇順三郎「カプリの牧人」(『Ambarvalia』、東京出版、1947)
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 【参考】
書評:『後方見聞録』
【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

  「青の洞窟」Grotta Azzurra」:イタリア南部・カプリ島にある海食。カプリ島の周囲の多くは断崖絶壁であり、そこには海食洞が散在している。
 



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