語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】宮沢賢治「原体剣舞連」

2015年05月20日 | 詩歌
    dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
 こんや異装〔いさう〕のげん月のした
 鶏〔とり〕の黒尾を頭巾〔づきん〕にかざり
 片刃〔かたは〕の太刀をひらめかす
 原体〔はらたい〕村の舞手〔おどりこ〕たちよ
 鴇〔とき〕いろのはるの樹液〔じゅえき〕を
 アルペン農の辛酸〔しんさん〕に投げ
 生〔せい〕しののめの草いろの火を
 高原の風とひかりにさゝげ
 菩提樹〔まだ〕皮〔かわ〕と縄とをまとふ
 気圏の戦士わが朋〔とも〕たちよ
 青らみわたるこう気をふかみ
 楢と掬〔ぶな〕とのうれひをあつめ
 蛇紋山地〔じゃもんさんち〕に篝〔かゞり〕をかかげ
 ひのきの髪をうちゆすり
 まるめろの匂のそらに
 あたらしい星雲を燃せ
    dah-dah-sko-dah-dah
 肌膚〔きふ〕を腐植と土にけづらせ
 筋骨はつめたい炭酸に粗〔あら〕び
 月月〔つきづき〕に日光と風とを焦慮し
 敬虔に年を累〔かさ〕ねた師父〔しふ〕たちよ
 こんや銀河と森とのまつり
 准〔じゅん〕平原の天末線〔てんまつせん〕に
 さらにも強く鼓を鳴らし
 うす月の雲をどよませ
    Ho!Ho!Ho!
       むかし達谷〔たった〕の悪路王〔あくろわう〕
       まっくらくらの二里の洞
       わたるは夢と黒夜神〔こくやじん〕
       首は刻まれ漬けられ
 アンドロメダもかゞりにゆすれ
       青い仮面〔めん〕このこけおどし
       太刀を浴びてはいっぷかぷ
       夜風の底の蜘蛛〔くも〕おどり
       胃袋はいてぎったぎた
    dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
 さらにただしく刃〔やいば〕を合〔あ〕わせ
 霹靂〔へきれき〕の青火をくだし
 四方〔しほう〕の夜〔よる〕の鬼神〔きじん〕をまねき
 樹液〔じゅえき〕もふるふこの夜〔よ〕さひとよ
 赤ひたたれを地にひるがへし
 雹雲〔ひゃううん〕と風とをまつれ
    dah-dah-dah-dahh
 夜風〔よかぜ〕とどろきひのきはみだれ
 月は射〔ゐ〕そそぐ銀の矢並
 打つも果〔は〕てるも火花のいのち
 太刀の軋〔きし〕りの消えぬひま
    dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
 太刀は稲妻〔いなづま〕萱穂〔かやほ〕のさやぎ
 獅子の星座〔せいざ〕に散る火の雨の
 消えてあとない天〔あま〕のがはら
 打つも果てるもひとつのいのち
    dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah

□宮沢賢治「原体剣舞連 (mental sketch modified)」(『心象スケッチ 春と修羅』、1924)
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 【参考】
【詩歌】宮沢賢治「烏百態」
【詩歌】宮沢賢治「風の又三郎」
【詩歌】宮沢賢治「星めぐりの歌」
【詩歌】宮沢賢治「種山ヶ原」 ~ドヴォルザーク「新世界より」~
【詩歌】砂漠のバラード




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