語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】砂漠のバラード

2010年04月21日 | 詩歌
 みそかの晩とついたちは
 砂漠に黒い月が立つ。
 西と南の風の夜は
 月は冬でもまっ赤だよ。
 雁が高みを飛ぶときは
 敵が遠くへ遁げるのだ。
 追はうと馬にまたがれば
 にはかに雪がどしゃぶりだ。

 雪の降る日はひるまでも
 そらはいちめんまっくらで
 わづかに雁の行くみちが
 ぼんやり白く見えるのだ。
 砂がこごえて飛んできて
 枯れたよもぎをひっこぬく。
 抜けたよもぎは次々と
 都の方へ飛んで行く。

□宮沢賢治『北守将軍と三人兄弟の医者』(『新修宮沢賢治全集 第13巻』、筑摩書房、1980、所収)
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