語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】激怒するアメリカ、暗躍する中韓 ~靖国参拝~

2014年02月14日 | ●佐藤優
 春名幹男(早稲田大学大学院客員口授)、宮家邦彦(キャノングローバル戦略研究所研究主幹)、後藤謙次(政治コラムニスト)、武貞秀士(柘植大学海外事情研究所客員教授)、ヘンリー・S・ストークス(ジャーナリスト)、前原誠司(衆議院議員)、佐藤優・・・・が延べ8時間論じ尽くした。うち、佐藤の発言を抜粋、要約する。

(1)アメリカ>米国知日派も「行くな」
 欧米で靖国問題の本質を知る人が少ないというのは事実だと思う。だからこそ、今回、靖国参拝、そしてその後、日本がとった対応は非常にまずかった。
 特に1月22日、スイスのダボス会議での安倍首相の発言、日中の戦争の可能性について問われ、「第一次世界大戦前のイギリスとドイツの類似の関係である」と発言したと報じられた。通訳のミスもあったというが、大きな失点だった。真意は歴史の教訓に学び、偶発的な軍事衝突は避けるべきだという点にあったとしても、欧米諸国に対して、日本が好戦的であるというイメージを植え付けてしまった。

 「失望」だから軽いとか、「遺憾」だからどうだという議論は、問題の本質を見誤る恐れがあると思う。同盟国であるアメリカがはじめて公に異を唱えたことの重大さをきちんと受け止めないと、対応を誤る。現に参拝当日、アメリカ大使館が声明を発表した際、首相官邸は「非難のトーンは高くない」と受け取って放置してしまった。それがワシントンに伝わり、サキ国務省報道官による声明、すなわち出先の大使館ではなく本省での問題となった。日本政府が自ら傷口を広げてしまったのだ。

 昨年のシリア内戦への関与、対イラン政策においても、アメリカのプレゼンスの低下は明かだ。シリアへの介入を示唆したものの、米議会に委ねるといい、結局、介入を止めてしまった。またイランに対しても、核開発の禁止を認めさせられないまま、経済制裁の緩和に合意してしまっている。

(2)中国・韓国>小泉参拝よりも悪化
 興味深いのは、ロシア人が韓国をどう見ているかだ。外交の専門家の友人によると、「帝国主義的パワーゲームのなかで、韓国は主要なプレーヤーと思っているかもしれないが、韓国が帝国主義的外交を展開できているのは日本に対してだけだ。現在、帝国主義国家の資格があるのは、アメリカ、中国、EU、イギリス、そして日本だけだよ」と語っていた。
 昨年11月、プーチン大統領が韓国を訪れた。会談にプーチンは40分も遅刻した。さらに滞在も予定より1日短くした。「安部や習近平に対して同じことをできると思うか」と。きわめて冷ややかなのだ。

 ただ慰安婦問題について、軍による強制性がどの程度かといった歴史的な事実を検証、議論しても、外交的、政治的にはほとんど意味がないと思う。つまり、日本側がそうした議論にこだわっているうちに、女性の人権を踏みにじる日本というイメージが国際世論に定着してしまう。

(3)北朝鮮・ロシア>金正恩が日本に接近?
 私はこの粛正劇の真の原因は、路線対立だと考える。つまり金正恩体制ではイデオロギー転換が進行している。それは金正日体制の否定でもある。
 最近、金正恩の著書『最後の勝利をめざして』を読んだが、その内容に腰を抜かすほど驚いた。父親の金正日について、「限りなく謙虚な金正日同志は、金正日主義はいくら掘り下げても金日成主義以外のものではないとして、わが党の指導思想を自身の尊名と結びつけることを厳しく差し止めました」としながら、自分は、「金日成・金正日主義を永遠なる指導思想として堅持していくことを求める」と宣言している。これは明確な脱・遺訓政治宣言だ。つまり一見、父の思想を尊重しているように見せて、その実、父の命に公然と逆らっている。

 今回、私が非常に危険だと思っているのは、ソ連崩壊後初めてといっていいほど、ロシア外務省が強烈な声明を発表したことだ。その声明の冒頭には、「安倍晋三首相が極東国際軍事裁判で有罪とされたA級戦犯の魂を祀っているとされる靖国神社を参拝」とある。これはかねてからの中国の主張と同じだ。
 さらに「歴史修正主義で第二次世界大戦の結果をひっくり返そうとする一部の勢力がある。それを背景にして、日本政府の今日のこのような行為に対して遺憾の意を表明せざるを得ない」と重ねている。一部の右寄り勢力を率いるのが安倍首相と言っているのだ。
 (これはロシア側の中国への配慮か否かというと、)そうではないと分析している。というのも、声明がホームページにアップされたのは、靖国参拝の当日のことだった。中国や韓国、アメリカの反応を見ずに、ロシアが独自の判断で安倍首相の靖国参拝を批判したことをいみしている。

 首脳同士の関係は良好なのだが、ロシア外務省が中国寄りにシフトしたのは間違いない。ロシア外務省内の日本重視派が要職から外され、自然と中国重視派が力を持ち始めていた。そんなところに靖国参拝があったため、ロシア外務省は完全に反日に舵を切ったのだ。
 今後、ロシア外務省は北方領土の占拠を正当化する動きを見せるだろう。そのときロシア側が持ち出すのが1945年6月に署名された国連憲章の敵国条項だ。「連合国が敵国に対して、戦争後の過渡的状況において行った占拠などの措置は無効化されない」とあり、同年8月の日ソ中立条約の侵犯は、国連憲章によって認められるという主張をするだろう。しかし、国連憲章の発効は同年10月年だ。筋違いの議論だが、日本の外交当局には注意が必要だ。

 その意味では、安倍首相がソチ五輪の開会式に参加することを決めたことで、日露関係が好転するかもしれない。この開会式が行われるのは2月7日、北方領土の日だ。安倍首相は北方領土返還の式典に出席後、ソチ入りを計画している。そうすると、プーチンが安倍首相の領土返還にかんする発言を新聞で読む前に、二人は顔を合わすことができる。これはよく考えた戦術だと思う。
 (安倍首相の出席が決まった後、すぐさま習近平も対抗して、訪露の意向を発表したが、もし私が外務省の現役だったら、国後または択捉島で日露首脳会談を行うというプランをロシアに持ちかける。色丹や歯舞では二島返還に日本が合意したと誤解を生むが、国後・択捉島のどちらかで首脳会談が実現すれば、プーチン・安部双方が外交実績を作ることができる。プーチンが乗るかどうか分からないが、もし乗ってくれば北方領土問題を進展させようという証拠だ。日本側は失うものはないから、外務省は勝負してみてはどうか。

(4)日本>「右傾化」という妖怪
 たしかに中韓の宣伝戦は脅威だが、欧米諸国で「右傾化する日本」というストーリーが受け入れられる素地が形成されつつあるのは事実だ。マルクスではないが、「日本の右傾化」という妖怪が一人歩きしないように、日本政府は的確な外交対応をとる必要がある。

□会談「靖国参拝 激怒するアメリカ、暗躍する中韓」(「文藝春秋」2014年3月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】米国から「外交指南」を受けた日本 ~チャック・ヘーゲル~
【佐藤優】安部首相の靖国参拝問題 ~「知の武装」レベル~
【政治】安倍晋三首相の「躁状態」 ~暴走を許す民意~



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【労働】日本年金機構の職員... | トップ | 【お役所の掟】「二重予算」... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

●佐藤優」カテゴリの最新記事