語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【教育】考え方や行動まで評価対象に ~「道徳の教科書化」2018年度実施~ 

2014年11月06日 | 社会
 10月21日、文部科学省・中央教育審議会は答申した。道徳を「特別の教科」として正規の教科に格上げする、と。
 これを受けて、文科省は、2018年度から実施する、としている。

 「道徳の教科化」は、第一次安倍政権の「教育再生」政策の「目玉」の一つだった。 
 これが第二次安倍政権の政治課題として急浮上したきっかけは、滋賀県大津市の中学生が自殺した事件(2011年)だ。首相直属の「教育再生実行会議」(2013年1月24日設置)は、「いじめ問題等への対応について(第一次提言)」を出し(同年2月)、いじめをなくするため道徳の教科化が必要だ、と主張した。これを受けて、下村博文・文科相は「道徳教育の充実に関する懇談会」を設置(同年3月)。その後、異例の速さで手続きが進められた。

 中央教育審議会の道徳教育専門部会がまとめた(2014年9月19日)案を中央教育審議会は同月末の総会で大筋了承し、翌月の総会で一部修正して答申を出した。 
 くだんの答申は、「道徳教育の使命」は「人格の基盤」となる「道徳性」を育てることにあり、道徳教育は「教育の中核をなすべきもの」としている。これに基づいて、例えば次のような提言を行った。さらに、いまは道徳の時間がない幼稚園、高等学校、特別支援学校でも道徳教育を「充実」することも提言している。
 (1)道徳を「特別な教科 道徳」(仮称)として正規な教科に格上げし、道徳教育を義務化する。
 (2)「特別な教科 道徳」を「要」として学校の教育活動全体を通じて道徳教育をより確実に展開するよう教育課程を「改善」する。
 (3)国が検定基準を定める検定教科書を導入する。
 (4)数値での評価はしないが、子どもの「作文やノート、質問紙、発言や行動面に表れたものを評価する」。
 (5)授業は原則学級担任が担当する。
 (6)授業時間数は当面週1コマ(年間35時間)。
 (7)道徳教育推進リーダー教師を地域に設置する。
 (8)家庭や地域と連携して行う。

 くだんの答申の問題点は、少なくとも二つある。
 (a)第一次安倍政権の時、「道徳の教科化」を諮問された中央教育審議会は、「実現困難」とした。その主要な理由の一つが評価の問題だった。正規の教科にすれば当然「評価」が必要になるが、道徳を5段階評価などの数値で評価するのはなじまない、とした。
 そこで、くだんの答申は、数値による評価はしない、とした。しかし、一方で、子どもの考え方から行動まで、全面的に評価の対象としている。
 これは、ある意味では数値による評価以上に重大な問題をはらむ。子どもは、考え方、意見、行動など全人格を評価されるので、「よい評価」を得るための発言・行動へ偏ることになる。子どもを評価する教員も、大変な負担を強いられることになる。子どもの心と身体は深刻な分裂に追い込まれ、今よりストレスを溜めこむ。そのストレスが「いじめ」など「問題行動」をいっそう増加させる恐れがある。国連「子どもの権利条約」違反だ。

 (b)道徳の検定教科書の発行も重大な問題だ。国家が定めた特定の徳目(価値)を検定基準として教科書を作成し、それだけが唯一正しい「日本人の道徳」だとして「愛国心」をはじめとした特定の価値観を教え込むことになる。
 これは憲法が定める「思想・良心の自由」を踏みにじり、国家が定める「愛国心」「公共の精神」などの徳目(価値観)を子どもたちに押しつけるものだ。

 グローバル企業のための「人材」と「戦争する国」の「人材」(兵士およびそれを支える国民)をつくる・・・・これが、安部「教育再生」政策の真の狙いだ。
 そのために、道徳を正規の教科に「昇格」させ、全教科の上に置き、「愛国心」などを植えつける「教育」の強化を図るのだ。

□俵義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長【注】)「「道徳の教科書化」答申で文科省は2018年度実施を表明 考え方や行動まで評価対象に」(「週刊金曜日」2014年10月31日号)

 【注】「俵のホームページ

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