yama room

山コンビ大好き。

ブログではなくて妄想の世界です。

きらり

Song for me 3

2016-07-22 19:58:30 | Song for me





暑い。



暑くて、



身体が蕩けてしまいそうだ。





なぜか、今スマホを片手に地図を見ながら住宅街を歩いている。


なぜかこの暑い中、資料を片手に大野さんの家を訪れようとしている。






あれからまた揶揄われはいけないと
大野さんの事は気にしないように、そして見ないようにしていた。
だから大野さんと目が合うこともなかったし、話すこともなかった。


なのに今、なぜか大野さんの家に向かって歩いている。


このくそ暑い中、入力した住所を頼りに
スマホの案内操作に従って大野さんの家に向かっている。
何で自分が大野さんの家に行かなくてはいけないのだろうと
何度も思いながらも案内表示に従って歩いている。






大野さんは3日ほど仕事を休んでいた。
しかももうしばらく休まなくてはいけないらしい。


そんなに体調が悪いってことだろうかと
少し気になっていたら、課長に大野さんの家に
資料を届けてほしいと頼まれた。


……意味わかんない。


体調が悪くて休んでいる人に普通、仕事のものなんて持っていく?
ゆっくり休めないじゃん。鬼か?
そうは思ったが確かに今手掛けているものは
大野さんのセンスと技術が不可欠だ。
そして、それにはここにある資料が不可欠だった。


けど、やっぱり意味わかんない。
しかも設定画面でわからないところがあるらしいから
ついでに見てきてやってほしいという。


……やっぱり意味わかんない。








他にも大勢いるのに何で俺?
せっかく大野さんの事を気にしないように
そして見ないようにしていたのに何の嫌がらせかよと思う。


っていうか体調悪くて休んでいるんじゃねえの?
仕事ができるのならそもそも休んでないで仕事に来てんじゃねえの?
そうは思ったがなぜか大野さんはそういう事が
年に3,4回あるらしかった。


どういうこと?
やっぱり訳わかんない。


そんな事を思いながらも上司命令には逆らえるはずもなく
暑い中案内表示に従って住宅街の中を歩く。
イライラして、ちょっとムカつきながら。











ここだ。


目の前には2階建ての6世帯程が入った綺麗な白い建物があった。
部屋番号を確認しインターホンを鳴らすと
はーいと大野さんの声が聞こえた。


その声にドキッとする。


久々に聞く大野さんの声。
何とも思っていなかったはずなのに
いやそれどころかイライラしてムカついていたはずなのに
大野さんの声を聞いた瞬間、急にドキドキしてくる。


でもドキドキとしているとまた面白がって
揶揄われれてしまうかもしれないと思い
櫻井ですと平静を装いインターホンに向かって答えた。


玄関の扉がゆっくりと開く。


大野さんだ。


その大野さんの姿を見てまたドキッとする。


大野さんは首元が少し開いた黒いTシャツに
足首が少し見える位の少し丈の短いパンツをはいていて
とてもラフな格好だ。
その幼さと大人っぽさの入り混じった姿に
またドキドキした。


そして視線が合うと、なぜか大野さんが
嬉しそうにくすっと笑ったような気がした。
その顔を見てまたドキッとする。








「あの、これ、頼まれていた資料です」

「こんなところまでわざわざ悪いね」

「いえ、頼まれただけなので」


何でこの人にこんなにいちいちドキドキしてしまうのだろうと思う。


「このまますぐに帰るのは暑くて大変でしょ。
少し涼んでいけば? 冷たいお茶位入れるよ?」

「いえ、大丈夫です」

「そう?」


せっかくそう言ってくれたのに
あっさりと断りすぎたせいか何なのか大野さんが一瞬
寂しそうな顔をしたような気がした。


「あ、でも、何か設定で聞きたいことがあるって聞いたのですが…」

「そうなんだよね~もう訳わかんなくなっちゃって」


そう言えば課長に見てやってほしいと言われてたと思い出しそう言うと
大野さんは苦笑いを浮かべながら照れくさそうに笑った。
その照れくさそうに笑う大野さんが
何だか可愛いと思ってしまう。


暑い中こんなところまでこさせられて
ずっとムカついてイライラしていたはずなのに
そのはにかんだような笑顔をみて
すっとその気持ちがなくなっていくような気がした。








「サト…シ」


そんな話をしていたら突然部屋の中の方から声が聞こえた。


「……」

「……」


お互い顔を見合わせる。


その綺麗な顔。
視線が合うとなぜかまた胸がドキッとした。


「……今、子供の声がしませんでしたか?」

「うん、呼んでるみたい。とりあえず入って」

「……え? あ、はい」

「これスリッパ」

「すみません。お、邪魔 します」


呼んでいるみたいって誰が? 
ドキドキしながら大野さんに促されるように部屋の中へと入る。


そこは2LDKというのだろうか。
入ってすぐの部屋にはキッチンとソファとテレビがあって
その奥にもう一つ部屋が見えた。


大野さんがそのままリビングを通り抜け
ずんずんと奥の部屋に入っていく。
なんとなくそのまま一緒にその部屋についていくと
そこには幼稚園くらいの男の子がベッドに寝ていた。












「どうしたの?」


大野さんがその男の子のそばに寄って優しく聞く。


「お水 飲みたい」

「ふふっ喉乾いた?」


男の子が小さな声で言う。
その言葉に大野さんが冷蔵庫から慣れた手つきで
コップに水を注ぎ、もうのど痛くないかな?
と言いながらその男の子にやさしく水を飲ませ始めた。


その子は一体誰?
もしかして大野さんの子供?
頭の中に、はてなマークがたくさん浮かぶ。


「ごめん、適当に座ってて」


聞きたい事が山のようにあった。
けど大野さんが振り返りながらそう言ったので
おとなしくソファに座って待つ事にした。









「待たせちゃってごめん。はい、これ」


しばらくすると大野さんが近づいてきて
冷たいお茶が入ったグラスを手渡してくれる。


「……あ、いただきます」

「ふふっどうぞ」


おずおずとグラスを受け取りながら大野さんの顔を見る。
目の前には大野さんの綺麗な顔。


凄く不思議な気分だった。
今まで大野さんとロクに話をしたことなんてなかった。
話したと言えば課長の送別会の時とその後に一回だけ。


それも大野さんに揶揄われたような事を言われただけ。
その後は何だか無性にイライラしてムカついて
顔も合わせなかったし、ましてや話もしなかった。
ずっとわざと避けていた。


それなのになぜか今、その大野さんの部屋にいる。


何だか気まずいような照れくさいような
でもその反面、大野さんの部屋に二人きりという状況に
(正式にはすぐ隣の部屋に男の子がいるけど)
ドキドキするような夢の中にいるようなそんな変な気分だった。











「あ、あの 男の子は?」

「もう寝たみたい」


大野さんが男の子の眠っている部屋を見つめ答える。


「えっと、そうじゃなくて…」

「え?」

「その、大野さんのお子さんです よね?」

「……え?」

「って当たり前ですよね、一緒に暮らしているんだから。
あ、っていうか奥様は今日はお仕事か何かですか?」

「ふふっ何だか質問攻めだね」


大野さんはおかしそうにふふっと笑う。


「すみません、なんか気になっちゃって」

「ふふっ俺、奥さんなんていないよ。あの子は、姉ちゃんの子」

「え? お姉さんの 子?」

「そう、今は預かってるだけ」

「それって?」


やっぱり頭の中に、はてなマークがたくさん浮かんできて
ついまた質問してしまう。


「ふふまた質問? そんなに知りたい?
っていうか、俺の事ずっと避けてなかった?」

「え?」


バレてた。
って当たり前か。


「図星か…でも、何で?」

「何でって…」


大野さんが図星かと言った瞬間。
大野さんが悲しそうな顔をしたような気がして
何も言えなくなった。


確かに大野さんの事を避けていた。
また揶揄わるんじゃないかと思って見ないようにしていたし
他の場所でも合わないように気を付けていた。


「でも、今日は来てくれたん だ?」

「……上司命令なので」

「そっか。上司命令だもん、ね」


そう言って大野さんはふふっと笑う。
けど、一瞬。
何だか少し寂しそうな顔をした気がした。


「あ、そう言えばわからないところがあるって聞いたのですが?」

「ああ、そうそう」


その大野さんの表情に戸惑ってしまい
どうしていいかわからなくなって
慌てて話題をそらす。








パソコンの前。


二人並んで画面とにらめっこをしている。


横を見ると大野さんの綺麗な横顔。
何だか顔が近くて
そしてその横顔が美しくてまたドキッとする。


でもまた揶揄われてしまうかも知れない。


そう思って


変に意識してしまいそうになる気持ちを


押し殺し画面に向かった。














「今日は、ありがとう」


大野さんが嬉しそうにそう言った。
一つとはいえ年上でましてや男の人なのに
その表情にまたドキっとする。


「……でもまだしばらく休まれると聞いたのですが?」

「もう熱も腫れも引いたんだけど
おたふくだからあと3日出席停止なんだって」

「え? 」


ってことは自分が具合が悪くて休んでいたわけではなく
あの男の子の為に休んでいたってこと?


「だから俺が出勤できるのも週明け」


大野さんが苦笑いを浮かべながらそう言う。


「だって、お姉さんの子供なのに…」

「うん、姉ちゃんの子どもだけど、ね」


思わず疑問に思っていたことを口に出してしまう。
そもそもこの子のお父さんや祖父母だっているはずなのに
大野さんがお姉さんの子にそこまでしなくてはいけないのかと思う。


「……」

「でも、あの子を見れるのは俺だけだから」

「……?」

「姉ちゃんは調子がいい時と悪い時とあって…
だから動けない時は俺が保育園の送迎をしたり
こうして預かったりしてるんだ」


大野さんがまるで自分の考えを読んだみたいにそう言った。



「自分の子でもないのに……」

「まあ、ね」

「大変じゃないですか」

「ふふっ全然。俺一生子供持てない人生だって諦めていたから
こうして一緒にいれることが嬉しいの」

「……一生 子供が持てない 人生?」


大野さんの言う言葉の意味が分からない。


「ふふっわからないでしょ?」


あまりにもびっくりした顔をしていたせいか
大野さんは、そう言ってふふっと笑う。


もしかしてまた揶揄われているのだろうか。


大野さんの真意が全然わからない。


「普通の人生を歩んできて、そのまま普通の人生を歩んでいく人には
きっとわからないよね」

「……」


そう言って大野さんはまたふふっと笑った。










「こないだ一緒にいた綺麗な人は恋人?」

「え?」


戸惑っていると大野さんが突然そう聞いてくる。


「きっとその人と結婚して家庭をもって
そして家族となっていくんだろうね、当たり前のように」

「……」


やっぱり意味が分からなかった。
やっぱりまた揶揄われているのだろうか?


「ふふっ幸せだね」

「……」

「今日はありがとね、おかげで内職もはかどる」



意味が理解できなくて何も言えないでいると
大野さんはそう言って笑った。









外は、まだ暑い


今日はそのまま直帰していいと言われている。
彼女に食事でも一緒にしようと連絡した。


彼女と会うと相変わらず彼女は結婚を匂わせてくる。
まぁ当たり前なんだろうな。


このままきっとこの彼女と結婚する。


それが、レールの上の人生。


普通に大学を卒業して
就職して
結婚して
家庭を作って


それが当たり前の人生で
幸せな人生なんだろうなと思う。


燃え上がるような恋なんかじゃないけど
会えなくて辛くて苦しいとかないけど
胸が苦しくて眠れないとかないけど。


胸が締め付けられるような思いとか
心臓をわしづかみにされるような思いとか
胸をえぐられるような思いとか
そういう思いはしたことないけど
でもそんなもんじゃないだろかと思う。






彼女と食事をしながら大野さんの事を考えていた。


大野さんの言った言葉の意味はどういう意味だろう、と。


何か、深い意味があるのではないかと


そういう気がしている。


でも、その意味が


今はまだわからない。









来週には



大野さんが出勤してくる。





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4 コメント

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既にいばらのみち? (白紙)
2016-07-23 00:27:23
 大野さんは新しい課長にも気に入られているのですね(如月課長の次の課長ですよね)?私事ですが、まさに今日、職場でシステムの使い方を間違えた人がいて、大問題になっていたので、大変だよね~とうなずいてしまいました。大野さんの欠席が年に3、4回あるなら、毎回甥っ子の病気ではないですよね。実はお姉さんがご病気?それ以前に大野さんは普通の(子供のいる?)人生を諦めないといけない状況なんですよね?せっかく大野さんに会えて、お話しできたのに翔さん余計不思議になってしまいましたね。彼女さんもちょっと気の毒のような。でも、誰かのためにイライラしたり和んだりするのは止められないですよね。やはりいばらのみちですね。しかも炎天下の。それではまた。
お久しぶりです。 (桃)
2016-07-23 17:08:49
きらりさん、
久しぶりにコメントさせていただきます。
長い間体長崩していて、読ませてもらうだけでしたが、いつも楽しみに待っていました(^^)
今回のお話も、まだ謎の部分が多く、いろいろな展開を想像しちゃってます。
相変わらず無自覚に人たらしな大野さん。
リアルでもますますその傾向を目の当たりすることが多いですね(^^;
その不思議な魅力をいつもうまく表現してくれるので、自然とお話の世界に入っていけます。
また楽しみに待ってますね♪
白紙さんへ (きらり)
2016-07-23 20:17:45
白紙さん、コメントありがとうございます。

そうです、新しい課長です。
何もしなくても自然と人が寄ってくる人なので新しい課長にもすでに気に入られていますね~。
確かにパソコンは便利な反面ちょっとした事が大事になったりしますよね。
そうですね~既に茨の道かも知れません。
song for me は会えない人を思う曲なんですよね。
距離的には近づいたように見えても心はまだ二人はまだ遠くて。
それに翔くんには彼女もいますし。
炎天下に歩かされてイライラムカついて…智さんも色々あって。いばらの道ですね~。
ありがとうございました♪
桃さんへ (きらり)
2016-07-23 20:34:27
桃さん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。

体調を崩されていたれていたのですね。お身体大事になさってくださいね。
でも読んで待ってて下さっていたのですね。嬉しいです。
そうですね。まだ謎な部分も多いですね。
本当に人たらしですよね~。
今回はドラマもあったのでますます翻弄されている人の姿を
目にすることがよくありましたね。
うまく表現しているだなんて嬉しいです~。
それに自然と話に入っていけるだなんて書いている立場からすると本当にうれしい事です。
楽しみに待っていると言って下さってありがとうございます♪

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