最近のニュースを見ていると、犯罪者や悪事を犯した人間の「往生際の悪さ」が極めて目立つ。昨年、指導していた野球部員たちに暴力を振るったり、全裸でのランニングを強要して、刑事告訴された元高校野球部監督の初公判が開かれたが、この男もまたその例外ではないようだ。「日刊スポーツ」の記事から転載する。
全裸ランニングの野球部監督が強要否定
野球部員に全裸でランニングさせたなどとして強要と暴行の罪に問われた元おかやま山陽高(岡山県浅口市)野球部監督、池村英樹被告(35)の初公判が23日、岡山地裁倉敷支部(樋上慎二裁判官)であり、池村被告は無罪を主張した。
池村被告側は、ランニングや暴行の事実を大筋で認めたが「強要はなく、暴行も指導に必要な範囲」と述べた。
検察側は「被告は普段から暴力を振るい、部員は指示に従わないと暴力を受けると恐れていた」と指摘した。
起訴状によると、池村被告は05年6月上旬ごろ、野球部のキャプテンを通じ、部員にグラウンドを全裸でランニングするよう指示したほか、部員を平手で殴るなどした。
この池村被告の言い分でもっとも驚くべきことは、法廷で「(全裸)ランニングや暴行の事実を大筋で認め」ながら、「強要ではなく」「暴行も指導に必要な範囲」と強弁したあげく、「無罪」を主張していることである。情状酌量や刑罰の経験を求めているのではなく、「自分は犯罪を犯していない」と法廷で言い張ったのである。いやはや、日本の「旧日本軍的体育会系体質汚染スポーツ界」が生み出したこのような怪物も、いよいよ落ちるところまで落ちたものだ。
まず、常識で考えてほしい。どこの世界に、屋外で全裸ランニングを「自主的に」進んで行なう10代の少年たちがいるというのだろう。まあ、渋谷や新宿、池袋あたりでほとんど犯罪行為同然の行為を連日繰り返している少年ギャングや暴走族などにはそうした輩もあるいはいるのかもしれないが、まず普通の高校生が自分たちの学校でそんなことを「やります」と言い出す光景は想像の範疇を超えたものだ。
さらに、「暴行も指導に必要な範囲」というのは、まさに自ら墓穴を掘ったようなものだ。法治国家である日本においては、まず刑法によって①犯罪行為に対する正当防衛②死刑判決が確定した死刑囚に対する死刑執行など、ごくごく限られた例外を除いては、それが親子や師弟関係などいかなる人間関係の下であっても、他人が暴力を振るうことを「暴行・傷害罪」によって禁止している。さらに、学校においては「教育基本法」(風前の灯ではあるが、それでも体罰を肯定する改悪は近代法制の常識からしてできない)において厳格に教職員による生徒への体罰(暴力行為)が禁止されている。したがって、日本の現在の法体系においては、「暴行も指導に必要な範囲」というこの元野球部監督の言い分自体が通用しないのである。
まさか裁判所がこの元監督の論理的・倫理的に完全に破綻した言い分を認めて無罪放免の判決を下すとは思えないが、それでも最近の刑事裁判の傾向を考えると、「社会的に制裁を受けている」などとして執行猶予をつける恐れは十分にある。この初公判での言い分を聞けば一目瞭然だが、この男はもし実刑を食らわず、野球指導の現場に復帰する機会があれば、また指導する少年たちに暴力を振るい、全裸ランニングを強要すると宣言しているのと同じである。スポーツ現場から暴力を完全追放し、「体育会系体質」克服への道筋をつけるためにも、この無反省で暴力を賛美して止まない元監督には、刑罰の上限一杯の重い実刑を科すよう、強く裁判官の良心に訴えたい次第である。