安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

これで安全とは笑わせる

2009-09-17 23:37:35 | 鉄道・公共交通/安全問題
安全性向上の新型車両導入へ=衝撃吸収構造、来年完成-JR西(時事通信) - goo ニュース

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 JR西日本は16日、安全性を向上させた新型電車「225系」を導入すると発表した。京阪神エリアの新快速に約200両を投入し、投資額は約300億円。第1号が来年5月ごろ完成する。営業運転の開始時期は未定だが、佐々木隆之社長は「できるだけ早く開始したい」としている。

 225系は、多数の死傷者が出た福知山線脱線事故の教訓を生かし開発。車両前部に衝撃吸収構造を採用し、衝突時に乗客にかかる衝撃加速度を半減したという。

 また、乗客がとっさにつかみやすいように、つり手を大型化。目立ちやすいオレンジ色とし、数も従来型より50%増やした。 
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現物の車両を見ていないので何とも言えないが、福知山線事故が証明したのは車両の前部ではなく側面の脆弱さだったはずである。1991年に起きた信楽高原鉄道事故は、正面衝突であったにもかかわらず、実際には事故車両は中央部から「く」の字に折れ曲がって大破し、犠牲者もその部分に集中した。

事故の衝撃は、必ずしも車両の衝突した部分を破壊するとは限らない。むしろ、その車両の最も弱い部分に破壊のエネルギーが集中することは、これら先行事故の事例から見ても明らかだ。それなのに、JR西日本は「正面衝突に備えるには前部を強化すればいい」と考えている。あまりに思考が単純すぎ、信楽高原鉄道事故から何も学んでいないと思わざるを得ない。

それに、鉄道車両を新規調達した場合の価格は、第三セクター鉄道のレールバスと言われる車両で1両あたり約1億円、本格的な鉄道車両になるとそれより少し高く、1両あたり1億2~3千万円程度が相場と言われている。今回、JR西日本が安全と胸を張っている車両は200両で300億円だから1両あたり1.5億円。既存車両と比べて少し高い程度であり、これのどこが安全重視なのだと言いたくなる。

もちろん、やたらに金をかければいいというものではないし、金をかけずともできる安全対策は確かにある。しかし、しっかりした構造のものを造ればある程度金がかかるのは事実であり、そこに金をかけていないのでは話にもならない。

「乗客がとっさにつかみやすいように、つり手を大型化」に至っては噴飯ものである。人間が腕で支えられる衝撃は、せいぜい時速30km/h程度であると言われており、自動車の世界ではだからこそシートベルトが義務化されたのである。福知山線事故が起きたとき、列車の速度は100km/hを超えていた。そんな状況で、つり手を増やせば乗客が衝突の衝撃にみずから耐えてくれると本当にこの会社は信じているのか。もしそうだとすれば、冗談でもない限り、信じられない非科学的思考に支配されていることになる。

この程度のことさえ理解できず、そのまま記事にするマスコミも本当に情けない。配信した時事通信は、JR西日本の記者発表を鵜呑みにし、おそらくロクに取材もしていないだろう。ニュースで飯を食っているプロの記者なら、鉄道に詳しくなくても(というより、詳しくないならなおさら)「それは通常の車両と比べてどの程度製造費がかかったか」程度の質問はするべきだと思う。本人たちは気づいていないかもしれないが、私だったらこんな恥ずかしい記事、原稿料もらっても絶対に書けない。

残念ながら私の見る限り、今回の新車両の導入は「やらないよりは幾分まし」という程度の評価にとどまらざるを得ない。
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