小屋に座りこんで、床に敷いたバナナの葉の上にその大きな実を五つ並べ、子細に見た。ブレッドフルート、つまりパンの実だ(中略)。
湯気が立ち、一種のうまそうな、どちらかといえば焼き芋に近い匂いが昇った。パンの味を期待する気持ちはその時にはもうほとんど消えていた。
池澤夏樹『夏の朝の成層圏』 中央公論社
明けましておめでとうございます。缶詰ブログの迎える、二回目の年明けでこざいます。
最初の記事はシリーズ『缶詰のある風景』なのだ。無人島に漂着した男がパンの実を発見し、
「果たして本当にパンの味がするのだろうか...」
と期待を抱きつつ焼いてみたシーンである。台詞にあるように、パンの味などまったくしないことが分かるのだが、それはそれで貴重な食料となる。
池澤夏樹らしい、澄明で淡々とした文体でサバイバルを語るのだから、なかなかに面白い小説である。
そしてこちらはパンの缶詰さん。以前、防災関連のテレビ番組を観ていたときに登場したもので(缶詰さんは保存食なのだ)、それ以来強い興味を抱いていたのである。それを先日、ようやく発見したのだ。
パカリと開けると、イースト菌の発酵した心地良い匂いが立ち昇った。紙にくるまれた本体をずるずると引き出すと、割としっかりとした円柱状のパンが出てきた。
かくのごとし。これはバナナクリーム味という商品だが、他にはいちご味、チョコ味もあったと思う。
小さく切り分けて、がぶっと一口。もくもくもく、もくもく(という食感)...ごっくん。
おおう、飲み込んだあとから、バナナの香りが鼻から抜けていく。何とも上品な淡い香り付けである。お味の方も甘さ控えめで、咀嚼が進むほど旨味が口中に広がるという具合。美味いです、これ。実が詰まっているので、充分に1食分はあると思う。
上記小説の主人公も、こんな缶詰があれば面白かったろう。何しろパンの缶詰なのである。いやはや、我が国の食品加工技術というのはすごいなぁ。
内容量:100g
原材料名:小麦粉、砂糖、油脂(大豆使用)、酵母菌、乳酸菌、卵、食塩、ビタミンC、バナナクリーム(保存料ソルビン酸K・増粘多糖類・着色料クチナシ・カロチン・カゼインNa・リン酸Na・香料)
原産国:じゃぱーん!