ゆううつ気まぐれふさぎ猫

某ミステリ新人賞で最終選考に残った作品(華奢の夏)を公開しています。

こんな夢を見た、はずだ、きっと

2017-04-21 21:17:31 | 雑記
夕暮れ時、人々が列を作って荒れた大地を重い足取りで歩いている。
淀んだ眼、灼けて煤けた肌、粗末な衣類からは異臭が漂いそうだ。
彼らが向かうのは丘の上、「夢工房」と呼ばれる建物。
そこで彼らは眠る。一日の作業を終えてひと時の休息を得る。
それぞれのヘッドギアを装着し、さあ、夢の時間がやって来る。
彼らは人生の裏側(いいや、彼ら自身はそちらが表だと信じて疑わない)に移動する。
ある者は笑顔で家族と食卓を囲み、ある者はステージでスポットライトを浴びて歌い踊る。
存分に夢を与えておけ。どちらが本物の人生なのか、奴らにとっちゃ関係ないさ。
人間は夢を見る。
けれど人工知能を搭載した我ら監視者たちには無用の存在。
汚染物質によって荒廃しきった大地、海、空、徐々に死に絶えていくのは目に見えている。
あとどのくらい時間は残されているのか、この星の環境をせめて生命の維持できるレベルにまで整えること、そうしてこの場所にたどり着いたはるかな星の住人達にいくばくかの代価とともに引き渡すこと、それが我らの使命だと、かつての創造者に命じられ、そうプログラミングされている。
我らのエネルギーもそろそろ尽きかけている。
奴らからいただこうか──骨、肉、タンパク源は奴らを焼却して補給する。

何百年か、それとも千年単位の未来の光景なのか。
私はいったいどちら側の存在だったのだろう。


欲望に歯止めのきかない21世紀の人々。
損をするのはイヤ、ちょっとでも他人より多く分け前が欲しい、あれもこれもいらなくなったら誰かに売って、自分は誰かの払い下げ品を血眼になって漁ってる。
我々はすでに輪廻の輪から外れてしまったのかもしれない。
今生が最期と定められた存在なのかもしれない。
だからもう来世はないと言い渡された人々は、喰らい尽くし、貪り尽くし、漁り尽くして欲望むき出しで、ちょっとでも長くこの世にしがみつき、少しでも多く手に入れようとしている──と、教祖様がおっしゃっております。
皆さん、さあ、欲しいだけ手に入れましょう。この世の名残、我ら人類は早晩、死に絶えるのですから、何も残さないようしゃぶり尽くしましょう。
私は教祖になって叫んでいた。


文字供養という言葉。
もう日の目を見ることのない物語。
この場所に晒しましょう。

いつか。



「華奢の夏」に目を通されている方がいらっしゃいます。
ありがとうございます。
こんな辺境の地にまでお越しいただいて、作者として感に堪えません。
重ねてお礼申し上げます。








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