ゆううつ気まぐれふさぎ猫

某ミステリ新人賞で最終選考に残った作品(華奢の夏)を公開しています。

最終回に代えて

2016-01-27 20:58:22 | 雑記
ご無沙汰しております。

干しブドウと蜜柑と餡子をぼんやりとむさぼっているあいだにいつのまにか新しい年が来て。ほんのり暖かい日差しのなかで初日を浴びたと思ったら、観測史上類をみない寒波がやって来るとのこと。
幸いにも断水の被害はなかったのですが、水道から水が出ない恐怖は体に沁み込んでいます。
前日の夜から鍋とヤカンに水を補給しておいて、ついでに朝のコーヒー用にとコーヒーメーカーにも給水しておき準備万端。

毎年、雪に埋もれる地域にお住まいの方たちにとっては何を大袈裟なとお笑いになるかもしれませんが、屋根から落ちる雪の音のものすごさを生まれて初めて体感し、まさに心臓が止まる思いをいたしました。

などと、近況報告はさておき。

どうしても、最終回を公開する気になれない。どうしてだろうかと、自問自答してみた。
物語をこの場で完結させてしまったら、もう二度と自分の元へと戻らないような気がしてしまっているのではないかと。この情報の、文字列の氾濫の、匿名の視線に無防備にの晒されている場所で、やがてうすれて消えてしまうんじゃないかという、書き手の驕りと笑われても仕方のない恐怖に襲われて身動きが取れなくなっているんじゃないかと、そんなふうに分析してみた。

私はまだ、あの物語を手放したくない。
未練たっぷりなんだ。


最後の場面に例の編集氏は異議を唱えた。

罪を罰せられないまま逃げ切るという終わり方は後味が良くない、とさりげない言い方だったが改変するよう求めた。
私は最初のプランを変更して、「彼」を甦らせ、そのことによって「彼女」の野望を打ち砕くことにした。
そのあたり、「彼女」と千晶との対決が最終回の華となるはずだったのだけれど。
でも今は、それがいいのかどうか、迷っているというのが正直な気分だ。
編集氏と決定的な決別を果たした今、彼の思惑に素直に従っていいものかどうか。




という逡巡で、私の筆は止まったままだ。

ここまで、葉月のつたない物語をお読みくださった方々。
わがままを申し上げて、すみません。

きちんとお伝えしなければ前に進めない、と恥を忍んでご報告いたしました。
もうしばらくお待ちください、という言葉が適切なのかどうかわかりませんが、いつかきっと皆さまにあの物語をお届けできるよう、精進いたします。
その気持ちがふつふつと今、沸きあがっております。
蹴られて地べたに転がって、このままで済むとは思うなよ、





○島。


おっと、ここはすぐさま削除せねば。



新しい物語を書きます。


「華奢の夏」公開のための前口上

2016-01-11 14:54:52 | 小説
この物語は全体が四章に分かれています。

第一章 華奢の夏
第二章 人形の夜
第三章 共犯者
第四章 ねむり姫

これはミステリ仕様の流れであり、通常の物語として楽しむには、

       第二章→第一章→第三章→第四章

という時間軸に沿って読まれることをお勧めします。
なので、第一章と第二章を(交互に掲載という形で)同時に発表していきます。


ご意見ご感想、あるいは批評など広く受け付けますが、悪意のある中傷や誹謗等(つまり、第三者が目にした際、眉をしかめてしまう類のもの)は、こちらの一存で削除させて頂きます。その旨、どうかご理解ください。

それでは、「華奢の夏」どうぞお楽しみくださいませ。


百花淫乱──新年のあいさつに代えて

2016-01-08 21:00:43 | 雑記
2016年となりました。

寒中お見舞い申し上げます、というご挨拶の時期までうっかり寝坊してしまったような。

もうずっと以前から身近に置きたかった、ガラスのペーパウェイト。
ようやく手に入れました。
昨年、四国初上陸、とかで話題になった雑貨百般を取り揃えているという噂の店舗へと勇躍足を運ぶ。
あちこちさまよった挙句、これならば、という一品を店員の方に指さして「おなじもの、欲しいんですけど」と告げると、彼女はとても困惑した表情。
なぜならそれは、店内のディスプレイ用に置かれていた、銀色の手。
「一応、確認してみますね」と、笑顔をこしらえ対応してくれたのですが、案の定、「これは販売されていないものらしくて、申し訳ありません」とのこと。

よかったのになあ、あの手首。
開いたページの上に手首をのせて、いつまでも私は指先で撫でているのだ、そんな場面をうっとりと思い浮かべていたのに。

これからもし、あれが商品として売り出されていたら、その背後に奇矯なふるまいをした一人の客がいることを忘れないでください。

いま、私の傍らには、アール・ヌーヴォーの巨匠、ミュシャ風の美女が横顔を見せたまま半球のガラスの底に閉じ込められ、その口元に薄く笑みを刻んでいます。

掌への重みもしっかりとしていて、分厚い文庫本のページも難なく押し広げることができるでしょう。
それを見つけた時、あまりにもうれしくて思わず声を上げてしまいました。
私がやって来るのを待っていてくれたのね、そばに人がいなければそんなふうに話しかけたかも。

私は今、満たされています。



タイトルの「百花淫乱」は、アラーキーこと、荒木経惟の写真集から。
その中のひとつを切り取った絵葉書、素敵な文章とともに受け取って、今、私の手帳にはさまれています。端が少しはみ出していて、その濃厚な桃色が手帳の色と同じなのが偶然だとしても、このうえなく幸せだ。

遅ればせながら、皆さま、よいお年を。

これからもどうかよろしくお願いいたします。





最終回については、後日。