ハネムーンの日程を終えた娘夫婦をメトロで見送った足で、ガウディ監修の公園に来ている。
バルセロナ市内から歩いて40分。
今日から本当の徘徊一人旅だ。
その公園は正式には「グエル公園」という人気スポットだ。
カラフルなトカゲ像やキノコ風の建物に加え、地中海を見張らせる高台の高級住宅街の一角にある。
広大な公園は15万平米。
南欧の金持ちのケタは違う。
ガウディのパトロンだったグエル氏に依頼されて設計した庭は、くねくね道が丘の上まで伸びている。
道すがら、あちこちでストーリートミュージシャンが演奏している。
サックス奏者、ベースにギター、アコーディオン。
日本なら、ちょっとしたライブハウスでも出来るハイレベルな演奏をする。
そんな中で、ド派手な格好と演奏で人を集めている若者がいた。
陽には焼けているが、どうも英語づかいは日本人っぽい。
背中に太鼓、口にハーモニカ、両手にギターを抱え、弾く若者に魅入った。
日差しの強い中を上がって来て、疲れていたせいもある。
しばらく見ていると、観光客が立ち止まっている。
時折、ジョークで笑わせている。
リズミカルにコミックに唄う風貌はジョン・レノンに似てなくもない。
小林友哉。38歳。名古屋出身。独身。
「小銭稼ぎに来ました」と笑う。
バルセロナに1か月滞在して、グエル公園で2週間ほど演奏するという。
中々の人気者で、ゆっくり話が聞けない。
ギターケースにはコインがたまっていた。
夜、ゆっくり話を聞きたい。
飲む約束をして別れた。