功夫電影専科

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【特集:ジャッキーの失敗④】『ドラゴンロード』

2010-08-15 23:02:26 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ドラゴンロード」
原題:龍少爺
英題:Dragon Lord
製作:1982年

▼アメリカで挫折を味わったジャッキーは、香港で新たな試みに挑戦すべく「功夫映画はもう撮らない」という宣言を掲げた。ありきたりな功夫アクションから脱却し、現代的な新しい時代のアクション映画を撮る!…そう決意したジャッキーは、この『ドラゴンロード』で失敗の巻き返しを図ったのである。
本作でジャッキーは、功夫片おなじみの修行や仇討ちといった展開を避け、ラブストーリーやスポーツを織り込むことで新しい物語に挑戦している。が、出来上がった作品は功夫片から脱皮しきれておらず、印象はこれまでの功夫映画とあまり変わらない。アクション的にも、真っ当な功夫アクションが減ってしまったことでモタつきを感じる部分があり、ジャッキーも手探り状態で作っていた事が伺える。

■ジャッキーは名家のお坊ちゃまだが、いつも騒ぎを起こしてばかり。怖い父ちゃんの目を盗んでは、悪友の火星(マース)と一緒にトラブル続きの日々を送っていた。そんなある日、ジャッキーと火星は町のアイドルである雪梨(シドニー)を取り合い、大ゲンカを繰り広げてしまう。この争いは鉄砲をいじくってる間に解決するのだが、雪梨には嫌われっぱなしのままだ。
その頃、国宝密輸団の陳惠敏(チャーリー・チャン)は、裏家業に嫌気が差して首領の黄仁植(ウォン・インシック)と対立。組織の悪事を告発しようとしていたが、濡れ衣を着せられて追われる羽目に。一方、ジャッキーは雪梨に好かれようとドラゴンキッカーで活躍するのだが、流れ弾が彼女に当たって目論みは失敗。お詫びの手紙をタコに乗せて送ろうとしたが、風に流されて密輸団のアジトに落ちてしまった。だが、そこには火星の父である張沖(ポール・チャン)の姿が…?
 再び寺院で雪梨と遭遇したジャッキーは、逃走中の陳惠敏が襲われているところに出くわし、成り行きで彼を助け出した。いったん火星の家に陳惠敏を匿ったが、このことで密輸団は「仲介人役の張沖が密輸団を裏切ったのでは?」と疑い、ジャッキーたちを抹殺せんと動き出していく。
なんとか手下たちは退けたが、今度は黄仁植自らが現れて「陳惠敏が盗んだ国宝はどこだ!」と詰め寄ってきた。張沖は痛めつけられ、火星も鋭い蹴りの餌食となった。果たして、ジャッキーはこの圧倒的な戦力差にどうやって立ち向かうのか!?

▲本作のアクションは○○拳チックな動きを減らし、がむしゃらな戦闘スタイルとアクロバティックな動作を重視している。ジャッキーは拳法の修行をしないし(習い事でやっている程度)、功夫アクションよりもドラゴンキッカーやゴールデンポイントといったスポーツの部分に尺を裂いている。ジャッキーはこうすることで、功夫片とは違ったアクションスタイルの確立を目指そうとしていたのだ。
ジャッキーにとっては初の「脱・功夫アクション」となったわけであるが、やはり最初の試みだけあって歪な部分もいくつかある。香港の観客からしてみれば、『ヤング・マスター』で高度な功夫アクションを見せていたジャッキーが、本作ではザコに対して右往左往しているだけにしか見えなかっただろうし、支持が得られなかったのもそのへんに関係がありそうだ。一応、ラストのジャッキーVS黄仁植では高低差とスタントを多用した、画期的なアクションを構築しているのだが…。
 その一方で、本作には大きな収穫が2点ほどある。まず1つはスタント・アクションの起用だ。かつて『バトル・クリーク・ブロー』に出演した際、ジャッキーは走ってくる車を避けるというスタントを見せたが、この「体を張ったスタント」に彼は活路を見出したのではないだろうか。本作でジャッキーは屋根の上で槍を避け、そのまま転落しそうになる様を2度も演じている。ゴールデンポイントの試合やラストバトルにも痛いスタントが絡められており、ジャッキー・スタントの歴史は本作から始まったと言っても過言ではないはずだ。
もう1つの収穫はNG集の登場である。NG集自体は『キャノンボール』で初めてお披露目されたが、ジャッキー主導の作品としては本作が初の試みだ。このNG集、当時としては製作現場の裏側を見ることができる貴重なシークエンスであり、現在もジャッキー映画には必要不可欠の映像特典として重要視されている。
今やジャッキー映画の代名詞となった"スタント"と"NG集"だが、全ての始まりは一本の作品から始まっていたのである(それにしても、その起源となった作品がどちらもアメリカでの失敗作だったとは…奇妙な縁というか何というか・爆)。

 結局、煮え切らない作りが祟ったのか、本作は思った以上の興行収入を得られず、ジャッキーにとっては泣きっ面に蜂という痛ましい結果に終わった。しかし、翌年にジャッキーは長年温存していたある企画を始動させる。撮影日程の長期化・出演者の急死・過密なスケジュールといった困難を経験し、完成した作品こそが大傑作『プロジェクトA』であった。
この『プロジェクトA』は『ドラゴンロード』の雪辱戦ともいうべき作品であり、今回は海賊退治という基本プロットを中心に様々なエピソードを配置。功夫アクションは更に現代的なスタイルへと変わり、スタントもダイナミックなものへと進化した。ここに至り、ジャッキーは功夫的な要素を配した新しいタイプの殺陣を完成させたのである。
 この時点でジャッキーの人気は最高潮を向かえ、特に日本では最高の喝采を受けた。出演する作品は軒並みヒットを飛ばし、彼にとっても一番充実した時期だったと思われる。そんな中、『スパルタンX』『ポリス・ストーリー』などの傑作を撮っていたジャッキーは、「続編作品は撮らない」と公言していたにも関わらず某作の続編製作に取り組んだのだが…(次項へ続く)

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