功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

中国産功夫片を追え!(3)『神丐』

2017-08-27 23:58:49 | カンフー映画:珍作
神丐
英題:The Magic Beggar/Beggar Prodigy
製作:1987年

▼かつて李連杰(リー・リンチェイ)と共に北京武術隊に所属し、彼の先輩格として武術界・映画界の両方で名を馳せた1人の人物がいます。その名は王群(ウォン・クァン)…日本では馴染みのない方ですが、彼もまた実力派のスターでした。
『ジェット・リーの軌跡』では進行役として出演し、ワンチャイシリーズの亜流作品である『天地発狂』では堂々の主演として活躍。どちらも便乗作であり、特に『天地発狂』は完全な模倣品となっていますが、彼の見せる技量は本物です。
中国では『太極英雄』などのドラマの他、数々の功夫片に出演しました(残念ながら2008年に48歳の若さで逝去)。本作もその1つで、楊式太極拳の祖・楊露禅の若き日を描いた物語となっています。

■(字幕ナシで観賞したのでストーリーは多少推測が入ってます)
 王群はさすらいの武術家(ただし半人前)。市場で狼藉を働く沈保平を止めようとするが、思ったよりも手強くて普通に敗北してしまう。
実はこの沈保平、陳家溝に居を構える武術門派・陳氏一族の人間であった。師匠から陳家の拳法を学ぶように言いつけられていた?王群は、何度となく一族の当主・徐元國に弟子入りを乞うが、先の私闘の一件もあり突っぱねられてしまう。
 「ならば私は改めて修行を練り直し、再び貴方の元に馳せ参じます!その時にぜひご再考を!」…てな感じで武者修行に出る事になった王群は、自分に良くしてくれた凧売りの町娘に別れを告げ、別の道場へ身を寄せるのだった。
 しかし、道場の主人が道場破りに呆気なく敗北したり、武林の争いに巻き込まれたりとトラブルが続発。遂には自刃しようとまで思い詰めるが、天の声(?)に諭されて再び陳家溝へと舞い戻った。
こうなったら意地でも陳氏一族の拳法を習ってやる! そう決意した彼は、聾唖の浮浪者に化けて接近しようと試みた。一時は冬の寒さで凍死しかけるも、陳氏の邸宅に保護されて住み込みで働く事となる。
 幸い、徐元國らは王群のことをすっかり忘れていたため、彼は修行を覗き見て技をどんどん習得していく。また、その一方で一族に仇なす者を秘密裏に倒したりと、師となる相手への忠節も尽くしていった。
その後、色々あって正体がバレてしまうものの、正式に弟子入りを許される事となった王群。だが、今度は凧売りの町娘が病死してしまい、彼は悲しみに暮れながらも墓前で修行の成果を披露した。
そして長年の修行の末、ついに陳家溝から去る日がやって来た。ところが、そこにかつて陳氏一族と敵対し、片腕を落とされて姿を消した男が現れ……。

▲この作品は、「太極楊舎命[イ兪]拳」という武侠小説(著者は「武林」という語句を創作した巨匠・宮白羽)が原作で、実際に伝えられている楊露禅の逸話とはやや違うようです。
劇中では武林での争いなどサブエピソードが挟まれますが、基本的には真面目な功夫ドラマとして作られており、(ビジュアルで判断する限りでは)大きい破綻は見られません。
ただ、作りとしてはとても堅実ではあるものの、ややドラマチックさに欠けるきらいがあります。ヒロインの墓前で演武する所は良かったんですが、正式に弟子入りするシーンはちょっとサラっと流し過ぎかな…と思ってしまいました。
 さて武術家がモチーフの作品となると、気になるのはアクションのクオリティです。本作では武術指導を主演の王群とともに、楊式太極拳の元となった陳家太極拳の陳小旺宗師が直々に担当しています。
劇中では陳氏の一人娘に扮した陳永霞(湖北省出身の武術家)らが立ち回り、太極拳のゆったりとしたイメージを払拭するかのような荒々しいバトルが展開! この手の作品には珍しく、足や腕が斬られるスプラッタな見せ場もありました。
 そして王群は修行シーンをなかなか見せてくれませんが(おかげで前半の苦悩するシーンが空回り気味)、機敏な動作で蹴りを放ち、ラストでは少林僧っぽい姿の裏切り者と白熱した対決を演じています。
が、やはり本作も殺陣から演武っぽさが抜けておらず、ワイヤーや特殊効果の使い方もいまいち洗練されていません。確かに個々の動きは良いのですが、映画的な演出に適応しきっていないのです。
 実は、特集の最初で触れた「激闘!アジアン・アクション映画 大進撃」誌によると、中国映画は政府によって検閲や上映禁止措置が行われ、そのたびに中国アクション映画の歴史は停滞を余儀なくされてきました。
香港映画では絶え間なく功夫片が作られ、アクションの表現方法が驚異的な進化を遂げています。しかし中国映画では、その流れが何度も止められた事で経験値が得られず、ゆえに武術とアクションの融合がスムーズに出来なかったのでしょう。
 現在、この問題は技術の発展と香港側のスタッフ導入によって解決し、映画で十二分に武術を生かせるようになりました。しかし、武術とアクションの融合という命題に挑み、苦心を重ねた人々がいたことを決して忘れてはならないのです。
はてさて次回は、奇抜な女流アクションにまたまた中国武術界の精鋭が参戦! ちょいとスケジュールが厳しくなってきましたが(汗)、まだまだ特集は続きます!

最新の画像もっと見る

コメントを投稿