功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

恐怖!ニコイチ映画怪進撃(2)『ロボ道士/エルム街のキョンシー』

2017-02-10 19:38:20 | カンフー映画:駄作
「ロボ道士/エルム街のキョンシー」
原題:The Vampire is Alive/The Vampire Is Still Alive/Counter Destroyer
製作:1988年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 インチキなニンジャ映画を次々と製作し、何も知らない海外のバイヤーに売り捌いていたIFD Film & artsとフィルマーク社。しかし彼らはニンジャだけでは飽き足らず、流行のジャンルなら何でもニコイチ映画に組み込んでいきました。
その捻じ曲がった情熱がもっとも炸裂している作品が、この『ロボ道士/エルム街のキョンシー』です。タイトルを聞いただけでも頭痛がしそうですが、中身は想像をはるかに超える地獄絵図となっており、ニコイチ映画の深淵を垣間見ることが出来ます。
 物語は、ラストエンペラーを題材にした映画のシナリオを書こうとする脚本家の女性×2が、滞在先の別荘で恐ろしい悪夢を見るというもの。映画会社ではライバル会社の妨害工作と断定し、殺人誘拐上等の一大抗争にまで発展していきます(苦笑
どうやらソラポン・チャトリが刑事役で出演したタイ映画を切り刻み、そこにホラー映画っぽい新撮シーンを挟んだ代物のようですが、フィルマークはそこに様々な映画の要素をブチ込みました。
 邦題になっているキョンシーを始め、夢オチ演出とキャラクターを『エルム街の悪夢』から盗用し、当時『ラストエンペラー』で話題だった中国最後の皇帝の要素を加え、ついでにニンジャやゾンビを追加! この盛りっぷりは『雑家高手』を彷彿とさせます。
そんな努力が功を奏したのか、ご覧のようにストーリーは完全に破綻。粗雑な編集のせいで話は繋がっておらず、作品自体が悪夢と化していました。

 出てくる登場人物はすべて狂っており、仕事をする素振りを見せない脚本家の女性、ライバル会社の人間を次々と暗殺する調査員のジャッキー(役名)、突然ニンジャやロボ道士に変身する会社の同僚、役立たずの道士などなど…挙げるとキリがありません。
特にクレイジーなのが腐霊泥(フレディ)という怪物で、こいつの目的はなんと女性とヤりたいだけ。台詞によるとライバル会社から送り込まれた刺客だったようですが、そんな伏線やシーンは一切無いので訳が解りませんでした。
 ちなみにコイツによって脚本家の女性はいつの間にか孕まされ、腹を突き破るという無駄にグロい方法(たぶん『エイリアン2』を意識した演出)でベビーキョンシーが生まれます。
このベビーキョンシーは溥儀と名乗っていますが、だとすると腐霊泥の正体は清朝皇帝・愛新覚羅載[シ豊]ということになるんでしょうか? 腹を突き破られた脚本家もなぜか普通に生きてるし、もう本当になんなんだよコレ!(爆

 閑話休題…続いてアクションについてですが、元作品にこれといって激しい立ち回りは無し。新撮シーンでは映画会社の社員がニンジャに変身し、キョンシーや謎の大男と他愛もない戦いを展開します。
ラストでは腐霊泥がロボ道士を相手になかなかの蹴りを見せるんですが、実はコイツに扮しているのは元・五毒の1人である孫建(スン・チェン)その人! 彼は冒頭で最初に死ぬ運転手、ニンジャと戦うキョンシーも演じていました。
 前回も少しだけ触れましたが、ショウ・ブラザースに在籍していた孫建は五毒という功夫ユニットを組み、『五毒拳』『残酷復讐拳』といった傑作功夫片に出演。しかしショウブラが映画製作から手を引くと、彼は行き場を無くしてしまったのです。
同じ五毒のうち、郭振鋒(フィリップ・コク)は武術指導家の道を選び、江生(チェン・シェン)と鹿峰(ルー・フェン)は台湾に残留し、羅奔(ロー・マン)は別の会社に渡って生き残りました。
 しかし孫建だけは上手く方向転換が出来なかったらしく、本作のようなニコイチ映画に何度となく顔を出しています。90年代に入ると『[イ布]局』のような普通のアクション映画に出演しますが、程なくして映画界から去っていきました。
ひょっとすると、本作でもっとも悪夢を見ていたのはバイヤーや視聴者ではなく、暗中模索の只中にあった孫健自身だったのかもしれません……。
さて次回は、「鳥だ!飛行機だ!いやニコイチ映画だ!」というわけで(謎)、あのジャンルにIFD Film & artsが挑戦状を叩き付けます!