もりたなるお著『虚無僧秘帖』(新人物往来社)。虚無僧を主人公に
9編の話を綴った短編集。
虚無僧が 食事の時も 風呂に入る時も、寝る時も 天蓋をとらない
など、「えぇ!?」と思う箇所はあるが、その他は 涙が
出るほど うれしい内容だ。
たとえば、幕末最後、新撰組は官軍を迎え討つべく甲州勝沼に
出兵する。その時、多くの兵が戦う前に逃亡していく中で、青梅
鈴法寺の虚無僧が 「徳川への恩顧」と、新撰組に味方する。
といっても、刀、鉄砲で戦うのではない。尺八を振りかざすのでも
ない。ただ尺八を吹いて、官軍の進撃を阻止する盾となる。死をも
怖れず、ひたすら尺八を吹き続け、散華する。これぞ「普化宗」だ。
「家康公のお墨付」によって特権を得ていた虚無僧である。幕府に
殉じて 消えていく。それを象徴的に描いたのだ。
もうひとつ、普化宗は明治政府によって廃止される。社会の迷惑的
存在だった虚無僧は、村人から石つぶてを投げられる運命に転落する。
虚無僧といっても悪ばかりではない。善なる虚無僧もいた。その一人
「冬山氷人」は、村人から追われ、山中深く籠もる。そして、毎日
滝に打たれての修行を続け、滝の水も凍る寒い日、滝の中で氷づけと
なって死んでいく。これぞ究極の「全身脱去」の行。
虚無僧集団をよく理解した上で「こんな事もあったかもしれない、
あってもよかった」という リアリズムがある。作家の推理力に脱帽。
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