山里君が出発する前夜に市外にある彼の家を訪ねた。既に家族を沖縄に帰した後、家財道具を預かって貰いたいと申し出あったが運搬の問題でそのままになってしまった。沖縄の黒糖をご馳走になったのだが、その後南方に行く途中で輸送船とともに沈んだということを聞いた。冥福を祈る。
新聞の切り抜きをやるのも仕事のうちで、そのために各縮刷版のバックナンバーが部屋の棚一杯に保管されているのが魅力的だった。
そろそろ地方へ疎開をやり始めている大蔵省の図書館の中をのぞいてみたり、食堂で昼食をしたあと、昔懐かしい愛宕山附近まで歩いたりした。古本アサリもも街頭では物質統制で街もいよいよ寂れていくようであった。
そろそろ地方へ疎開をやり始めている大蔵省の図書館の中をのぞいてみたり、食堂で昼食をしたあと、昔懐かしい愛宕山附近まで歩いたりした。古本アサリもも街頭では物質統制で街もいよいよ寂れていくようであった。
係長の高松氏は国府課長の私用をやっていた。又統計をやっていた下門氏も司政官として軍刀を釣って南方に行くようになっていた。部屋の中は私と鈴木君位のガランとしたものになり、山里君がビルマに行くと決まったあとは私一人が調査の仕事をやるようになっていた。