シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

老人と犬(24) (彰ノ介日記)

2017-01-01 09:05:02 | Weblog
モーモとの出会いは、この腐り果てた心の奥深くに一筋の光が貫いたのです。
不思議な衝撃、私には初めて味わう安らぎ、感謝、感動の世界でした。
私は生涯かけてモーモを守って行こうと思い始めたのです。
気障っぽい言い方で失礼かと思いますが、
「モーモの為に命を投げ出す」と決めたのです。
これこそがせめてもの妻と娘に対する「供養」と思ったのです。
いやあ……面白くもない話で……でもこのことはやっぱり誰かに伝えておきたい
と、常々考えておりました。
ああ、これですっきりしました。有難うございました」

「そうでしたか、それですべてを理解できました。モーモは幸せな奴です」
それ以上のことはおじさんは語らなかった。
ひと粒、ふた粒と流れ落ちる涙が爺さんに対する気持ちを端的に表していた。

いよいよ退院の日を迎えた。
おじさんは、爺さんを迎えに行くつもりで一寸モーモの様子を覗き見してみたが、
もういなかった。
「早いな、もう出かけたんだ」と思い、病院に向かう。
丁度その時、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
不思議な縁だな、と思いつつ歩を進める。
あの大きなくすの木が遥か彼方に見え始め、やがてその姿がはっきりと見えてくる。
と、その木の下に大勢の人だかりが目に入って来た。
何だろう、嫌な予感が全身を覆った。
小走りで急ぎ、その中へ割って入った。
これはモーモ、紛れもなくモーモだ。
モーモが横たわっている。
「どうした、何事が起ったんだ」

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