シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

裏富士の凄み (夕焼け日記より)

2012-11-30 07:45:24 | Weblog

作品258(夕焼け日記より)

これは一体何という姿だ、夢か現実か、神の化身か。
音もなく静かに、微塵も揺るがず、ずんと構えたこの構え。
一分の隙もなく八方を睨み、大地を見守る富士山。
目の前に迫り来る得も知れぬものに圧倒され、立ちすくんだ。
頂上から六合目ぐらいまですっぽりと雪に被われている。
それが太陽の光に反射し、所々険しい肌跡を見せる。
怒涛のような迫力は、この輝きの明暗が織りなす所以であろう。
なだらかな傾斜は見事な曲線を描きながら下降し、遠く樹海へと広がる。
目頭が熱くなり、身体の置き場所を見失うほどの風格、さすがである。
ひらひらと波を立てる湖面、岸辺の鴨の群、どこまでも澄んだ青い空。
思い切り霊気を吸い込み、心の扉が奥深く開いたひと時である。
それにしても今日のこの晴天、めったに見られぬ裏富士の光景だと言う。
ここは河口湖から車で三十分、御坂峠の天下茶屋である。
太宰は「富士には月見草がよく似合う」と書いた。
この富士の愛しいまでの凄みをどう書き表わすか、
長い時間をかけて苦心の末、ようやくひらめいたのではなかろうか。
偶然にも今日は満月の前日であった。
ホテルの部屋は窓辺いっぱいのところにベッドがある。
大きなガラス窓の向こうに富士山の全裸の姿が大写しで見える。
ベッドに横になり、疲れた身体を休ませながらずっと富士を見ていた。
一粒、二粒の雲と共に山頂の右側が黄色に染まってくる。
夕焼け、油断も隙もならぬ、一瞬でその姿はがらりと変わる。
やがてあたりは暗くなり、しばらく時を待つ。
少しずつ雪に被われた部分が月の光に映し出されてきた。
暗闇の中でその姿はまさしく淡い白色の富士の形であった。
息を呑み、吐く息はふるえ、心は幻想の世界へと飛んでいく。
まるでお伽の国。
恐らく極楽浄土の絵巻にも思いを馳せ得ぬものに出会った。
それをベッドに寝転んで体感できるなんて思いもよらなかった。
先はそう永くはないと思い、覚悟を決めて遠出したのがよかった。
秀峰閣湖月。
あの世への最高級の土産となった。
あと二、三ねんでいい、何とか頑張れないかと思う。


合点いきません (夕焼け日記より)

2012-11-25 05:12:17 | Weblog

作品257(夕焼け日記より)

どうしても合点いかぬことがあるのです。
学校の先生、医師、看護士、弁護士等々、
みんなそれぞれ資格を要するじゃないですか。
ところで、
国を背負う国会議員の仕事、
これって本当に資格が要らないのですか。
ここのところが不思議でなりません。
今や国政はボランティアではないでしょう。
国の命運、国民の命運がかかっています。
リーダーシップ、企画力、深い見識は勿論のこと、
語学、経済、各国の文化歴史、それに胆力、度量。
各方面に亘って一流の安定性と実力が必要と思いますがね。
鍛えに鍛えられた人間性溢れる人物に担って頂きたいもの。
十年制の国家要職養成大学なんて作ってさ。
そこでみっちり鍛えるのさ、宇宙飛行士みたいに。
学費なんて半分ぐらいは税金でいい。
そこを卒業できたら人も羨む資格が与えられる。
勿論職業の選択は自由、引く手数多だよ。
国会議員はこの資格なしに立候補はできないシステム。
もし国会議員になったら給料は大会社の何倍も払えばいい。
国をどうするかの、大仕事。
身を呈してやる過酷な仕事だもの、当然のことです。
きっと凄い国に変身していきますよ。
それは、ま、とりあえず夢物語として、
権勢欲の塊みたいな、人を人とも思わぬ言い草、進め方、
あんな集団、もう勘弁してほしい。
これじゃあもうすぐ世界の国から脱落しますよ。
政局がらみのねじれ国会だなんて、幼稚園の世界だよあれは。
こんな恐ろしい世の中、何とかしようよ。


雨降りの侘しい日 (夕焼け日記より)

2012-11-17 15:32:56 | Weblog

作品256(夕焼け日記より)

ペタペタと雨が降り始めた。
何だか肌寒い。
椅子を倒し、毛布を被って仰向けに寝る。
黒い雲が空を被い、夕暮れのように暗い。
時々、車がピシャッと音を立てて通り過ぎていく。
人の気配はなく、やけに静かだ。
突然柱時計が時を打つ。
五つ。
あのときもこんな日であった。
何をするでもなくぼんやりと、
成すがままに身を任せ、ゆらゆらと瞑想に耽る。
幾千枚もの画像が脳を駆け巡っているだろうが、
それなりに心地よい。
止まってほしい時間が容赦なく過ぎ行く。
しばらくしてはっと我に返る。
あたりはもう真っ暗。
階下の台所でコトコト音がしている。
何という優しき響き。
されど今は何も食べたくない。
何もしたくない。
こうしてこのままじっとしていていたい。
しかし、この雨の音、やがて侘しさを気付かせるだろう。
もうすぐ秋は終わる。
そして、あの冬が来る。
どう生きていこうか。



懐かしの紅葉道 (夕焼け日記より)

2012-11-11 07:43:20 | Weblog

作品255(夕焼け日記より)

おっ、おっ、見てごらん、少しずつ色づいて来ているぞ。
ほれ、あそこの川辺の赤と黄色、いいじゃない。
でも、いま少しだね、一寸早すぎたかな。
本当はここのわたらせ渓谷、今が見ごろのはずなんだけれど。
いや、もう一寸走ってみよう。
足尾まで行ったらきっといい紅葉になっているぞ。
ほら、段々色づきがよくなってきた。
待って、ここで降りてみよう。
あそこの川岸の楓、見事に黄金色を水面に映し出している。
向こうの山肌もあちこち、紅葉の色が付いている。
緑の中に秋の色を落としたようだ。
おっ、凄いことになってきたぞ。
これは、いよいよ本物の紅葉に違いない。
うわー凄い、これは、今が最高のとき、ベストタイミングだ。
命息吹く総天然色の真っ只中に居るんだぜ、本物だぜ。
いやー凄い、お見事、言葉が出ない、表現のしようがない。
ビデオ、写真、絵画、音楽、文章、
ありとあらゆるものを総動員したってだめだな。
こんな光景が見られるなら、頑張ってもう数年生きていたい。
この足尾から鹿沼へ抜けるコース、懐かしの紅葉の道だものね。
七年ぶりだけれど変わっちゃいない、来てよかった。
あっ、あれを見て!一寸車止めようか。
凄いやこれ、太陽の光の中で総天然色がダイヤのように光っている。
こんな光景が何百年何千年と続いて来たと思うと、
何だか震えがくる、夢の中にいるようだ。
ああ、こんな中でゆっくり目を閉じて死ねたら言う事なしだけれど。
あっ、「つつじの湯」と書いてある。
それでいいや、ここで温泉入って終りにしようか。
多分、大自然の中で紅葉を仰ぎながら露天風呂を楽しめるぞ。



大好き、干し柿 (夕焼け日記)

2012-11-01 17:33:25 | Weblog

作品254(夕焼け日記より)

二階の窓辺に干し柿がずらりと並んだ。
まだ小さな木だが、今年は百個の実をつけた。
何だか逞しくなってきたなと思っていたら、びっくりだ。
小躍りするぐらい嬉しいが、困ったことになった。
近所の皆様に差し上げるとしても、かなりの数が残る。
大好きな干し柿、毎日一つや二つ、ペロリのはずだった。
勿論それを楽しみに渋柿を選んだのだが、事態は急変した。
もしそんなことをしたら死ぬぞ、と脅されている。
カリウムの量が群を抜いて多いから、と言う。
私の病はこれを処理できず、心臓が止まることがあるとか。
まさかねえ、こんな恐ろしい病気があるとはね。
勿論干し柿以外にも気を配らねばならないものはある。
でも今は秋、干し柿の季節。
食べますよ、目の前に置いて涎垂らすはごめんこうむる。
一日二十グラム、びしっと計量しながら食べます、文句ありますか。
透析を少しでも引き伸ばし出来るなら、何でもやります。
やりますとも、一口で結構。
こんな美味しい干し柿、諦めてなるものですか。
しかしまあ、立派に成長したものだ、この柿木。
可哀想だけれど、今年はずんと切り落としますよ。
これ以上大きくなってもお互いに困りますからね。
私も我慢、そちらも我慢、
いいじゃないですか、大好きな君。






さあ、満喫してやるぞ (夕焼け日記より)

2012-11-01 08:10:43 | Weblog

作品253(夕焼け日記より)

これですよ、これ。
この抜けるような青空と澄んだ空気、どんなに待ち詫びたことか。
今年の厳しい夏をどうにか超えて、ようやく来ました。
どのように過ごしてやろうかとあれこれ考えていますが、
いやあ、とても思いどおりにはいきません。
仮に丸一日動くとしたら、前後四日の休養をみておかねばなりません。
病院行きも今月はなぜか四回も入っています。
それにこの身体ですからね、歩くのはなるべく少なくしたい。
土、日は避ける、などといういろいろな制約がありましてね。
心弾ませながら、パズルを解いているようなもの。
さりとて、必ず行き止まりが来る人生ですからね、
それが明日かも知れないし、三年先かも分からないし、
紅葉はずんずん降りてきているし、大白鳥も飛来して来るし、
いやあ、焦っちゃいます。
どうにかそれらの難問をかいくぐって、今日、
やっと十一月の遊びの予定が決まりました。
動けるだけでも幸せ、その意思あるだけで十分。
やっぱり秋なのですね、体調がいいのです、間違いなく。
恐怖の冬が来るまでにそそくさと精一杯、
さあ、満喫してやるぞ。