シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

林檎の木、に思う  (夕焼け日記より)

2013-04-28 08:35:20 | Weblog

作品281(夕焼け日記より)

ゴールズワージーの「林檎の木」は名作である。
若かりし頃涙ポロポロ流して何度も読んだ。
ついには英語の原文で読み、家庭教師の教材にも使った。
このボケ男の、生涯最初で最後の試みであった。
清らな恋の物語である。
僅かな期間、燃え上がった恋の炎の何という切なき美しさ。
まるで満月の中を寄り添う影が映し出されているようである。
彼らの出会いは、彼が足を挫いて民家に立ち寄った偶然から始まる。
まるで神が導くが如く二人は深い愛の淵に入っていく。
その繊細な描写は他の類を見ない。
彼は上流社会、彼女は農民。
しかし私は身分の垣根を越えた恋愛を信じて読んだ。
幻想的とも思われる純愛物語。
青春時代、私はこのような恋愛を夢見ていた。
そうであるがゆえに、
結局彼に捨てられる運命に嘆き苦しむ彼女の悲恋を思いやるのであった。
銀婚式の日、彼は妻と共にその思い出の地を訪ねる。
そこで初めて彼女の凄絶な死を知り、愛の深さを思い知らされる。
その結末に涙が吹き出たのである。

勿論私にそのような恋愛の経験のあろうはずもない。
今頃になって「林檎の木」を思い出すなんて不恰好ではある。
私どもの出会いは「見合い」である。
間もなく五十年を迎える。
地味ではあるがお互いに頼りあいながらここまで来た。
感謝の気持ちの中にそれに勝るとも劣らぬものが生まれた。
今更恥ずかしいが、今がそのときかも知れない。

 


酔ったらもっと名案出るぞ (夕焼け日記より)

2013-04-21 09:09:26 | Weblog

作品280(夕焼け日記より)

チョコレートパフェを食べながら二時間。
こんなことができるようになりました。
おふくろ、天国で大喜びしているだろうよ。
カロリーの一番ありそうな一品を選び出し、
カリウムの多いバナナを外してもらいます。
蛋白は一目見たらおよその察しがつきますから。
お酒の好きな友人、よくぞ付き合ってくれました。
こんなところで男同士の世間話、洒落たものです。
お互いに病持ち、頑張っているのです。
「こんなに注意深くやっていたらきっと長生きするぞ」
「長すぎるのも困るが、あと一、二年と言われてもな」
「そうよ、イチローの引退までは、それに井山ですな」

隣国との関係も困ったものだ、と言い出して更に話は弾む。
面子なんぞかなぐり捨てて裸で向かい合ったらどうなんだ。
双方絶対に譲らぬなら解決の見通しはゼロ。しかも何の益もなし。
分かりませんかねこんな簡単な理屈
一旦神様に預かってもらうのはどうだろう。それとも仏様に。
それより、戦争吹っかけて侵略し、偉そうな面できるのかね。
そうだ、戦争のいきさつ、犯人、我等何も知らされておらん。
それにしても日本の国、よくぞここまで立ち直ったものよ。
さすがなものだ

隣の席の若い女の人、なにやらじろじろこっちを見ている。
おっ、もう二時を過ぎたぞボツボツ帰りますか。
酔ったらもっと名案出ただろうに、すみませんね。


ようやく見えてきた (夕焼け日記より)

2013-04-14 10:22:36 | Weblog

作品279(夕焼け日記より)

この歳になってようやく老人の何たるかを知る。
同時に又若かりし時のことが分かってきた。
遅きに失した感はあるが、いたし方もない。

是非申し上げたきことがある。
青春は、あれは人生最高のとき。
希望に溢れ、何でもやれるとき。
あのように楽しく打ち込める時代は二度とない。
悪しきことが起こっても、いつまでも続きはしない。
やり直しもきく、恐れることはない。
存分にやればよい。

壮年の時代は最も充実し、重荷を背負い得るとき。
又、それを永遠であるかのごとく錯覚してしまうときでもある。
この自信過剰が最も怖い。
さりとて、安穏を求めて守りにはいったら即老いる。
難しいときである。

医学用語でよく「保存療法」という言葉を使う。
人生の終盤、つまり老人はこの保存療法の時代である。
その決め手に脳の活性化を取り入れる。
そう、先を見ずにどう過ごさせるかがその本質にある。

私は今この時期に入った。
怖いのはどのような形で土壇場を迎えるか、である。
老人はここのところを最も警戒している。
さてどうするか、残念ながらまだ答えはない。



 

 

 


新しい人類社会の誕生 (夕焼け日記より)

2013-04-07 09:46:36 | Weblog

作品278(夕焼け日記より)

どうしたあんな「ワル」がいるのかな。
殺人、強盗、放火、詐欺、それからいじめ,,,,
毎日必ず何かが起こっている。
あれって一体なんだろう。
家庭環境、社会環境、それとも?
でも、保育園や幼稚園を見てごらん。
どれもこれも可愛い子供達。
そんな「ワル」になる子がいるなんて信じられない。
ある時期が来たら突然「ワル」に変わっていく病気があるのかな。

いや、それ以前に生命誕生の瞬間からこのことはあった。
生きんがために恐るべき手段を習得した殺し屋。
絶滅に追いやられた種は数多い。
人類誕生はこれらの歴史の集積である。

さりとて人類は今や生命体の頂点に君臨する。
このことも自然界の約束事であったような気がする。
苦しみに喘ぐ人々を救う力を持ち合わせているはずである。
近い将来、必ずや「ワル」の正体を突き止めるに違いない。
それを知ったとき人々は腰を抜かすほどの衝撃を受けるであろう。
怪物の怪物たる所以を知り、神をも恨むに違いない。
やがて治療薬は完成し、新しい人類社会の誕生のときを迎える。
「ワル」の一人もいなくなった社会、
想像をはるかに超えた優雅で幸せに満ち溢れた世界が現われる。

大宇宙の中で先駆者達がこのことを見守っているだろうよ。


お見事、桜花 (夕焼け日記より)

2013-04-02 09:39:32 | Weblog

作品278

お見事。
さすがなものですね、桜の花って。
車椅子の人も、杖持った人も、みんな来ていますよ。
あなたの、そのこぼれ落ちそうな笑顔は特別なのです。
何だか顔が緩んできちゃってさ。
目頭が熱くなってきちゃってさ。
いつもと同じ桜の花であるはずなのに、
今年は一寸違うのです。

みんなにその全てをみて貰おうと思い切り花広げています。
それが心地よく伝わってくるのです。
小鳥もやけに数多くはしゃいでみえます。
羨ましいほど幸せそう。
こっちの心も小躍りし始めます。
こんな感覚、今までになかったこと。

それにしても、
何と凄い花なんでしょう。
幾百本もの木が丸ごと花になるなんて考えられない。
もしもこれが今年限りで見られなくなるとしたら、
ああどうしよう、だなんてふと思ったりして、
ちょっぴりオセンチになりました。