シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

青い飛沫(1)

2017-02-16 09:18:09 | Weblog
「一寸買い物に行ってきます。携帯は枕元よ、一時間ぐらいで帰ってきますから」
そう言いながら公江は窓を片っ端から閉め始める。病人を置いての外出だから用心しているのだ。
黒ずんだ灰色の空がずっしりと垂れ下がっているのが目に入った。今にも振り出しそうだ。
「買い物か……気を付けてな」
口開いてそう言ったつもりであったが声にはならず、「う、うーん」の唸り声である。
微睡の中で意識はまだ混とんとしている。見事な二日酔いである。
心臓がけだるい。いつあの発作に襲われはしないかとびくびくしている。

この所二週間程いやらしい発作に見舞われているのである。
突然、首から肩にかけて引っ張られるような、焼けるような痺れに襲われる。
病院に行ったら冠動脈の痙攣かもしれませんと言われて頓服を頂いた。
治は用心のためにその舌下錠を引き出しから取り出しておこうと思った。
朦朧とした意識の中でやるものだからついその薬を床に落としてしまった。
「畜生、何てこった、いつまでたっても馬鹿だね、俺って奴は」
ブツブツ文句を言いながらベッドから身を乗り出して探す。
なかなか見つからない。
とうとう堪忍袋の緒が切れて、意を決して起き上がった。
薬をようやく見つけ、序にトイレに向かう。
一休みしようと思ってリビングのソファに腰を掛けた途端軽い発作を感じた。
大急ぎでウィスキーを小さめのグラスに入れ、一気に呑む。
これも治式の頓服材である。医者に行く前はいつもこうして発作を克服してきた実績がある。
量とタイミングは心得ている。
二杯目を呑んだ。
少しボッとしてきた。元々二日酔いであるから回りが早いようである。
発作の不安は大分薄らいできた。もう大丈夫だ。
それから頓服をしっかり脇に置き、ごそごそとベッドにもぐりこみ、横になって目を閉じた。