トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

暴力装置? そのとおりだろ

2010-11-19 00:19:22 | 現代日本政治
 仙石官房長官が国会答弁で自衛隊を「暴力装置」と述べ、批判を受けて撤回したとの記事を昨日の朝日新聞夕刊で読んだ。



仙谷長官「自衛隊は暴力装置」
 「実力組織」へ言い換え撤回、謝罪

 仙谷由人官房長官は18日の参院予算委員会で、「自衛隊は暴力装置」と述べた。その後、「実力組織」と言い換えた上で、発言を撤回し、謝罪した。

 「暴力装置」の表現は、かつて自衛隊を違憲と批判する立場から使用されてきた経緯がある。

 この発言は、世耕弘成氏(自民)の質問に対する答弁で飛び出した。世耕氏は、防衛省が政治的な発言をする団体に防衛省や自衛隊がかかわる行事への参加を控えてもらうよう指示する通達を出したことを問題視し、国家公務員と自衛隊員の違いを質問。仙谷氏が「暴力装置でもある自衛隊は特段の政治的な中立性が確保されなければならない」と語った。

 世耕氏は仙谷氏に対し、発言の撤回と謝罪を要求。仙谷氏は「用語として不適当だった。自衛隊のみなさんには謝罪致します」と述べた。



 暴力装置。
 日常会話では出てこない言葉だろう。
 ふだん耳にしない人は、ギョッとするかもしれない。
 自衛隊を暴力的な集団だと言うのか! と憤る人もいるかもしれない。
 世耕もそういう意味でこの発言を批判したのだろう。

 「暴力装置」の表現は、かつて自衛隊を違憲と批判する立場から使用されてきた経緯がある。


 それはそうかもしれない。右翼が自衛隊を「暴力装置」と評する姿は想像できない。

 しかし、では「暴力装置」とは左翼用語なのだろうか。
 私にはそうは思えない。
 これは、価値中立的な用語ではないだろうか。
 もっぱら政治学や社会学の方面で用いられてきた言葉ではないだろうか。

 この私のブログを検索したところ、私も「暴力装置」という言葉を用いている。
 「井上ひさしの死に寄せて」と題する記事で、次のように述べている。

 肉体的な優位性をもって弱者を支配するというのは、軍や警察といった暴力装置を用いて民衆を弾圧する権力者と何ら変わりはない。
 そうした人物による戦争批判だの9条擁護だのに、私は何の価値も見いだすことはできない。


 だからといって私は軍や警察の存在を否定はしない。在って当然だし、在るべきものだと思っている。
 彼らの活動には敬意を払うべきだとも思っている。
 また、自衛隊などという名称ではなく、国軍に改めるべきだとも考えている。
 9条などとっとと改正し、「普通の国」になるべきだと思っている。

 しかし、軍や警察が国家にとっての暴力装置であることは、それとは全く別のことである。
 私は、軍や警察を暴力装置であると述べることが、軍人や警察官に対して失礼であるとは思えない。

 もっとも、軍人や警察官個人に面と向かって「あなたがたは国家の暴力装置だ」などと発言するのは当然非礼だろう。
 内閣の実質ナンバー2である官房長官が国会答弁で口にするのが適切な用語だとも思えない。
 その意味で、世耕が発言を問題視したのは政治的には正しいだろうし、仙谷が発言を撤回し謝罪したのもまた正しいだろう。

 しかし、割り切れない思いが私には残る。
 無理が通って道理が引っ込むというか……。

 わが国は、こんな低レベルの政争をしている場合なのだろうか。

 MSN産経ニュースは、自衛官から失望の声が上がっていると伝えている。


「非常に残念」「いい気持ちしない」「むなしい」 仙谷氏「暴力装置」発言で自衛官から失望の声

 仙谷由人官房長官が18日の参院予算委員会で、自衛隊について「暴力装置」などと述べた後に撤回した問題で、国防の第一線に立つ現役の自衛官からは、怒りや不快感、失望の声が挙がった。

 陸海空の自衛官の最高位に就く折木(おりき)良一統合幕僚長はこの日の会見で、「国会の議論は整斉(せいせい)とやっていただいていると思うが、われわれとしてはやることをきちんとやっていくということ」と述べ、任務に徹する考えを示した。

 一方、30代の男性航空自衛官は「官房長官たる人がいくら撤回したとはいえ思想の中で『暴力装置』だと思っていることが非常に残念。(謝罪をして『実力組織』と)言い換えても思っていることに変わりない」と怒りをあらわにした。

 50代の男性陸上自衛官は「本音の部分ではいろいろと思うところはあるが、制服組なので政治的発言は控えたい」と前置きした上で、「国会で答弁が行われている間も、われわれは山の中に入ったりして訓練をしている。それは何のためかといえば国の平和と安全を守るためだ。命を賭(と)して国を守っている自衛隊員への発言として、いい気持ちはしない」と切り捨てた。

 陸自に所属する30代の男性自衛官も「『暴力装置』とはマイナスイメージの言葉で、社会悪のようなイメージ。まるで自衛隊は存在してはだめだと言いたげだった。おそらく自身の経歴からにじみ出た軍隊観だと思うが、一国の官房長官にここまで毛嫌いされているのかと思うと、悲しいし、むなしい」と肩を落とした。

 また、ある自衛隊幹部は「官房長官は『実力組織』と言い換えているし、言葉の問題だけに目を向けるのではなく、冷静に受け止めるべきだ」と一歩引いた見方を示した。



 確かに、「いい気持ちはしない」だろうが、
「『暴力装置』とはマイナスイメージの言葉で、社会悪のようなイメージ。」
 そうかなあ。
 自衛隊は暴力装置以外の何物でもないと思うし、自衛官にはそれを自覚して文民統制に服してもらいたいものだが。

 「実力組織」ならいいのか。
 どういう「実力」なのか。体力か? 精神力か? 財力か? 知力か?
 暴力だろうに。

 天皇機関説批判の中には、畏れ多くも天皇陛下を機関車にたとえるとはケシカラン!といったレベルのものがあったという話を思い出した。


 同じくMSN産経ニュースに、阿比留瑠比記者の次のような記事が掲載されている。


 仙谷氏「暴力装置」発言 謝罪・撤回したものの…社会主義夢見た過去、本質あらわに

 仙谷由人官房長官は18日の参院予算委員会で、自衛隊を「暴力装置」と表現した。直後に撤回し「実力組織」と言い換えた上で「法律上の用語としては不適当だった。自衛隊の皆さんには謝罪する」と陳謝した。菅直人首相も午後の参院予算委で「自衛隊の皆さんのプライドを傷つけることになり、おわびする」と述べた。首相は18日夜、仙谷氏を執務室に呼び「今後、気を付けるように」と強く注意した。特異な言葉がとっさに飛び出す背景には、かつて学生運動に身を投じた仙谷氏独特の思想・信条があり、民主党政権の自衛隊観を反映したともいえそうだ。(阿比留瑠比)

 「昔の左翼時代のDNAが、図らずも明らかになっちゃった」

 みんなの党の渡辺喜美代表は18日、仙谷氏の発言について端的に指摘した。

 「暴力装置」はもともとドイツの社会学者のマックス・ウェーバーが警察や軍隊を指して用い「政治は暴力装置を独占する権力」などと表現した言葉だ。それをロシアの革命家、レーニンが「国家権力の本質は暴力装置」などと、暴力革命の理論付けに使用したため、全共闘運動華やかなりしころには、主に左翼用語として流通した。

 現在では、自衛隊を「暴力装置」といわれると違和感がある。だが、旧社会党出身で、東大時代は日韓基本条約反対デモに参加し、フロント(社会主義青年同盟構造改革派)で活動していた仙谷氏にとっては、なじみ深い言葉なのだろう。

 国会議事録で「暴力装置」との表現を探しても、「青春をかけて闘った学生を、自らの手で国家権力の暴力装置に委ね…」(昭和44年の衆院法務委員会、社会党の猪俣浩三氏)、「権力の暴力装置ともいうべき警察」(48年の衆院法務委、共産党の正森成二氏)-などと主に革新勢力が使用していた。

 18日の国会での反応をみても、自民党の丸川珠代参院議員は「自衛隊の方々に失礼極まりない」と批判したが、共産党の穀田恵二国対委員長は「いわば学術用語として、そういうこと(暴力装置との表現)は当然あったんでしょう」と理解を示した。

 民主党の岡田克也幹事長は「人間誰でも言い間違いはある。本来、実力組織というべきだったかもしれない」と言葉少なに語った。

 仙谷氏は著書の中で、「若かりし頃(ころ)、社会主義を夢見た」と明かし、その理由としてこう書いている。

 「社会主義社会には個人の完全な自由がもたらされ、その能力は全面的に開花し、正義が完全に貫徹しているというア・プリオリな思いからであった」

 仙谷氏は後に現実主義に「転向」し、今では「全共闘のときの麗しい『連帯を求めて孤立を恐れず』を政治の場でやるとすってんてんの少数派になる。政治をやる以上は多数派形成をやる」(7月7日の講演)と述べている。とはいえ、なかなか若いころの思考形態から抜け出せないようだ。

 「ちょっと言葉が走った。ウェーバーを読み直し、改めて勉強したい」

 18日午後の記者会見で、仙谷氏はいつになく謙虚にこう語った。

 (注)「ア・プリオリ」は「先験的」の意味



 仙谷が、自衛隊は廃止すべきという立場から「暴力装置」という言葉を用いているなら、こうした批判も有効だろう。
 だが、そうではないだろう。
「暴力装置でもある自衛隊は特段の政治的な中立性が確保されなければならない」
 朝日が伝えたこの仙谷の発言はどこか間違っているだろうか。

 この件について検索していたら、2ちゃんねるにこんなスレッドが上がっているのを見つけた。


自民党&ネトウヨさらに涙目www  石破「自衛隊は暴力装置」
1 : ミルーノ(東京都):2010/11/18(木) 21:10:41.37 ID:DNTN3R6S0 ?PLT(12001) ポイント特典

軍事を知らずして平和を語るな 石破 茂 清谷 信一
ttp://afv.la.coocan.jp/index.php/2010/07/%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E3%82%92%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9A%E3%81%97%E3%81%A6%E5%B9%B3%E5%92%8C%E3%82%92%E8%AA%9E%E3%82%8B%E3%81%AA%E3%83%BB%E3%83%BB%E3%83%BB%E3%83%BB/

>国家という存在は、国の独立や社会の秩序を守るために、暴力装置を合法的に独占・所有しています。
>それが国家のひとつの定義だろうと。暴力装置というのは、すなわち軍隊と警察です。日本では自衛隊と
>警察、それに海上保安庁も含まれます。



 これは石破の発言である。
 まあ石破なら、これぐらいのことは言うだろう。

 世耕や阿比留や丸山珠代は、石破に対しても「左翼」「革新勢力」「自衛隊の方々に失礼極まりない」と批判し、撤回を要求するのだろうか。

(関連記事「田母神論文への反応に対していくつか思ったこと(1)」)

(2010.11.21 仙谷を「仙石」と誤記していたことに気付き、修正)
 


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7 コメント

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暴力装置 (権兵衛)
2011-09-23 10:37:57
自衛隊が暴力装置とは、反日分子の戯言ですか?
暴力装置が震災での救援活動を全身全霊を持って行いますか。
もう少し理論整然とした論理整合性をお願いします。

Re:暴力装置 (深沢明人)
2011-09-25 20:48:34
 記事を一読された上でのご感想でしょうか?

 暴力装置とは、国家が暴力を行使するための装置といった意味合いの用語にすぎません。その「装置」を批判するための用語ではありませんし、左翼用語でもありません。
 記事を読んでいただければわかると思うのですが、私は自衛隊を批判していません。

 災害派遣は自衛隊の本務ではありません。自衛隊は災害救助隊ではありません。
 自衛隊の本務は、自衛隊法第3条に規定されています。

《(自衛隊の任務)
第三条  自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
2  自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
一  我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
二  国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動 》

 わが国の防衛と、公共の秩序の維持が任務です。
 公共の秩序の維持とは、治安出動が認められているということです。
 つまり、内乱のような状況になれば、国民に銃を向ける場合もあるということです。
 これは国家として当然のことであり、何ら問題があるとは思いません。

 災害派遣は自衛隊法第83条に規定されています。これは自衛隊(一般的には軍隊)が、災害時のような非常事態の下でも自給自足で活動のできる特殊な集団であるため、そうした任務にも用いられているのでしょう。

 自衛隊が災害救助を専門とする集団であれば、それは暴力装置ではないでしょう。消防署を暴力装置と呼ばないのと同じです。
 しかし、自衛隊が兵器を持った実質上の軍隊である以上、それが災害派遣に用いられることもあるからといって、暴力装置でないとは言えません。

暴力装置? (権兵衛)
2011-10-03 23:57:26
自衛隊を暴力装置とする論法なら銃を運用している警察もやはり暴力装置となりますが社会通念上では有り得ない感覚ですね。
有事の際に自身が敵の射線に晒されてもお上の命令無くしては、反撃もままならない自衛隊の火器使用方からは暴力装置なる言葉の持つイメージ全く見出だせないものです。
暴力装置なる言葉はある一定の社会的な領域では通用するものであっても、やはりそれは反日分子が自衛隊を卑下する為の用語としか思えないのですが如何でしょうか。
まぁ (勘兵衛)
2011-10-04 18:04:12
まぁ まぁ どっちでも ええんじゃないか
了解 (権兵衛)
2011-10-05 00:10:59
勘兵衛さんや まぁどっちでもいい事かの。
向きになった我輩が愚かであった。
Re:暴力装置? (深沢明人)
2011-10-08 20:34:12
 もちろん警察も暴力装置です。
 海上保安庁も銃砲を装備していますから暴力装置です。
 記事中でも挙げたように、石破茂もそう言っています。

 私は価値中立的な用語だと考えていますが、反日用語だと思い込みたいのならお好きにどうぞ。

>有事の際に自身が敵の射線に晒されてもお上の命令無くしては、反撃もままならない自衛隊

 これは、何か根拠があっての話でしょうか?
 普通に考えれば有り得ないことだと思いますが。

暴力装置? (権兵衛)
2011-10-09 01:18:33
暴力装置なる言葉は用語としては存在しそれが自衛隊や警察を含む組織を指すものでも一般に感じる語感としては極めて不適切でしょう。
故に例のバカ議員の発言も問題になったのでしょうね。
自衛隊の事ですが確か2006年までは部隊行動基準なる曖昧な交戦規定に縛られいたと思います。
後は聞いた話では現在の民主党政権下では仮に中共の解放軍が日本の国土に侵攻しても政府の指示無くして交戦し相手に被害を与えると発砲した自衛隊は殺人罪で起訴されるとの内容ですが如何ですか。反日分子の巣窟である民主党では限りなく中共解放軍に加担すると思われるのですか…。
暴力装置から話が飛躍して申し訳ありません。

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