風 雑記

建築とその周辺で感じたこと、思ったこと

阿蘇の家

2020-04-29 15:21:53 | 日記

阿蘇地域には医療関係3件、福祉関係3件、保育園、青少年交流の家、YMCA阿蘇キャンプメインホール、なみのやすらぎ交流館(小学校のリノベーション)、別荘など10数棟の設計を手掛けているのですが、住宅の設計は初めてになります。

阿蘇の家は7年前に一度基本設計まで手掛けていて、敷地の関係で保留になっていたものです。今回は新たな敷地での再設計となりました。

国道57号線から200m程北側の敷地で元は畑だった所です。最初敷地を見たときは周辺を住宅に囲まれていたので、設計の芯になる部分を探しました。阿蘇の魅力はやはり阿蘇五岳と外輪山の風景です。敷地の中央に伸縮式の脚立を立て、約2.5M程の高さから4周の風景を見て、南東の方角に根子岳と外輪山が見えました。

南東の山の風景を阿蘇の家の設計の芯にすることにしました。建物のフロアーラインを地盤から1.0M近く高くすることで、外から見る視線と住宅からの外を見る視線に高低差でズレが生じるように計画しました。建物自体は平屋建てで車椅子でも補助する人が居れば登りやすいように小さな段のゆっくりした階段にしています。スロープは意外に長さが必要で、お年寄りの方には傾斜は足首に負担をかける場合もあるので、風設計室では緩やかな階段を設けることが多くあります。

住まいの平面構成はシンプルで玄関右側に和室、左側にLDKを配置し、どちら側からも南東の根子岳と外輪山が望めます。外壁は軒の短い妻側はガルバニュウム鋼板横葺き、軒の深い南北面は左官の塗り壁仕上げにしています。屋根には太陽熱空気集熱システムの「そよ風」を設置しています。集熱に採熱板と集熱ガラスを併用を初めて採用しましたが、熊本市より5℃以上寒い阿蘇でも真冬に70℃近い温風が、床下のコンクリートを温め、室内温熱環境も快適に維持してくれています。

10帖の和室は法事にも使われることもあり、縁側まで取り込んで使っていただけるよう、和室と縁側を仕切る障子は天井まで高くし、3枚引き込みにしました。

広めのLDKは杉板張りの斜め天井で、杉板材の定尺に合わせて照明のスリットでデザインしました。

根子岳と外輪山を見ながら、気持ち良く安心して暮らして頂けるようにと願いを込めた住まいです。

住まいは他にも地震対策、台風などの強風対策、メンテナンスのし易さ、室内温熱環境をサポートする断熱性とともに、パッシブなソーラーシステムも欠かせない要素だと考えて設計に取り組んでいます。

住み手の方から「住まいが温かいことが一番嬉しい」と必ず言われるので、いつも工夫し、時には施工にも加わりながらパッシブソーラーに取り組んでいます。


沖新の家

2020-04-13 11:46:46 | 日記

4月のはじめに引き渡した住宅です。

一年前の4月頃に相談に見えられて、設計に取り掛かったノリ養殖をされている方の住まいです。

敷地は熊本新港に近く、海岸から500m程の所で見に行った時「空が広いなあ」と感じました。風も強いですが爽快感があり気持ちの良い処でした。北東の方に金峰山の山並みが見え「この眺めを見て暮らしたい」と思ったのが設計のポイントになりました。

金峰山が見える写真には手前の道と一段上がった道が並行しており、一段上がった石垣部分は昔の堤防跡です。ここは以前海だった所を干拓した所でした。設計のもう一つのポイントは干拓の軟弱地盤に対する地震対策と海から吹き寄せる台風の強風対策です。

昔の海岸線であったことから、幸いに6.0M程の所に堆積した礫層がありその層まで地盤改良を行いました。建て主が打ち放しコンクリートと木が好きなことから、木造に一部分にコンクリート壁を挿入し地震対策と強風対策にも役立つように工夫しました。基本構造は木造で成り立つようにし、コンクリート壁はあくまで木造にプラスαの構造体ですが、建物強度は基準の2倍近く強くしました。コンクリートを垂直壁だけにしたのは建物重量を少なくする為です。

建物形状はシンプルにし、2階部分は大屋根の一部とし、西側は寄棟にして強い西風を受け流すようにしました。北東の金峰山を眺める場所は半屋内デッキを設け、テラスサッシを斜めに設けてこちらも風を受け流しています。東側コーナーにはコの字型にコンクリート壁を配置、構造補強と薪ストーブの防火対策に役立てました。

太陽熱空気集熱システム「そよ風」も採用しています。普段も海風が強く外は寒いのですが、家の中は温かくとても喜ばれました。施工者が「そよ風」施工が初めてだったこともあり、私も屋根に登り職人さんと一緒に設置を指導、手伝うことが多かったので、性能には自信がありました。集熱温度は天気が良いと60度を超え、室温も20度以上に保っています。

ノリ養殖は10月頃から4月初めまでが繁期で、朝早くから夜遅くまで続くキツイ作業で、海から戻ってしばらく仮眠する時にこの家の温もりはとても嬉しいと喜ばれまています。

ノリ養殖も高齢化が進み、年々担い手が減っているとのことですが、新しい家が暮らしの楽しさと体を休めてくれ、永く美味しい海苔を作ってほしい願いながら設計しました。


障がい者福祉サービス きおう

2020-04-12 15:15:57 | 日記

障がい者福祉サービスきおうが3月完成しました。

依頼主は風設計室の作品第一号となった喫茶店DECOYのオーナーです。

  

1985年(昭和60年)完成、鉄骨造ですが外装、内装杉板張りで妻型のフレームが南北に貫通し、天井の高い吹き抜け空間になっていました。両サイドの妻型フレームからの光に包まれた洞窟的な雰囲気がお客さんに愛されていたようですが、残念なことに2011年に焼失してしまいました。

一年後の2012年(平成24年)同じ場所にDECOY2の設計依頼を受けて、新しい喫茶店を完成させました、V型の屋根を持つ建物は最初のDECOYの自然光コンセプトを受け継ぎ、外壁は杉板の黒塗壁、内部は杉張りとして、なるべく以前の雰囲気を継承しました。

そして新しく3月完成したのが、障がい者福祉サービス きおうです。

初代障がい者福祉サービス きおうはDECOYの東側に鉄骨造店舗を改装し運営されていましたが、手狭であったこともあり、DECOY西側に新たに障がい者デイサービス施設を建てることになりました。

約50坪の木造平屋建て、食堂・談話室と機能回復訓練室は杉の梁現した吹き抜けとし、利用者に伸びやかな木の空間の中で過ごすことで、此処に来る楽しみが少しでも増えてほしいと願い設計しました。

大きな空間にするとその室内温熱環境を快適にする工夫が必要です。ここでも太陽熱空気集熱システム「そよ風」を採用しました。玄関に入ると建物全体がほっこり温かく、新鮮空気がどんどん入って換気しますので、感染予防や臭気除去にも役立ちます。

障がい者福祉サービス きおうでも初代DECOYの空間に親しみ育たれた子供さん達が看護師や理学療法士になり運営されます。御領の家と同様世代を超えて使っていただく建物の設計をする喜びを力に替えて取り組みました。

 


御領の家

2020-04-11 16:04:47 | 日記

4月になり、工事監理中だった建物が完成してきましたのでご紹介したいと思います。

熊本地震が発生してから、しばらく住宅の依頼はありませんでしたが、3年経ったころから増えてきました。やはり何らかの思いがあって風設計室に設計依頼される方ばかりなので、緊急に必要な住まいづくりに向いていない事務所であることを分かっておられるのでしょう。

1994年(平成6年)に完成した家です。当時周辺は田んぼと畑に囲まれた中、ポツンと別荘の様な雰囲気でご夫婦と子供2人の住まいでした。屋根は四角方形ですが中心を少しずらし変形させ、リビングはそのままの伸び伸びした空間になっています。2人の子供さんたちは小さい頃は友達を呼び走り回って遊んでいたと聞きました。

 

それから25年が経ち、周辺は住宅が建ち込み昔の面影はなくなってしまいました。家の西側の樹木は大きく茂り、周辺住宅街に場違いの様な雰囲気で雑木林の中に佇んでいます。

当時の子供さんが結婚され、子供さんが生まれ、2世帯同居の増改築の相談があり伺ったのですが、周辺のあまりの変わりように道に迷ってしまいました。

最初の住まいは床面積が50坪ほどあり、広いのですが少し個性的屋根デザインのため、2世帯同居として増改築は難しく、暮らしの楽しさにつながり難いと判断しました。

そこで、25年前の敷地計画で南西部分は分筆して、家をもう一軒建てられるように考えて配置していましたので、子供さん家族の家を新築、緩やかに親夫婦の家とつながるようにし、将来はどちらかの家を貸すことも出来るようにすることを提案しました。建築費用は増えますが2世帯隣居の方が暮らしの気遣いもお互い少ないかと思いました。

新築の家は南側に隣接住宅が近いので、太陽熱空気集熱システムの「そよ風」を取り入れました。そのことで南側の日差しが家の中に届かなくても集熱空気が家全体を温めると共に換気してくれます。冬は乾燥もし易いので洗濯物は室内干しで良く乾き、床はほんのり暖かく小さい子供さんには快適だと思います。

工事中に赤ちゃんが誕生し、新しい家は家族4人の暮らしのスタートとなりました。玄関ポーチの塗り壁にはご家族4人の手形が記念に残されました。

以前設計した住まいで育たれた家族の住宅設計依頼は設計者冥利でとても嬉しいことです。新たな未来へと願いを込めた住まいがまた一つ完成しました。