折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

「白川ワールド」を堪能~小説「最も遠い銀河」(上)(下)

2009-10-22 | 読書
読書と言えば、この頃はもっぱら「時代小説」なのだが、久しぶりに「サスペンス」物を読んだ。

白川 道(とおる)の「最も遠い銀河」(上)(下)である。

白川 道、北方謙三は、小生にとってハードボイルド作家の双壁である。

その白川 道が8年ぶりに書き下ろした長編である。



             
             白川 道著「最も遠い銀河」(幻冬舎)
             

上下巻合わせて原稿用紙約2500枚の大作で、上巻は少々ストーリーの流れが滞りがちだが、下巻は一気に読ませるサスペンスだ。             


日陰に生まれ落ちた男と女。(作者は、この不平等を本文中で「日の当たる場所に落ちた種子」と「日の当たらない場所に落ちた種子」と言う言葉で表現している。)

幼くして両親を亡くし、ともに身を寄せ合い、貧しさをともに耐え抜いた二人は、夢を抱いて小樽から東京へ出る。

つかの間の幸せ。
しかし、男のために全身全霊を捧げた女は、非業の死を遂げる。
そして、女は今わの際に、故郷・小樽の海に眠ることを望み、男はそれを叶える。

月日が流れ、晩秋の小樽の海で、一隻の漁船の網が女性の変死体を引き揚げる。
遺体の身元も分からないままま事件は迷宮入りするが、同じ場所で娘を失った元刑事は、わずかな手がかりをたどって、やがて東京で活躍する新進気鋭の建築家にたどり着く。

建築家となった男は、非業の死を遂げた女との約束を果たすために非情なまでの苛烈な意志で成功を目指す。

恵まれない環境からはい上がろうとする男の野望や哀歓、憎しみ…。
次第に明らかにされていく彼の秘められた過去の闇。

運命のいたずらと言うべきか、当初は、最愛の女の「故郷・小樽の海に眠りたい」という遺言を叶えてやった男の、言わば二人の「純愛の行為」としての単なる「死体遺棄」が、この元刑事の追及で、全く予期せぬ方向に展開していくことに・・・・・・・。

純愛、哀しみ、友情、憎しみ、そして野望──。

物語は、それぞれの要素を随所に絡ませて、過去、現在とめまぐるしく展開する。

そして、社会的成功を目前にした主人公。

しかし、運命の糸に導かれるように、一度、狂い出した歯車は、ひたすら悲劇の結末に向かって回り続ける。

後半の山場、末期ガンで延命治療を受けている元刑事と主人公との会話の場面。
元刑事の温かい思いやりにあふれた言葉に男は頑なな心を開く、この場面は哀切きわまりなく、読んでいて涙がにじむ。

映画『砂の器』を思い浮かべた。

       光、生まれる朝、

       光、支配する午後、

       光、眠る夜、

       生まれ出でたる光輝かざれば、夜の闇に朽ちるのみ、
      
      一瞬の光は永遠の輝きをもって遠い銀河に眠る・・・。



朝は平等にみなにやって来る。でも日が昇ってから不平等が、不公平がみなを襲う。でもまた明日の朝はみなに平等にやって来る。

作品の中の重要な登場人物の一人である、美貌のジュエリーデザイナーが作った詩の一節で、主人公の人生の転機となった言葉である。

この詩といい、前述の「日の当たる場所に落ちた種」「日の当たらない場所に落ちた種」と言う言葉といい、あらゆる職業を転々とした作者ならではの人生観が投影されているように感じられて、当初、タイトルの意味が良く分からなかったが、読み終って少し理解できたように思った次第である。

先週は、指揮者フェレンツ・フリッチャイの音楽、今週は白川ワールドと「音楽の秋」、「読書の秋」を堪能しているこの頃である。



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