ことばを鍛え、思考を磨く 

長野市の小さな「私塾」発信。要約力、思考力、説明力など「学ぶ力」を伸ばすことを目指しています。

道案内の力

2006年02月16日 | 学習一般
以前の記事で、地図を見て特定の場所までの道順を説明するオリジナル教材について触れたことがある。
駅を中心に南北に広がる町の地図があり、その角の方に「ココ」がある。
初めて来る地図を持たない人に、駅を降りてから「ココ」までの道を教える
という想定である。
もちろんそんなに複雑な道ではなく、主要箇所には目印も描いてある。

ところが、この教材を一発で合格する生徒(主に中学生が対象)は少ない。
そして、普段の教科学習の様子を見ていると、ほぼこのプリントの出来が予測できてしまうのだ。

論理的思考力や説明力を養成することの重要性を著書で訴え続けている芳沢光雄氏(東京理科大教授)が、こんなことを書いている。

「2004年2月に行われた千葉県立高校入試の国語で、地図を見ながらおじいさんに道案内するという記述問題が出題された。200字以内で作文する問題であったが、なんと受験生の半数が0点だったという。」(from「数学的思考法」)

塾での現状を見ている身には、さもありなんと思われた。

千葉県の問題は「おじいさんに配慮して」という条件が付くものの、私の作った教材とほぼ同じ内容である。
道筋が示されている点では、むしろ易しいとも言える。
私の教材では、どの道をどう教えるかも採点ポイントの一つなのだ。

それにしても「半数が0点」は驚きであり、ショックでもあった。
いくら記述式が苦手と言っても、この問題は専門的な知識や技量はほとんど必要とされていないのではなかろうか。
いったいどんな力の不足が、この悲惨な結果を招いたのだろうか。

実は芳沢氏も指摘している通り、地図を説明するのは数学の証明問題に似ている
ここには単に道案内が上手、下手というレベルを超えた、大きな課題が隠れているのではないか。
以下、私の塾での例を元に少し考えてみたい。

先日もこのプリントに苦闘する中3生の姿があった。
書き出しでまず大切なのは、駅をどちら側に降りるかということである。
北側に出ないといけないのに、それに触れずいきなり道案内を始めては、へたをすると全く違う場所に導いてしまう。

地図には「北口」などの表示はないので、模範解答は「電車の進行方向右側に降りて」であるが、都会と違って普段電車に乗る機会が少ない当地の子どもたちには、
この表現は難しいようだ。
従って「北側に降りて」でも良しとする。

多いのは「交番がある側に降りて」という記述。
地図では交番は次の道の角にある。
駅から見えるかどうかはわからない。
しばらく歩いてみないと、正しいかどうか判断できない(かも知れない)のだ。

仮に駅から交番が見えたとしても、もし初めに出た側になければ、また反対側の出口まで戻らなければならない。
大きな駅では何分も歩かされる。
親切な道案内とは言い難い。

駅を出ても、とりあえずそこからどちらに進めばいいかの指示がない。
曲がる箇所の目印がない。
そして目的地近くまで行っても、道のどちら側(右?左?)を探せばいいのが書いていないのでわかりにくい...。

すべてがこんな調子の解答が少なくないのだ。
一言で言えば、相手の立場に立っていないということになろう。
自分は地図を見ながら説明しているのだからいいが、それを持たない人への配慮が感じられないのだ。

道案内に必要なのは、第一に、この相手の立場に立ってみる想像力であろう。
次に多くの情報から大切なものだけを選び出す力(要約力)
そしてそれらを元に、筋道立ててわかりやすく説明する言語表現力ということになるだろう。
教えるのがすぐ近くのわかりやすい場所であれば、身振り手振りで「あそこをこっちに曲がって...」式で十分だが、目的地が遠かったり込み入った所なら、これらの力が不可欠になる。

言葉だけでなく、相手に地図を描いて教える場合ももちろん同様である。
上記の中3生は昨日、逆バージョンの「道案内の文を元に地図を描く」プリントでさらなる苦戦を強いられていた。
ランドマークとなる大切なポイントが、あるべき場所に描かれていないのだ。

そう言えば、彼は国語の要約問題でも苦労していた。
数学の証明、社会や理科の記述問題でも然り...。
本人が避けたがるので強制はしてこなかったが、やはりもっと文章を読み、書く作業を多くさせるべきだったと反省している。
次回は塾から自宅までの地図を描き、さらに文章で説明させるプリントである...。


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (桐)
2006-02-20 16:44:49
yuminさん、ありがとうございます。



道案内、苦手ですか?でも、それを自覚して道案内マニュアルまで作るなんてさすが!



そうそう、電話だとさらに大変なんです。だから地図のプリントの続きには、電話の向こうの相手に漢字や図形を説明するというプリントも作ってありますよ。一度やってみます?
おはようございます (yumin)
2006-02-20 09:21:21
こういう教材があるのですね。

恥ずかしながら、私は、道案内が、大の苦手です以前の職場で、電話で場所を説明するのに四苦八苦した経験があります。

それ以来、冷や汗をかきたくなかったので、自分で道案内マニュアルを作りました!先方がどの方向から来るかわからないので、何パターンか作り、とても苦労した記憶が!

自分に何が足りないのだろうと考えた時、まず「要約力」次に「表現力」でした。一応、相手の立場に立ってはいるつもりでした。また、電話だと余計、思考能力が低下してしまう気がします~。

Unknown (桐)
2006-02-18 11:36:49
テツさん、毎度です。



前にも書きましたが、イメージ力を鍛えるにはやはりラジオですね。少し春の気配が漂い、野球中継が待ち遠しくなりました...。
これは知らなかった (テツ)
2006-02-17 13:54:31
こんにちは。



そういうのがあるのですか!

非常にリアルに実技みたいなやつを頭の中でイメージすることが大切ってことですね。



やはりイメージかあ。

政治家みたい(笑)
Unknown (桐)
2006-02-17 12:50:51
御法哀歌くん、いつもありがとう。



確かに小さい駅ではそんなに問題は起こらないかも知れませんが、プリントに書かれているのはデパートもある大きな町の地図なんです。そうなると、そこそこ大きい駅を想定してもいいと思うんですが...。



やはり文章や図からイメージする力は大切ですね。これがないことには何も始まらないようです。
Unknown (桐)
2006-02-17 12:46:53
そらさん、ありがとうございます。



確かにいろいろな要因があるとは思いますが、私は特に「文字から図(その逆)を読み取る訓練」に注目しています。



証明問題を穴埋めで済ませる指導だけは絶対してほしくないですね。
地味にお久しぶりです。 (御法 哀歌)
2006-02-16 21:56:13
こんにちわです、桐さん。



地図の問題ですか。僕の立場から考えてみると……やっぱり難しいかもしれません。

その表面に、平面としてかかれている地図。頭の中でそうは思っていても……やはり、机上の空論と言うのでしょうか。交番のお話でも思いましたが、僕のような田舎人の頭では駅はそんなに大きくありません。特に、(それこそ)普段電車を使わない中学、小学生にとっては。

想像力。桐さんの言う通り、相手の立場に立ってみる想像力と言うものが今の子供にはかけているかもしれませんね。ですが僕は、その地図を実際に想像する力が足りないような気もします。それはある意味、そのような情景が頭に浮かんでこない……情報量の不足。そのようなことも関っている気がしてなりません。



では失礼いたします。
訂正(お恥ずかしい) (そら)
2006-02-16 18:16:57
タイトル

『練習してないこと「は」できない』

とするべきでした。すいません
練習してないことができない (そら)
2006-02-16 18:15:21
>いったいどんな力の不足が、この悲惨な結果を招いたのだろうか。



要因は1つではない気がします。

コミュニケーションの訓練、メディア発達による、文字から図(その逆)を読み取る訓練など、日常生活で何気なく行われてきたことが、この数十年で大きく減ったような気がします。

追い討ちをかけて、学校での訓練も減っているようです。うちの中2生、学校では穴埋め式の証明問題しかやったことがありません。