花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

初めての感触

2009-06-27 08:51:43 | 告白手記
 愛の初体験に対する、欲望はなくても、欲求はあったのですから、私の本能的なかすかな拒絶反応を察した彼から、
「いや? やめようか?」
 なんて、やさしく言われたって、やめて欲しくないのは正直な気持ちであり、自然なことでしょう。
 彼のその言葉に、私は夢中で首を横に振ったんです。そんな私に欲望より情愛が湧いたのか、好きだとか可愛いとか彼は言いながら唇を、私の顔のあちこちに押しあてて……。
 ふたたび、行為が始まって、というより、行為を始めようとする行為が始まって……。
 この時のことを、具体的に描写したい衝動に駆られますけど、それはやめておきます。
 これは読み物でも小説でもなく、告白手記なんです。つい、もの書きの習性で、具体的に描写したくなってしまうんですね、きっと。
 それで……。
 愛の初体験行為を、彼が始めようとした時──。
 目を閉じていた私は、下腹部のそこに、生まれて初めての物体の感触を覚えたんです。
 それは、初体験行為のための、異性の身体の一部、であって、そうではない感触です。
 ちょっと、ややこしいのですけど、避妊具を装着した、異性の肉体の一部、ということです。
 ですから、私の下腹部のそこに押しつけられ、触れられたそれは、正確には避妊具の感触なんです。
 それは、本当に妙な感覚でした。生まれて初めての感触。男性の肉体そのものではなく、避妊具の感触です。それを押しつけられた瞬間、
「ん……」
 と、小さな声を洩らしてしまったのは無理もないこと。その部分に、初めて触れられた彼の指より、もっと妙な感覚、衝撃的な感触に、またしても私は本能的に拒絶しそうになってしまい──。
 それもまた、無理もないことでしょう。
 けれど、今度は彼は、やめようかと、やさしく言ってくれませんでした。

抱かれたい欲求

2009-06-18 10:21:40 | 告白手記
 初体験の行為に苦痛が伴うとわかっているから、かすかな恐怖感に襲われ、一瞬、拒絶しそうになってしまった私。
「いや? やめようか」
 と半ば、うわずったような声で、やさしく彼は言ったんです。
 私がうなずけば、間違いなく、彼は行為を中断したでしょう。
 そのことに、やや、もの足りなさを感じ、反面、安心感もあったと思うんです。
 そして、それは、彼に、100%異性を感じていなかったからではないかと思うんです。
 いつものデートは、映画や観劇やピクニックや、友人の家へ遊びに行ったり、日帰りドライブです。
 そんなデートの時は、12歳年上の彼に、100%異性を感じていたはずなのに……。
 何故か、愛の初体験の時に、ほんのかすかではあるけれど、異性というより肉親みたいな感情、安心感のような感情に包まれたんです。
 それは、今、思うと、処女に欲望というものがないからと、言えるような気がするんです。
 抱かれたい欲求はあるけれど、抱かれたい欲望はない、ということなんです。

欲望の下り坂と上り坂

2009-06-12 13:09:03 | 告白手記
 愛の初体験が、いよいよ始まろうとしたその瞬間、思いがけなく恐怖感に近い感覚に襲われ、ずり上がって逃げようとしてしまった私。まだ、お互いのその部分も触れていない時です。
 肉体の結合という愛の儀式を始めようとしていた彼は、そんな私に、
「いや? やめようか」
 なんて、やさしい声で言ったんです。もちろん、その行為を待ち望んでいた私は、首を激しく横に振ったけれど、もし、黙ってコクンとうなずいたら、どうだったでしょう。
 100%、いえ1000%と言っていいくらい、彼は中断してしまったでしょう。そうして、結婚初夜までとっておこうね、なんて言わないかもしれないけれど、それに近いことを言って、私の頬か唇に軽くキスして、おしまい、ということになったでしょう。
 何しろ、彼はその時、31歳です。私が嫌がっても、半ば無理矢理、
「欲しい、我慢できないんだ、ね、ね、いいだろ?」
 なんて声をうわずらせて、欲望を抑えきれないように慌ただしく挿入を果たし……ということには、絶対絶対、ならなかったに決まってるんです。31という年齢のせいであり、彼の性格、人間性、ということです。
 第一、私に対して、どの程度、欲望を感じていたのでしょうか? もちろん、感じていたでしょう。でも、私が嫌と言ったら、中断できる程度の理性も分別もあったし、中断できる程度の欲望と情熱……だったと言えるかもしれません。
 31歳という年齢は、若い日とは違います。以前、何かの本で読んだのですけど、 男性にとって、性の欲望が最も旺盛なのは19歳、らしいんです。その、ピークの19歳を過ぎたら、下り坂。もちろん、緩やかな曲線を描く下り坂です。 すると、彼は男性として最も性の欲望が旺盛だった19歳の時から、すでに12年も経っているわけです。私が嫌と言ったら、大人の理性と分別で、欲情的で衝動的で動物的なその行為を、ちゃんと中断できる年齢なんです。もう、男性としての欲望は、下り坂なのですから……。
 それに対して女性は──。個人差があるので、一概には言えないと思うんですけど、男性のピークからの曲線と、反比例するらしいんです。
 男性の欲望は下り坂、女性の欲望は上り坂──。
 その男と女の違いが、面白いとも言えるし、大変、問題だとも言えるような気がするんです。

愛の行為の始まり

2009-06-05 14:00:17 | 告白手記
 私の身体には、愛の行為の準備がちゃんとあって……。
 男性の彼は、30分……とまではいかないけれど、そのくらい長く感じられるほどの時間をかけて、避妊具の装着をして準備を終えたんです。その長い時間に、彼の性格と人間性が現れていたのだと思います。結婚してないのに、私を妊娠させたら大変なことになる、という理性と分別と戒めと自覚です。
 何しろ教師という職業について8年余り、トラブルも何もなく、順調に過ごして来た人です。ここで男女関係のつまずきというか、人生のつまずきがあったら大変です。常に冷静で客観的で、自己保身が強く、保守的な人だったのだと思います。だからこそ、肉体関係を持つのは結婚式を挙げてから、という考え方だったのでしょう。
 それでも、何となく、男女の交わりをする、というより、してもいいという考えに至ったということなのだと思います。それは、お互いの両親に結婚を認めて貰ったという安全な約束事があったからだと、今になって思います。
 それで……。
 いよいよ肉体の準備もできて……。
 愛の交わりを、愛の証明を、あれほど待ち望んだ私だったのに、いざ、その行為が始まろうとした時──。思わず、小さな恐怖感みたいな感覚に襲われ、身体を硬くして彼を押しのけようとしてしまったんです。
 自分でもよくわからない、不思議な心理です。
 すると、彼はそれを敏感に察して、挿入の行為を始めようとするのを中断し、
「いや? やめようか」
 なんて訊いたんです。
 私は首を激しく横に振って、離れかけようとする彼にしがみついていったんです。

愛のドッキング

2009-06-03 11:31:25 | 告白手記
 愛の行為の準備が、私の身体に現れたのを知って、彼はいよいよ……。
 本格的な行為の前に、男性の彼も、準備が必要だったんです。避妊具を装着するという準備です。
 生まれて初めて見た避妊具ですけど、それを装着するところは、全く見ていません。恥ずかしかったからです。
 チラッと、一瞬ぐらいは、目を開けてみたかもしれません。
 でも、ずっと、その気配を感じているだけで、目を閉じたままだったんです。
 それで、予想以上に、時間がかかるんです。30分ぐらい、と感じられるくらい。
 その時は、男性のその準備って、時間がかかるんだわ、って思ったんです。
 何故、そんなに時間がかかるものなのか、彼は説明してくれないので、全然、わからなかったんですけど。
 彼はその時、31歳でしたけど、性体験は豊富ではなかったのかもしれません。だから、スムーズに準備ができなかったのではないかと、後になって、わかったんです。
 それで、30分ぐらいかかって、ようやく男性としての準備ができた彼は、女性としての準備のできた私の身体に、初めての愛のドッキングを……。
 ドッキングなんてあまりロマンティックな言葉ではないけれど、彼はいつも、その言葉を使ったんです。ドッキングとは結合の意味ですけど、何だかユーモラスな感じの言葉で、当時の私は少しもの足りなかったんですけれど……。