花森えりか My Room

─愛と官能について語る部屋─

男性の赤い玉

2012-12-17 15:00:10 | P子の不倫
 友達のP子と2人で、宅配ピザのLサイズを食べながら、2本目の赤ワインを開けたんです。
 フランス・ワインでボルドーの『2005年マルジョス ルージュ』。これが、とっても美味しいんです。
 2人ともアルコールに強いほうではないけれど、美味しいワインだと、ついついグラスを重ねてしまいます。
 酔いが回って延々とおしゃべりするのは、エッチ話ばかり──。
「エッチな話なら一晩中でもできるわね。もう、きりがないくらい、いくらでも話せちゃう。うふ」と、P子。
「それはそうよ、女は政治や経済の話は苦手。美容、ファッション、料理なんて、すぐ話が尽きるし、何と言っても男の話、エッチな話こそ盛り上がるのが女なのよね」と、私。
「そう言えば、男性のアソコから出る赤い玉、って知ってる?」と、P子。
「通説というかジョークというか、男性のアソコから赤い玉が出たら、それ以上出ないっていう最終通告ってことでしょ。男性が一生で射精する精液の量は決まってて、これが最後の一滴、っていう時に赤い玉が出る」
 ふふふと私は笑い、P子は真顔。
「よく知ってるわね」
「ジョークに決まってるでしょう、出るわけないでしょう」
「案外、出るかもよ。もし出たら、それを見て女は諦めがつく」
「P子の旦那様、赤い玉が出そうなの?」
「ま、失礼ねッ」
 キッと私をにらんでP子が怒ります。旦那様というのはP子の不倫関係の愛人の熟年男性です。
「あら、違うの、ごめんなさい」
「まだまだ先に決まってるでしょ。だけど時々、旦那様が真面目な口調で言うのよ。『男は一生分の精液を使い果たすと最後に赤い玉が出る。赤い玉が出たか、よく見といてね』って」
「ティッシュで後始末してる時に言うのね。やっぱり熟年ね」
「あなたには熟年男性の魅力がわからないのよ。っていうより、旦那様の魅力がね。それにセックス終了後のティッシュで後始末の時じゃないわよ」
「じゃ、いつなの」
「後始末の時は、そのセックスの感想みたいな愛の会話があるの、それが愛の習慣なの。うふ」
「はいはい、それで」
「あとになって、また半分ぐらい秘部から愛のザーメン滴(したた)るじゃないの。最初に全部滴(したた)っちゃうわけじゃないでしょう」
「それはそうね。残りの滴(しずく)ってことね」
「残りっていうより、あと半分よ。1時間後か2時間後ぐらいに。何かしてる時、たとえば飲んだり食べたりして、おしゃべりしてる時に、秘部からツーッて滴(したた)る感覚、あの感覚って何とも言えないわよね。愛する人の生命の血が、あたしの体内に吸収されて、吸収されずに余ったぶんがセックス終了して1、2時間も経ってから滴(したた)り落ちるなんて」
「ずいぶん、なまなましいお話、いえ、貴重なお話」
「自覚した時、あ、滴(したた)った、って言って、樹液の匂いに包まれながら、またティッシュ使って始末するでしょ。その時、旦那様が言うの。『男は一生分の精液を使い果たすと赤い玉が出る。よく見といてね。まだ出てないか』なんて。クククククッ、可愛いでしょう!」
「どこが可愛いの。それで?」
「赤い玉出てないわよ、って笑いながら答えた後、2人の胸に同じような思いが浮かぶわけ。それで、異口同音みたいなことを言うわけ」
「どんなこと?」
「何だか、あたしたちって、死ぬまでセックスしてるんじゃないかって気がするわ、って言うと、旦那様が、『そうかもしれないな』って。だって赤い玉なんて、この先何年経っても出そうにないし。そこで後始末終えたあたしが抱きついて、深く抱き締め合ってクスクスクスクス笑うわけ」
「ハイハイ、想像できるわ」
「人間、何歳までセックスするかなんて、よく聞くけど、そんな年齢なんて全然浮かばないの。本能的に求め合っちゃうの。たとえばキッチンで洗い物終えて、ソファに横になってる旦那様の傍へ行くと、もう互いの四肢が自然にからみついたり股間を押しつけ合ったりキスしたりね。中年以上の夫婦だったら、きっと、うっとうしいでしょうね、お互いに。でも、あたしと旦那様って、本物の恋と愛で結ばれてるから、何十年経っても同じ、変わらないのよ」
「毎日互いの顔を見飽きてる夫婦と違うからでしょう」
「あら、毎日じゃなくても何十年経ったら見飽きたっていいはずでしょ。でも、本物の愛と恋とセックスがあると、ほんとに死ぬまでセックスしてるみたいな気持ちになるの。2人とも」
「P子の旦那様の赤い玉は、生きてる限りは出なくて、天国へ行った時、ようやく出るってことね」
「そうなの。いつも抱き合って『死ぬ時は一緒よ』って口癖みたいに言ってるから、天国へ行って旦那様のあそこから赤い玉が出るのを見て確認しようと思うの」
「天国へ行っても赤い玉が出なかったら?」
「そうかもしれないの。あたしたちって、永遠に心と肉体で愛し合う運命なのね。そのためには、腹上死と腹下死が同時におとずれるのが理想、夢、目標なのよ。あたしたち、いつもそう言い合ってるの、同時の腹上死と腹下死が最高って!」
「同時に腹上死と腹下死? それは後に残された人間に迷惑じゃない?」
「きっと許してくれると思うの。あたしたちの熱烈な純愛に免じて」
 うっとりした顔つきで呟くP子に、もう私は、言葉を失ってしまいました。