今回は、最近読み終わった平安末期を扱った歴史小説を紹介します。
☆待賢門院璋子 保元の乱前夜
著者=安永明子 発行=日本図書刊行会 価格=1575円
内容(「BOOK」データベースより)
雅な宮廷生活の蔭の歴史の真実とは…。血脈の相剋、女人たちの闘い、皇位をめぐる権謀術数…。待賢門院璋子の生涯をとおし、戦乱へと流されてゆく時代を描く。
タイトル通り、鳥羽天皇の中宮で、崇徳・後白河両天皇の母、待賢門院璋子の生涯を中心に、院政期という激動の時代を描いた歴史小説です。
読み始めて間もなく、藤原忠実と、その妻の源師子が出てきたのでわくわくしました。忠実さんや師子さんが出てきて、しかもせりふまである歴史小説なんて初めてです。(^^)
それで、2人の間の娘、泰子を白河上皇の許に入内させる話が持ち上がるのですが、まず師子さんが反対する場面が出てきたとき、「そうだよね、当たり前だよね」と思いました。すると次のページで、師子は元々白河上皇の寵愛を受けていたが、忠実が美しい師子を見そめて、上皇から譲り受けた事情が説明されていて、「そうそう、そうなんだよね」とうなずきながら読みました。親子二代で白河上皇の寵愛を受けるなんて、師子さんは絶対に許せなかったはずですものね。
こんな風に、小説なので、登場人物の会話の部分が多く、心の動きや行動がすーっと頭に入ってきて、わかりやすく感じました。
白河上皇を時には親のように、時には恋人のように頼りにする璋子や、2人の関係に気づいていながら、璋子の美しさや可憐さに心引かれていく鳥羽天皇の微妙な心情もしっかり描かれていました。璋子は少しわがままですが、物怖じしない、自分の気持ちに素直で正直な女性に描かれていて、「璋子って本当にこんな性格の女性だったのでは」と思ったりもしました。
しかし、物語は次第に不吉な蔭を帯びていきます。
璋子にとっての不幸は、頼りにしていた白河上皇が崩御したことでした。それに続くわが子の死、鳥羽上皇に泰子が入内、璋子の立場は微妙なものとなります。
更に追い打ちをかけるように、藤原得子が鳥羽上皇の寵愛を独占するようになり、次第に発言力を増していきます。得子は藤原忠通と結び、璋子に呪詛の罪を着せ、側近を流罪にしてしまいます。そのことが、崇徳天皇の力を弱める一因にもなります。
そんなこともあり、璋子は法金剛院にこもることが多くなり、坂を転げ落ちるように、朝廷内での力を失っていきます。
そうです、この小説の中での得子のキャラクターはかなり強烈です。璋子は得子の勢力に押されるような形で出家、やがて世を去ります。
小説なので作者の誇張もあるかもしれませんが、私は、璋子の後半生がこれほど悲惨で寂しいものであったことを初めて知りました。彼女は、激動のこの時代を生き抜くにはあまりにも正直で、世間知らずだったかもしれません。白河上皇に守られ、栄華の極みを尽くした前半生とは天と地との差です。
読みながら私はふと、フランス革命で断頭台に消えたマリー・アントアネットを思い出しました。もちろん、宮廷から孤立し、最後には出家した璋子と、死刑になってしまったマリー・アントアネットでは次元が違うかもしれませんが、心情は似たようなものだったかもしれません。
この小説は、璋子が亡くなったあとも話が続き、鳥羽上皇の崩御、つまり保元の乱の直前で終わります。ラストの、鳥羽上皇の夢の中で交わされる、璋子との会話が印象的でした。
ネタばれになってしまうのですが2人の会話がどのようなものだったかを紹介しますと、保元の乱は、鳥羽上皇の得子への偏愛が原因で起こったと璋子が言ったのに対し、鳥羽上皇は、そなたにも原因がある、それに、白河上皇の璋子への盲目的な愛が原因だったのではと返答します。2人の立場の違いがこの会話から感じられて、何か切なかったです。もちろん、鳥羽上皇が得子を寵愛するあまり、得子が生んだ近衛天皇を位につけて、その結果、崇徳を無視するような形を作ってしまったことも原因ですが、やはり元をただせば白河上皇が原因なのでは…。白河上皇はやっぱり罪な御方…、というのが、読後の第一の感想でした。
つまり、白河上皇にしてみれば、璋子への愛情から鳥羽天皇に入内させ、后の位を与えてあげたのかもしれませんが、そのあとも璋子と関係を持って崇徳天皇をもうけ(この小説では、崇徳の父は白河ということになっていましたので)、皇室内での対立の原因を作ってしまったのだと思いました。崇徳の父が白河だったか、鳥羽だったかは私には判断できませんが、白河上皇は璋子を入内させたあとも、彼女を寵愛していた形跡がありますから…。
それからもう一つ…、この小説でも触れられていますが、実は白河上皇は最初、璋子を藤原忠通に嫁がせようとしたのです。
しかし、忠通の父、忠実に断られます。忠実は、白河上皇を初め、色々な男との関係が噂される璋子を忌み嫌い、この話を断ったのですが…。
もし、璋子が忠通に嫁いでいれば、あれほど惨めな後半生を送ることもなく、摂関家の妻として、それなりの生涯を全うしていたかもしれません。もちろん、忠通・頼長兄弟の対立はあったでしょうけれど、崇徳は産まれていないので、少なくても皇室内での対立はなかったはずです。
そうなると、保元の乱のような大乱も起こらなかったかも…。となると、保元の乱へと続く歴史の流れの一つを作ったのは、璋子と忠通との結婚を阻止した忠実ということにもなります。そうでした、忠通と頼長の対立の原因を作ったのも忠実でしたね。忠実さん、責任重大ですね。
そして、歴史の流れは皇室内での対立を生み、同時に摂関家内の対立を生み、保元の乱へと突き進んでいきました。保元の乱は起こるべくして起こったと言えそうです。そんな歴史の動乱の中で波瀾の生涯を送った璋子、何か運命に押し流されてしまったような印象を受け、小説の読後はしんみりした気持ちになってしまいました。
同時に、璋子に強く興味を引かれました。角田文衞先生に、「待賢門院璋子の生涯」という著書がありますが、そちらもぜひ読んでみたいと思いました。璋子が後半生を過ごした法金剛院にも、いつかぜひ訪れてみたいです。
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☆待賢門院璋子 保元の乱前夜
著者=安永明子 発行=日本図書刊行会 価格=1575円
内容(「BOOK」データベースより)
雅な宮廷生活の蔭の歴史の真実とは…。血脈の相剋、女人たちの闘い、皇位をめぐる権謀術数…。待賢門院璋子の生涯をとおし、戦乱へと流されてゆく時代を描く。
タイトル通り、鳥羽天皇の中宮で、崇徳・後白河両天皇の母、待賢門院璋子の生涯を中心に、院政期という激動の時代を描いた歴史小説です。
読み始めて間もなく、藤原忠実と、その妻の源師子が出てきたのでわくわくしました。忠実さんや師子さんが出てきて、しかもせりふまである歴史小説なんて初めてです。(^^)
それで、2人の間の娘、泰子を白河上皇の許に入内させる話が持ち上がるのですが、まず師子さんが反対する場面が出てきたとき、「そうだよね、当たり前だよね」と思いました。すると次のページで、師子は元々白河上皇の寵愛を受けていたが、忠実が美しい師子を見そめて、上皇から譲り受けた事情が説明されていて、「そうそう、そうなんだよね」とうなずきながら読みました。親子二代で白河上皇の寵愛を受けるなんて、師子さんは絶対に許せなかったはずですものね。
こんな風に、小説なので、登場人物の会話の部分が多く、心の動きや行動がすーっと頭に入ってきて、わかりやすく感じました。
白河上皇を時には親のように、時には恋人のように頼りにする璋子や、2人の関係に気づいていながら、璋子の美しさや可憐さに心引かれていく鳥羽天皇の微妙な心情もしっかり描かれていました。璋子は少しわがままですが、物怖じしない、自分の気持ちに素直で正直な女性に描かれていて、「璋子って本当にこんな性格の女性だったのでは」と思ったりもしました。
しかし、物語は次第に不吉な蔭を帯びていきます。
璋子にとっての不幸は、頼りにしていた白河上皇が崩御したことでした。それに続くわが子の死、鳥羽上皇に泰子が入内、璋子の立場は微妙なものとなります。
更に追い打ちをかけるように、藤原得子が鳥羽上皇の寵愛を独占するようになり、次第に発言力を増していきます。得子は藤原忠通と結び、璋子に呪詛の罪を着せ、側近を流罪にしてしまいます。そのことが、崇徳天皇の力を弱める一因にもなります。
そんなこともあり、璋子は法金剛院にこもることが多くなり、坂を転げ落ちるように、朝廷内での力を失っていきます。
そうです、この小説の中での得子のキャラクターはかなり強烈です。璋子は得子の勢力に押されるような形で出家、やがて世を去ります。
小説なので作者の誇張もあるかもしれませんが、私は、璋子の後半生がこれほど悲惨で寂しいものであったことを初めて知りました。彼女は、激動のこの時代を生き抜くにはあまりにも正直で、世間知らずだったかもしれません。白河上皇に守られ、栄華の極みを尽くした前半生とは天と地との差です。
読みながら私はふと、フランス革命で断頭台に消えたマリー・アントアネットを思い出しました。もちろん、宮廷から孤立し、最後には出家した璋子と、死刑になってしまったマリー・アントアネットでは次元が違うかもしれませんが、心情は似たようなものだったかもしれません。
この小説は、璋子が亡くなったあとも話が続き、鳥羽上皇の崩御、つまり保元の乱の直前で終わります。ラストの、鳥羽上皇の夢の中で交わされる、璋子との会話が印象的でした。
ネタばれになってしまうのですが2人の会話がどのようなものだったかを紹介しますと、保元の乱は、鳥羽上皇の得子への偏愛が原因で起こったと璋子が言ったのに対し、鳥羽上皇は、そなたにも原因がある、それに、白河上皇の璋子への盲目的な愛が原因だったのではと返答します。2人の立場の違いがこの会話から感じられて、何か切なかったです。もちろん、鳥羽上皇が得子を寵愛するあまり、得子が生んだ近衛天皇を位につけて、その結果、崇徳を無視するような形を作ってしまったことも原因ですが、やはり元をただせば白河上皇が原因なのでは…。白河上皇はやっぱり罪な御方…、というのが、読後の第一の感想でした。
つまり、白河上皇にしてみれば、璋子への愛情から鳥羽天皇に入内させ、后の位を与えてあげたのかもしれませんが、そのあとも璋子と関係を持って崇徳天皇をもうけ(この小説では、崇徳の父は白河ということになっていましたので)、皇室内での対立の原因を作ってしまったのだと思いました。崇徳の父が白河だったか、鳥羽だったかは私には判断できませんが、白河上皇は璋子を入内させたあとも、彼女を寵愛していた形跡がありますから…。
それからもう一つ…、この小説でも触れられていますが、実は白河上皇は最初、璋子を藤原忠通に嫁がせようとしたのです。
しかし、忠通の父、忠実に断られます。忠実は、白河上皇を初め、色々な男との関係が噂される璋子を忌み嫌い、この話を断ったのですが…。
もし、璋子が忠通に嫁いでいれば、あれほど惨めな後半生を送ることもなく、摂関家の妻として、それなりの生涯を全うしていたかもしれません。もちろん、忠通・頼長兄弟の対立はあったでしょうけれど、崇徳は産まれていないので、少なくても皇室内での対立はなかったはずです。
そうなると、保元の乱のような大乱も起こらなかったかも…。となると、保元の乱へと続く歴史の流れの一つを作ったのは、璋子と忠通との結婚を阻止した忠実ということにもなります。そうでした、忠通と頼長の対立の原因を作ったのも忠実でしたね。忠実さん、責任重大ですね。
そして、歴史の流れは皇室内での対立を生み、同時に摂関家内の対立を生み、保元の乱へと突き進んでいきました。保元の乱は起こるべくして起こったと言えそうです。そんな歴史の動乱の中で波瀾の生涯を送った璋子、何か運命に押し流されてしまったような印象を受け、小説の読後はしんみりした気持ちになってしまいました。
同時に、璋子に強く興味を引かれました。角田文衞先生に、「待賢門院璋子の生涯」という著書がありますが、そちらもぜひ読んでみたいと思いました。璋子が後半生を過ごした法金剛院にも、いつかぜひ訪れてみたいです。
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