ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

名もなき生涯

2020-02-19 01:28:34 | な行

カンヌで大絶賛された

テレンス・マリック監督の新作です。

 

「名もなき生涯」75点★★★★

 

********************************

 

1936年、オーストリアの山間の小さな村で

農業を営む、若き夫婦フランツ(アウグスト・ディール)と

ファニ(ヴァレリー・パフナー)。

 

出会った瞬間から惹かれ合った二人は

子にも恵まれ、

つつましいながらも、平和に暮らしていた。

 

だが、そんな村にも

ナチスドイツの影が少しずつ広がりはじめる。

 

「いったい、この国になにが起きているんだ?」

そしてフランツは、ある決意をするのだがーー?!

 

********************************

 

ナチスへの忠誠を拒否した実在の農夫を描いた

3時間のテレンス・マリック・マジック。

 

監督は46年のキャリアのなかで

初めて実在人物を描いたそうで

うーむ、まずはその意味を噛みしめずにいられない。

 

 

めくるめく時間の流れや、人と人の触れ合いなど

「感触」を大事にするマリック節は

 

「ツリー・オブ・ライフ」(11年)とかハマると、とてつもなく良いんだけど

はずれると「男女が延々とイチャイチャしてる」となってしまい

少々用心が必要なのですが

(「トゥ・ザ・ワンダー」(13年)とか「聖杯たちの騎士」(16年)とかね・・・。苦笑)

 

 

でも今回は、そこに大きな意味があったので

アタリでした。

 

1936年、オーストリアの山あいの村。

めまいがするほど美しい風景と光、

そのなかで仲睦まじく暮らす若い夫婦の触れ合いが

平和の尊さをモリモリと伝えてくる。

 

やがて不穏な雲がわき始め、

夫フランツが、ナチスに従わず、兵役を拒否する決断をする。

 

その高潔な姿に感銘もするんですが、

まず、彼の行いを果たして「善」と言い切れるのか。

 

ほかの村人たちだって、いやいやながら従ってるんだぞと、

家族を守るために妥協もしてるんだぞと

お前のせいで、もしも村や家族に害が及んだらどうするんだ?となり

 

フランツと彼の妻、その姉、幼い娘たちは、

小さい村で村八分にされてしまうんですね。

 

それでも彼は、意志を貫くことを選ぶ。

彼の抵抗、その鉄の意志は凄まじい。

 

でも、決してフランツをヒーロー、聖人としてるわけでもなく

「なんで、この人、こんなに意固地なんだろう」とすら思えてくる。

そこがまたミソで

 

多勢に屈しないこと、なびかないことが

いかに難しいことかを体感しながら

 

結果、彼のその姿がいまの世に、これだけ響くことの意味を

受け止めずにいられない。

 

「暗い時代に人々は、よりズルくなる」

「不正を働くより、不正を働かれるほうがいい」

と映画のなかの言葉を聞きながら

 

ケン・ローチが描いてもおかしくない題材を

みんなが描く。

それほどに、世界の現状は本気でひっ迫しているんだと

感じるのでした。

 

★2/21(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「名もなき生涯」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

聖杯たちの騎士

2016-12-24 17:17:06 | さ行

「トゥ・ザ・ワンダー」
(12年)系、
テレンス・マリック節、全開(笑)


「聖杯たちの騎士」50点★★☆


******************************


ハリウッドのハンサムな脚本家・リック(クリスチャン・ベイル)は
セレブな暮らしを送る成功者。

毎日華やかなパーティー三昧だが
しかし
「これでよかったのか?」と人生に迷っている。

そんな彼が
6人の美女たちと巡り会い――?


******************************


「人生に迷いちゅう」な美男クリスチャン・ベールが、
ケイト・ブランシェット、ナタリー・ポートマンら
美女たちとゆらゆらと絡まり

雲が過ぎゆき、水が流れ――という映画。


テレンス・マリック御大は
完全に話を作ることをやめた模様で(笑)

セレブな家にウカれた豪華なパーティ、
そして美女(しかしホントに美人ばったかだな・・・)と

どうにも時代にあっていないというか、
主人公の空虚さもアマちょろく、見ていてつらい(苦笑)


ただ映像はすごく綺麗!
だってエマニュエル・ルベツキだもん。

彼のカメラが美女たちを追い、その美の瞬間をここに焼き付けた。
それは価値あることだと感じます。


まあ「トゥ・ザ・ワンダー」でもこの二人、
タッグを組んでるんですけどね。

名作「ツリー・オブ・ライフ」(11年)も基本構造は同じだと思うんですが

御大にはもっと
お話を作ってほしいよー。

そうそう「ダ・ヴィンチ・コード」を最近復習してたんで
聖杯=女性のことだとわかりました。


★12/23(金・祝)から全国で公開。

「聖杯たちの騎士」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トゥ・ザ・ワンダー

2013-08-06 23:30:00 | た行

テレンス・マリック監督の最新作です。


「トゥ・ザ・ワンダー」51点★★☆


************************

アメリカ人のニール(ベン・アフレック)は
フランスで娘持ちのマリーナ(オルガ・キュリレンコ)と出会い、恋に落ちる。

マリーナは娘を連れて
ニールとアメリカに渡り、
オクラホマの小さな町で暮らし始める。

その町では神父(ハビエル・バルデム)が
周囲の人々の世話を焼いている。

だが月日が経ち、
ニールとマリーナの間にあった情熱は、
少しずつ冷えはじめていく――。

************************

“生きる伝説”と言われる
テレンス・マリック監督の新作です。

「天国の日々」はもちろん
前作「ツリー・オブ・ライフ」は「すげえ!」と思いました。
しかし本作は……

壮大な暴走?(笑)

「愛のなんたるか」を描いており、
その感触、スキンシップを感じるおもしろい映画ではあります。

映像は壮大に美しいし。

しかしまあ
ひたすら男女のイチャイチャを見せられているとも言えるし
美女オルガ・キュリレンコのイメージビデオとも言える(失笑)

「なぜ、愛は冷めてしまうのか?」という
人類の壮大なるテーマを扱っているんだけど

そこんところをリアリズムでグッとこさせる良作は
特に最近、多くあるので
「ブルー・バレンタイン」とか
「テイク・ディス・ワルツ」とかね)

そのなかでこれは
もひとつ、こっちにやってこない。

愛は自分を包み込んでくれる“安心”であるけれど
それは同時に、不安や怖れを生むものでもある――というメッセージは
すごく納得できましたけどね~。


★8/9(金)からTOHOシネマズ・シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「トゥ・ザ・ワンダー」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする