ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

立ち去った女

2017-10-12 23:57:52 | た行

上映時間、228分!
でもこの監督にしては「異例の短さ」なんだそうです。


「立ち去った女」71点★★★★


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1997年、フィリピン。

かつて小学校教師だったホラシア(チャロ・サントス・コンシオ)は
30年前に殺人罪で逮捕された。

だが
30年、刑務所で静かに過ごしてきた彼女に
受刑者仲間で親友のベトラ(シャイマン・センテネラ・ブエンカミノ)が
思いがけない告白をする。

事件の真犯人は実は自分で、
彼女に罪を着せたのは
ホラシアのかつての恋人ロドリゴ(マイケル・デ・メサ)だというのだ。

釈放されたホラシアはロドリゴに復讐を誓い
彼の住む街へとやってくるが――。


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ベネチア、ベルリン、カンヌをはじめ
世界の映画賞を席巻している
“怪物的映画作家”ラヴ・ディアス監督の、日本初公開作。

30年を刑務所へ過ごしたのち
無実で釈放された女が復讐に出る――というストーリーで
起承転結ドラマがバリバリ……な感じですが

これが、絶句モノに静かなんですよ(笑)


まず、冒頭から
モノクロの画面の美しさに驚きます。

228分!もあるんだけど、
その割には
何ひとつ説明しない簡潔さ。
延々と続く長回し。

美しいんだけど
さすがに長い……とジリジリし始めた中盤くらいで
しかし、ジワジワと引き込まれていく。

この気持ちの転調が、本当に不思議。


静かに低音で、ボディーに効いてくる感じで
画面から目が離せなくなる。

そうなると、動かない画面のなかで
さまざまなものがアイコニックにみえてくるんですね。

そして後半の
驚きの、しかしグッとくる展開。

なんというのでしょうか、
超分厚くて敬遠しがちだけど、
読んでおいたほうがいい本のような。

ラヴ・ディアス監督の作品は
上映時間8時間、9時間は当たり前で
11時間越え、というものもあるそうで

4時間を切る本作は
「異例の短さ」らしいんです。

ほか作品に耐えられるかどうか微妙ですが
8時間ならいけるかも、チャレンジしたい、と思えるほど
この世界は、奇妙に美しいのでした。


★10/14(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「立ち去った女」公式サイト
コメント
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