アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ハムレット・ゴーズ・ビジネス

2005-06-20 07:33:28 | 映画
『ハムレット・ゴーズ・ビジネス』 アキ・カウリスマキ監督   ☆☆☆☆

 カウリスマキ監督の映画をDVDで鑑賞。これは『マッチ工場の少女』とカップリングされているDVDで、『マッチ少女』を観て満足した私はまだこっちを観ていなかった。
 この映画はほぼ完全な『ハムレット』の翻案で、名前もハムレットやオフィーリアとシェークスピアのままだ。舞台は現代の大企業に移しかえられている。

 カウリスマキの映画はいつもそうだが簡潔でぶっきらぼうだ。徹底的に描写が切り詰められる。だから状況はリアリズムというよりデフォルメされ、抽象化される。俳優の動きも時々様式めいて見えたりする。そういうスタイルでブラックなストーリーをやると必然的にブラック・ユーモアとなる。本作でもそういうカウリスマキの特色は遺憾なく発揮されている。『ハムレット』の現代劇というアイデアからしてすでに演劇的パロディ的性格を帯びる宿命にあるようなもので、カウリスマキにぴったりの題材だ。

 この映画はモノクロである。いきなり夜のシーンから始まるが、まず強烈な光と影のコントラストが目を引く。簡素な舞台劇のような映像が美しい。
 ストーリーが進むにつれ、中世の城を舞台にした『ハムレット』が現代の企業に置き換えられていることの面白さがだんだん分かってくる。中世のような厳しい身分差がない現代において、シェークスピア劇のドラマを成立させるにはなかなか難しいものがあると思うが、この映画を観ていると現代の大企業の大株主や役員、使用人という立場の差が中世の身分制度ほどに劇的なものとして、拡大して感じられる仕組みになっている。つまりカウリスマキのリアリスティックというより寓話的な手法が、現代の会社機構というものを寓話的に拡大し、どことなく幻想的なものに見せてしまう。だからそこで殺人、復讐、決闘、という中世的なドラマが繰り広げられることが可能になる。
 クライマックスであるハムレットの復讐シーンは圧巻だ。突き放したようなカウリスマキ・タッチが最大限の効果を上げている。ハムレットがオフィーリアの兄貴の頭にでかいラジオを叩きつける。衝撃でスイッチが入りロックンロールが流れ始める。オフィーリアの兄貴(名前忘れた)は顔の代わりにラジオをつけた不恰好なロボットのように両手を振り回しながら崩れ落ちる。ハムレットは拳銃を取り出しクラウスに銃弾を叩き込む。クラウスは血を流しながら息絶える。
 
 このノワールな感覚は北野武に通じるものがあるな。それにしても、会議室で沈黙のまま手渡されるアヒルの玩具には笑った。あのノワールな画面で「ピー」と鳴るアヒル。カウリスマキ最高。
 

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