アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

下町ロケット

2011-09-10 01:01:40 | 
『下町ロケット』 池井戸潤   ☆☆☆☆☆

 日本に帰った時に買った本を読了。直木賞受賞作品。面白い。

 主人公は挫折経験がある技術者で、親父の町工場・佃製作所を継いで社長をやっている。技術力は折り紙付きだが、小さな会社なので大企業に無理難題を押し付けられる立場だ。冒頭、いきなり部品の納入先である大企業に唐突な取引終了を宣言される。話が違うと食い下がっても相手にされない。なんとかしないと一年後には会社が潰れる。と思ったら今度は同業の大企業からいきなり特許侵害で訴えられる。この大企業は、こうやっていちゃもんつけて訴訟を長引かせてしまいには買収するという戦略が十八番の、ろくでもない企業なのだった。駆けずり回ってやっといい弁護士を探してくると、今度はメインバンクが手を引くと言って来る。うちの技術力は知っているくせになぜだと詰め寄っても、そもそも会社の存続が無理だろうと冷たくつき離されるだけ。まさに四面楚歌、八方ふさがりである。

 という絶体絶命の状況から、佃製作所の社長率いるチームが巻き返していくという物語。これは鉄板である。痛快だ。私は特許や経営には詳しくないが、読んでいてプロフェッショナルの駆け引きの面白さをきちんと味わわせてくれる。情報をきちんと咀嚼して物語に活かしているという感じがする。それでいて、非常に読みやすい。アクもなく、さわやかで、テンポもいい。そういうところは東野圭吾に似た感触がある。それに佃製作所に仕掛けてくる大企業側の連中がいかにも憎たらしいので、感情移入しやすい。高品質なエンターテインメントだ。

 前半は特許裁判がメインで、このまま最後まで裁判で押すのかと思っていたら、後半はまた別の展開になる。佃社長たちが宇宙事業を一手に握る大企業に、ロケットの命綱ともいえるバルブを納入しようとチャレンジする話になるのだ。ここでももちろんさまざまな問題が発生してハラハラさせられるが、それ以上に、大企業側が突きつけてくる「不合格という結論ありきのテスト」に苦しみ、誇りをズタズタにされながら逆襲する佃製作所チームのがんばりに胸が熱くなる。

 とにかく読後感がさわやかだ。万人にお薦めできる。特に、仲間たちと何かを達成していくというパターンが好きな人にはたまらないだろう。



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2 コメント

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読みたい! (なお)
2011-09-11 12:23:20
はじめまして。ずっとずっとこのブログのファンですが、今回は思い切ってコメントを。
的確で、文章そのものもとっても面白い、こちらのレビューを信頼してます!
私は本好きが高じて、一年ほど前から小さな読書会を主宰しています。
純文学の読書会なので、アンドレ・ジイドやら梶井基次郎やらを課題図書にしてやっていますが、普段読むのは8割が娯楽小説ですので、今回ご紹介のこの本も、絶対読むわ!と意気込んでいます。
「情報をきちんと咀嚼して物語に活かしている」のって、はっきりそう感じられるまでのものは、ありそうでそんなにはないんですよね。読むのが楽しみです。
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ありがとうございます! (ego_dance)
2011-09-13 13:10:44
なおさん、こんにちは。
こんなブログをずっとずっと読んで下さってるなんて、あなたは何と素晴らしい方なのでしょう。私の脳裏には菩薩のような御姿が浮かんで参ります。伏して御礼申し上げます。

『下町ロケット』は面白かったです。すごくバランスがとれていて端正な感じですね。ぜひ読んでみて下さい。
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