『少年十字軍』 マルセル・シュウォッブ ☆☆☆☆☆
再読。短編集である。シュウォッブはポーやリラダン系統の絢爛たる幻想の紡ぎ手で大好きな作家の一人だが、これも絶版本だ。収録作品は以下の通り。
「黄金仮面の王」
「大地炎上」
「ペスト」
「眠れる都市」
「〇八一号列車」
「リリス」
「阿片の扉」
「卵物語」
「少年十字軍」
シュウォッブの幻想譚の特徴としては、まず天変地異というか大規模なカタストロフへの嗜好が強く見られること。「大地炎上」はまさに世界の滅亡を扱った短篇だし、「ペスト」ではペスト、「〇八一号列車」ではコレラが跳梁する世界が描かれる。あからさまに天変地異が出てこない他の短篇でも、どこか終末幻想のようなものが漂っていて、独特の世界を形作っている。渋澤が絶賛するモンス・デシデリオの絵画に似た雰囲気を感じる。
それからそれぞれの短篇がほぼ一個のイメージを核に簡潔に成り立っていて、凝ったプロットがあまりない、というところにも注目したい。比較的プロットが複雑なのは最初の「黄金仮面の王」だが、他は「大地炎上」にしろ「ペスト」にしろ「眠れる都市」にしろ「〇八一号列車」にしろ「リリス」にしろ、とてもシンプルな物語である。起承転結でいうと起承かせいぜい起承転、ぐらいで、どんでん返しや伏線の余地もなく、つまり娯楽小説のようにストーリー展開で読ませようとしていない。たとえば「大地炎上」は隕石が降り大地が炎上する滅亡の世界で少年と少女が舟で海に漕ぎ出し、燃え上がる世界を見ながら愛を交わす、というそれだけの話だ。「眠れる都市」はある島に上陸した海賊が眠る都市を発見して恐ろしさのあまり逃げ出す、というだけだし、有名な「〇八一号列車」はある夜機関士が自分と自分が乗った列車のドッペンゲンガーを見る、というだけの話。とにかく印象に残るのは核となる強烈なイメージで、夾雑物がない。それがこの一種独特の強烈な読後感、酩酊感をもたらしている。「大地炎上」なんてSF的なアイデアだが、凡庸なSF作家がこれを書いたら少年と少女の出会いと苦難やら何やら、常套的なストーリーを付け足してしまい、その結果カタストロフそのものと燃え上がる世界のヴィジョンは背景に後退し、弱まってしまうだろう。
表題作の「少年十字軍」は比較的長く、途中で話者が交代していく仕掛けがあるが、結局托鉢僧や法王や子供が語る断片的なイメージが連なっているだけで、やはり全体として込み入ったプロットを形成することはない。
こういう強烈なイメージと最小限のプロットで短篇を構成する手法はポーに似ていて、完璧に閉じた小宇宙という作品の印象も似通っている。ただ本書を通して読むと緻密きわまりないポーの世界に比べ、どこか大胆で才走ったところがある。まあそれも当然で、シュウォッブがこれらの短篇を書いたのはすべて二十代の青年期なのだ。しかしこの老成した文体、絢爛たる幻想、博識からはとてもそうとは思えない。あとがきにピエール・シャンピオンの言葉が引用されているが、まったくその通りと言うしかない。
「マルセル・シュウォッブは幼年期をもたなかった。幼にしてすでに大人であり、青年ともなればもう決定的存在、完璧な芸術家である」
再読。短編集である。シュウォッブはポーやリラダン系統の絢爛たる幻想の紡ぎ手で大好きな作家の一人だが、これも絶版本だ。収録作品は以下の通り。
「黄金仮面の王」
「大地炎上」
「ペスト」
「眠れる都市」
「〇八一号列車」
「リリス」
「阿片の扉」
「卵物語」
「少年十字軍」
シュウォッブの幻想譚の特徴としては、まず天変地異というか大規模なカタストロフへの嗜好が強く見られること。「大地炎上」はまさに世界の滅亡を扱った短篇だし、「ペスト」ではペスト、「〇八一号列車」ではコレラが跳梁する世界が描かれる。あからさまに天変地異が出てこない他の短篇でも、どこか終末幻想のようなものが漂っていて、独特の世界を形作っている。渋澤が絶賛するモンス・デシデリオの絵画に似た雰囲気を感じる。
それからそれぞれの短篇がほぼ一個のイメージを核に簡潔に成り立っていて、凝ったプロットがあまりない、というところにも注目したい。比較的プロットが複雑なのは最初の「黄金仮面の王」だが、他は「大地炎上」にしろ「ペスト」にしろ「眠れる都市」にしろ「〇八一号列車」にしろ「リリス」にしろ、とてもシンプルな物語である。起承転結でいうと起承かせいぜい起承転、ぐらいで、どんでん返しや伏線の余地もなく、つまり娯楽小説のようにストーリー展開で読ませようとしていない。たとえば「大地炎上」は隕石が降り大地が炎上する滅亡の世界で少年と少女が舟で海に漕ぎ出し、燃え上がる世界を見ながら愛を交わす、というそれだけの話だ。「眠れる都市」はある島に上陸した海賊が眠る都市を発見して恐ろしさのあまり逃げ出す、というだけだし、有名な「〇八一号列車」はある夜機関士が自分と自分が乗った列車のドッペンゲンガーを見る、というだけの話。とにかく印象に残るのは核となる強烈なイメージで、夾雑物がない。それがこの一種独特の強烈な読後感、酩酊感をもたらしている。「大地炎上」なんてSF的なアイデアだが、凡庸なSF作家がこれを書いたら少年と少女の出会いと苦難やら何やら、常套的なストーリーを付け足してしまい、その結果カタストロフそのものと燃え上がる世界のヴィジョンは背景に後退し、弱まってしまうだろう。
表題作の「少年十字軍」は比較的長く、途中で話者が交代していく仕掛けがあるが、結局托鉢僧や法王や子供が語る断片的なイメージが連なっているだけで、やはり全体として込み入ったプロットを形成することはない。
こういう強烈なイメージと最小限のプロットで短篇を構成する手法はポーに似ていて、完璧に閉じた小宇宙という作品の印象も似通っている。ただ本書を通して読むと緻密きわまりないポーの世界に比べ、どこか大胆で才走ったところがある。まあそれも当然で、シュウォッブがこれらの短篇を書いたのはすべて二十代の青年期なのだ。しかしこの老成した文体、絢爛たる幻想、博識からはとてもそうとは思えない。あとがきにピエール・シャンピオンの言葉が引用されているが、まったくその通りと言うしかない。
「マルセル・シュウォッブは幼年期をもたなかった。幼にしてすでに大人であり、青年ともなればもう決定的存在、完璧な芸術家である」
ぼくのお気に入りは、その「〇八一号列車」と「黄金仮面の王」と「ペスト」です。
あと、多田智満子さんの訳は名訳ですね。この人の訳した別の小説も一冊だけ読んだことがありますが、やはりすばらしかったです。荘重で格調が高い。翻訳者というのは日本語能力が命ですね。
多田智満子さんはフランスの幻想文学をよく訳してる人ですよね。ユルスナールとか。『東方綺譚』なんかも格調高くて大好きです。
ちなみに本日『架空の伝記』のレビューをupしましたが、これも絶版。シュウォッブ大好きな私としては全集を出して欲しいです(安価な文庫本で)。
今しばらくはツヴァイクを読む予定ですが、その後、シュオブを読んで、感想をブログに書きたいと思います。
もしよかったら、相互リンクをお願いいたします。
ところで恥ずかしながらこれまで相互リンクというものをやったことがないのですが、どのようにすればよいのでしょうか。anatorさんのブログへのリンクをこちらのBookmarkに追加すれば良いのでしょうか? すみませんがご教示いただければ幸いです…。
おっしゃるとおりです(笑)。
今後ともよろしくお願いします。