【序】
この物語に意味はない。
多くの人間の生と死と同様に。
【壱】
十人の人間がいた。彼らは死に至る病を患った。
特効薬はこの世に一本。助かるのは一人だけ。
十人は議論を始めた。つまりは自分の有用性について語り始めた。
一人の大金持ちは自らの築いた富を語った。
一人の医者は自分が救ってきた患者の数を語った。
一人の吟遊詩人は歌によって与えた感動を語った。
一人の政治家は自分がいかに国に尽くしてきたかを語った。
一人の母親は自分を待つ子供について語った。
一人の宗教家は自分が選ばれし約束の民なのだと語った。
一人の若者が自分がこれから経験するであろう希望の未来を語った。
一人の救世主は私が生きることで千の国と万の民が救われるだろうと語った。
一人の死刑囚はもし自分が助からないのであればここにいる全ての人間を殺すだろうと語った。
九人の人間はかくして自らの有用性を語った。
ただ一人、部屋の隅にいた男だけが何も語らずにいた。
【弐】
彼らは三日三晩語り続けた。
時に相手を罵り時に相手を嘲笑いながら自分のことを話した。
そうして更に一月が経った。
話し合いに結末は見えなかった。誰もが生きたいと願っていた。
心は疲れていた。誰もが誰かを憎んでいた。
理由などなしに。生きたいという欲求がただ他人の死を願った。
一人語らぬ男が口を開いたのはそれから更に一月後のことだった。
【参】
男の声を聞いたのはみな初めてだった。
彼はこの状況に遭って一人語らぬ人だったから。
低い声だった。
「私は、これから死にます」
男は言った。死ぬと言った。
九人は驚いた。そして同時に悲しみ、喜んだ。
生の欲求は人の死を喜ぶ程に肥大化していた。
「私はこれから死にます」
男は繰り返し語った。そして残った九人に頼みがあると言った。
「死人に口なしと言います。だからみなさんが約束を破ったとしても私は何も出来ませんし出来ても何もしないでしょう。
これはお願い事なのですから。」
男はそう言って一人一人に語りかけた。
「お金持ちのあなたへ。もしあなたが生き残ったならそのお金で私達に小さなお墓を立てて下さい」
「お医者様のあなたへ。もしあなたが生き残ったならその手でさらに多くの人を救ってください」
「歌うたいのあなたへ。もしあなたが生き残ったなら私達の歌を唄ってください」
「政治家のあなたへ。もしあなたが生き残ったならあなたの愛した国をこれからも愛してください」
「母親のあなたへ。もしあなたが生き残ったならお子さんより長く生きてあげてください」
「神を信じるあなたへ。もしあなたが生き残ったなら私達のためにあなたの神に祈りを捧げてください」
「まだ若いあなたへ。もしあなたが生き残ったならあなたの道を見つけて下さい」
「救い主のあなたへ。もしあなたが生き残ったなら救いを求める人を抱きしめてあげてください」
「優しかったあなたへ。もしあなたが生き残ったなら私はもう誰も憎まないで生きて欲しい」
何も語らなかった男は低く優しい声で九人に声をかけた。
そして一度優しく笑い目を閉じた。
かくして何も語らぬ男は何も語れぬ男となった。
更に一月が過ぎた。誰も語らぬ一月だった。
【四】
最初に言葉を吐いたのは金持ちだった
彼は八人に100ドル札を一枚ずつ渡してから旅立った。
「時は金なり」
彼はその一言のあと、死んだ
次に動いたのは医者だった
彼はかつて自分の受け持った一人の患者宛てに手紙を書いた
彼が初めて受け持ち死なせてしまった患者だった
「それでは、身体に気をつけて」
彼は七人に医者らしい一言を送り手紙を抱いたまま逝った
吟遊詩人は七日かけて歌をつくった
それは愛の歌であり 家族の歌であり 彼の歌だった
歌は終わり彼もまた死んだ
五人は彼の墓前に彼の歌を捧げた
政治家は一冊の本を書き上げた
国を愛した男の本だった
タイトルをつけぬままに彼は生涯を終えた
四人は話し合った結果その本に題をつけた
題名は「私の愛した国」だった
母親は小さな花を育てそれを束ねて飾りを編んだ
「お願いします」
それだけ告げて彼女は逝った
宗教家は最後まで祈りを捧げた
「私と私の友人に祝福あれ」
やすらか笑顔であった
「悔しいなぁ・・・」
若者は残念そうに、本当に残念そうに笑って死んだ
救いの人は亡骸を抱き涙を流して死んでいった
最後に残ったのは一人の死刑囚だった
彼はただ「馬鹿なやつらだ」と呟き薬を飲んだ
そうして小さな花の首飾りを手に取りどこかへと旅立った
【終】
この物語に意味はない。
多くの人間の生と死と同様に。
だが貴方がこの物語に意味を与えてやることは出来る。
多くの人間の生と死と同様に。
この物語に意味はない。
多くの人間の生と死と同様に。
【壱】
十人の人間がいた。彼らは死に至る病を患った。
特効薬はこの世に一本。助かるのは一人だけ。
十人は議論を始めた。つまりは自分の有用性について語り始めた。
一人の大金持ちは自らの築いた富を語った。
一人の医者は自分が救ってきた患者の数を語った。
一人の吟遊詩人は歌によって与えた感動を語った。
一人の政治家は自分がいかに国に尽くしてきたかを語った。
一人の母親は自分を待つ子供について語った。
一人の宗教家は自分が選ばれし約束の民なのだと語った。
一人の若者が自分がこれから経験するであろう希望の未来を語った。
一人の救世主は私が生きることで千の国と万の民が救われるだろうと語った。
一人の死刑囚はもし自分が助からないのであればここにいる全ての人間を殺すだろうと語った。
九人の人間はかくして自らの有用性を語った。
ただ一人、部屋の隅にいた男だけが何も語らずにいた。
【弐】
彼らは三日三晩語り続けた。
時に相手を罵り時に相手を嘲笑いながら自分のことを話した。
そうして更に一月が経った。
話し合いに結末は見えなかった。誰もが生きたいと願っていた。
心は疲れていた。誰もが誰かを憎んでいた。
理由などなしに。生きたいという欲求がただ他人の死を願った。
一人語らぬ男が口を開いたのはそれから更に一月後のことだった。
【参】
男の声を聞いたのはみな初めてだった。
彼はこの状況に遭って一人語らぬ人だったから。
低い声だった。
「私は、これから死にます」
男は言った。死ぬと言った。
九人は驚いた。そして同時に悲しみ、喜んだ。
生の欲求は人の死を喜ぶ程に肥大化していた。
「私はこれから死にます」
男は繰り返し語った。そして残った九人に頼みがあると言った。
「死人に口なしと言います。だからみなさんが約束を破ったとしても私は何も出来ませんし出来ても何もしないでしょう。
これはお願い事なのですから。」
男はそう言って一人一人に語りかけた。
「お金持ちのあなたへ。もしあなたが生き残ったならそのお金で私達に小さなお墓を立てて下さい」
「お医者様のあなたへ。もしあなたが生き残ったならその手でさらに多くの人を救ってください」
「歌うたいのあなたへ。もしあなたが生き残ったなら私達の歌を唄ってください」
「政治家のあなたへ。もしあなたが生き残ったならあなたの愛した国をこれからも愛してください」
「母親のあなたへ。もしあなたが生き残ったならお子さんより長く生きてあげてください」
「神を信じるあなたへ。もしあなたが生き残ったなら私達のためにあなたの神に祈りを捧げてください」
「まだ若いあなたへ。もしあなたが生き残ったならあなたの道を見つけて下さい」
「救い主のあなたへ。もしあなたが生き残ったなら救いを求める人を抱きしめてあげてください」
「優しかったあなたへ。もしあなたが生き残ったなら私はもう誰も憎まないで生きて欲しい」
何も語らなかった男は低く優しい声で九人に声をかけた。
そして一度優しく笑い目を閉じた。
かくして何も語らぬ男は何も語れぬ男となった。
更に一月が過ぎた。誰も語らぬ一月だった。
【四】
最初に言葉を吐いたのは金持ちだった
彼は八人に100ドル札を一枚ずつ渡してから旅立った。
「時は金なり」
彼はその一言のあと、死んだ
次に動いたのは医者だった
彼はかつて自分の受け持った一人の患者宛てに手紙を書いた
彼が初めて受け持ち死なせてしまった患者だった
「それでは、身体に気をつけて」
彼は七人に医者らしい一言を送り手紙を抱いたまま逝った
吟遊詩人は七日かけて歌をつくった
それは愛の歌であり 家族の歌であり 彼の歌だった
歌は終わり彼もまた死んだ
五人は彼の墓前に彼の歌を捧げた
政治家は一冊の本を書き上げた
国を愛した男の本だった
タイトルをつけぬままに彼は生涯を終えた
四人は話し合った結果その本に題をつけた
題名は「私の愛した国」だった
母親は小さな花を育てそれを束ねて飾りを編んだ
「お願いします」
それだけ告げて彼女は逝った
宗教家は最後まで祈りを捧げた
「私と私の友人に祝福あれ」
やすらか笑顔であった
「悔しいなぁ・・・」
若者は残念そうに、本当に残念そうに笑って死んだ
救いの人は亡骸を抱き涙を流して死んでいった
最後に残ったのは一人の死刑囚だった
彼はただ「馬鹿なやつらだ」と呟き薬を飲んだ
そうして小さな花の首飾りを手に取りどこかへと旅立った
【終】
この物語に意味はない。
多くの人間の生と死と同様に。
だが貴方がこの物語に意味を与えてやることは出来る。
多くの人間の生と死と同様に。
実は頻繁に来ています。
これすごく良いんですけど・・・!
コピーしたいんですが(笑)
空鶴と砂蜥蜴さんの文章は
甘くなく響く感じが好きです。
これ以外に
どう表現したらいいかわかんないんですが(汗)
コメントはどうも苦手です(汗)
「BLOG FRIENDS」も
読ませていただきました。
1FANなので
これからもちょくちょく寄らせていただきます。
でも全体から感じる事は
スナトカゲーンの自分の語り口調からの脱皮のあがき
みたいな感じがする。
錯覚かもわからんのだけど。
コメントありがとうございます。
個人的にはイマイチの作品でしたが気に入って頂けたようで幸いです。
私もコメントするのは苦手です。
特にコメントしてくれた人へのコメントが。
「面白いですね」と書いて貰えるのはすごく嬉しいんですけど返答って
「ありがとうございます」ぐらいしか浮かばないんですよね。
ちなみにこの作品はブログフレンズ用に書いて途中でボツった作品です。
確かにそうかも。
ブログフレンズ用に書いてた作品で納得できるものが書けなくてとにかく色々書いてた時のヤツだから。
「砂蜥蜴さんの『十人』の話、凄い感動したんですっ!」
と、ずーーーーーーーっと、そればっか(笑)。
お知らせまで。
最近オフ会多いですねー。
元気ない気味?
完成原稿よりも下書きの方が読者にウケルってのは
結構ありがちな話だったりしてw
皮はともかくあったかも分からない文才ととっくに枯渇してますデス。
はにゃんは勢いあるよね。
文章の長さと言葉選びに脳がスパークしやす。
と言った筈なのに!!(笑)
ほんとなんで、嘘じゃないですよ。
これで自分と同い年ぐらいだったら
凹むわー、って思いました(苦笑)
二瓶さんとこでちょいと見たんですが
次のフレンズの計画には参加は・・・??
もしかしたら参加しないんですかー?(泣)